プロローグ
ポーン!
『 皆様 こんにちわ 本日は 当全日の元航空のご利用いただき誠にありがとうございます。
この飛行機は、成田行き1011機でございます・・・・・』
英語のアナウンスが機内に流れシートベルトの着用を進められる。
現役を退いてはや数十年、有り余る時間と役員報酬を使い、後進国に学校と井戸の建設設置に奔走する日々を送るが、齢85歳を超え、体力と頭の巡りの鈍さに随分衰えを感じてきた。
「 さて、帰国したらライトノベルの新刊が出ておるじゃろう・・・・しばらくは未読のネット小説と異世界物の小説に浸って過ごすかのぉ・・・・」
そう呟いた所で自分の体に異変を感じた。
ビリリ、体の中で何かが裂ける感触が走り抜ける、それを追うように全身を悪寒が襲う。
ビジネスクラスのシートに座る、大石泰道の命の終焉を告げる異変であった。
・・・・
震える手を上げ、CAに体調不良を伝えるが、自分の予測が正しければ助からないだろう。
大動脈破裂、日ごろから血圧が高く肥満体系でおなかはポッコリ。
大量の薬を常に飲み続けていたが、ついにその時が来たらしい。
血の気が引いてゆくのが分かる。まるで座席に沈んでゆく不快な感触。
顔色が急激に青ざめ始め、CAがあわただしく動き始める・・・・
・・・・やり残したことがいっぱいある。 小説の続きも読みたい。
走馬灯のようにいろんな過去の事、残された家族・・・・遺言は書いてあるからよい・・・・
願わくば、異世界で第二の人生を、転生でチートを、テンプレでいろいろやらかしたい・・・・
血の気が引いてゆく中、見知らぬ人々が駆け付け、脈と図り、聴診器らしきものを胸にあてられるが、抗う気力が失せてゆく。
『 神よ!おられるならば、この老人の願いを!!願わくば魔法が使える異世界転生を!!』
薄れゆく意識の中渾身の気力を使い、そう願い、世界が暗転した。
・・・・
夢であろうかすべてが真っ白な世界。
目の前に真っ黒なパソコンのモニターらしき物が現れる。
キーボードは見当たらない。
黒い画面には 緑色のアンダーバーが点滅している。
その画面に手を伸ばすと、弾かれる様に画面に文字化けしたカタカナや数字がすさまじい勢いで上えと流れてゆく。
頭の中で声が聞こえる。
『対象個体補足。個体全記録ヲ複写完了』
『個体ノ概念ニ該当スルエリアヲ検索中・・・・』
文字化けのスクロールが止まると、アンダーバーが数字を表し、凄まじい勢いで数字が膨らんでゆく。
『該当エリア 29678301ヲ 確認、内18678510ヲ 生存不適合トシ除外 』
『個体受容体ノ確認開始・・・・』
ごっそり減った数字から、更にカウントダウンするかの如く凄まじい勢いで減ってゆく・・・・
・・・・・
数字が残り5を表した時点でカウントダウンが止まった。
アンダーバーが再び現れ、文字化けした表示が示される。
・・・・
” 性別ヲ選ソデクダψ (男セイ・女体) ”
一瞬、女性でもありかと考えたが、男を選ぶように念じると、数字が2へと変わる。
” 25サイ ダイン性 意識不メイ重傷ダイ ・・・・・ ”
” 胎児 月齢3カゲヅ ・・・・・ ”
25歳という若さには魅力を感じたが、重症で意識不明らしい。
どんな後遺症があるかもわからない。それよりも、まだ生まれでいない胎児をと強く念じる。
「 また赤子からの人生、これこそ転生じゃな・・・・テンプレでは、これで決まりじゃ!」
そう念じると、再びすさまじい勢いで文字化けの数字がスクロールしてゆく・・・・
再び頭の中に声が聞こえる。
『 リンクパス接続開始・・・・成功 個体ノ記憶転送・・・・失敗、リトライ・・・・失敗 』
『 次候補、外部記憶媒体ヲ構築・・・・成功、リンクパスニ並列・・・・成功』
『 主個体死亡ヲ確認・・・・複写データーヲマスターニ変更・・・・成功』
『 五感リンク、魔法受領体構築オヨビリンクニ・・・成功』
『 リンクヲ維持シタママ 外部記憶媒体ニ意識ヲ転送開始・・・・』
感覚が砂時計のような細い場所を抜け、違う場所へと流れだすのを感じる。
永遠と続くと思われたその流れが急に緩やかになり、ぴたりと止まる。
『 願イハ聞キ届ケタ、旧個体大石泰三ニ素晴ラシキ第二ノ人生ヲ・・・・』
その言葉を最後に、ぷつりと世界が閉じた。