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チョコは、甘い恋が好き?  作者: 風音沙矢
1/2

チョコは、甘い恋が好き 01

「バレンタインデー」乙女にとって、魔法のような一日

 甘い恋を、夢見て来た。

 夢見て来たのだ。

 この10年!


 一年に一度のバレンタインに、誰にも負けないチョコレートを、恋する男子に渡すために、研究に研究を重ねて、幼馴染みで一つ下の、浩紀ひろきに,毎月毎月、試食してもらって来た。浩紀は、毎回

「旨い! 今年は行けるよ!」

って、ほめてくれていたのに、恋は実ることなく5年が過ぎ、益々美味しいチョコレートを作るために専門学校へ行き、恋人いない歴20年のまま、私は、より美味しいチョコレートを作るために、ホテルに就職して、厳しい修行を重ね、評判のパティシエとなり、おかげさまで、この1月に、自分の店をオープンさせた。

 ル・モンディアル・デ・ザール・シュクレで入賞した経歴が功を奏して、連日、大盛況。バレンタインデーが近づいて、アルバイトの子も雇っていたが、あまりにも大繁盛で、うれしい悲鳴を上げていた。

 大学院生になっている幼馴染の浩紀が、今の時期暇だからと手伝ってくれて、本当に助かっていたが、バレンタインデーの今日、早く来て欲しい理由は、それだけではなかった。先ほど、バレンタインの為の新作ができた。

「浩紀に、このチョコレート、食べてもらいたい。」



「Amour doux (アムール ドゥース)」

「甘い恋っだって…」

「まったく、寂しいね。自分では、恋人ができないままなくせに、」

 店の看板を見ながら苦い顔をして、俺は立っている。

 店で働く子たちは、みんな、あさ美のチョコの大ファンだ。あさ美が独立すると聞いて、それまでの仕事を辞めてもいいから、店で働きたいと言ってくれた女性たちばかりだ。

 あさ美は、彼女たちのカリスマなのだ。傷ついた心を癒してくれたチョコ。勇気を出させてくれたチョコ。幸せをより深く感じさせてくれたチョコ。みんな、あさ美のチョコのお陰で、今、幸せに生きていられると信じているらしい。生き生きと、そして優しく、お客と接するから、チョコを買いに来ただけの女性までをも巻き込んで、お店から幸せオーラが虹のように輝いている。

 やれやれ、ふーとため息をついて、バレンタインデー当日、最後の大賑わいの中、俺は、店に入っていった。

「あっ、浩紀さん、今日も、ありがとうございます。」

「厨房で、あさ美さんが待ってますよ」

「みんな、ご苦労様。あと少しだから、頑張ってね。」



 俺は中学に入ったころ、小学生の時は意識していなかった、隣の一つ上の幼馴染、あさ美が急に女に見えて、ドキドキしだして、今まで見たいにじゃれることができなくなっていた。好きとか嫌いとかではなく、ただ、何となくどう接したらいいか判らなくなっていた。

 今なら、思春期だね。くらいに笑ってスルー出来るけど、あの頃の俺は、あさ美を敬遠していた。普通だと、その後は、挨拶くらいしかしない、お隣さんになるもんだろうけど、あさ美は全く、そんなことはおかまいなしでの俺のところにやって来るから、意識する俺がバカのように思えて、いつの間にか、仲がいい姉弟のようになって、今に至っている。


 それは、バレンタインデーのチョコのおかげだ。

「ねえ、浩紀、食べてみて!」

と、手作りチョコレートをたくさん、俺に食べさせ、

「どう、どれか美味しいのあった?」

と、聞いてくる。事情を聴くと、今度のバレンタインに、先輩に告りたいんだと言うことだ。だが、可愛そうだが、まずかった。中坊の俺に気は使えず、正直に言った。

「あさ美、まずいよ。買ったほうが良いんじゃない?」

「でも、出来る女子は、手作りチョコを渡すのよ。私も、そうしたいの!」

その後、1か月、頑張っていたが、やっぱり、あさ美の気持ちは伝わらなかったようだ。

「1か月じゃダメね。」

「1年かけて、美味しいチョコを作れるよう頑張る!」

「前向きだ。えらい!」

と、そこまでは良かったのだが、それから、俺は毎月1回はチョコの試食をさせられるようになった。

「甘すぎないか?」

「なんか、チョコが分離しているみたいだけど」

「なんか、酔っぱらいそうだけど」


 悪戦苦闘の結果、高校へ通いだしたころには、そこそこ美味しいものを作れるようになっていたけど、連戦連敗。本当に、チョコのせいか?と疑問が生まれたけど、本人はいたって、ポジティブで一向にめげなかった。

 俺は、俺で、バレンタインには、結構、チョコをもらっていて、あさ美のように一生懸命作ったんだろうと思うと、むげに断ることができず、ずるずると付き合ってしまう優柔不断さがあり、

「どっちにするのよ!」

と、女の子たちを怒らせて、バレンタインデー終了後の1か月くらいは、平手打ちを喰らう、こわい嵐の季節を過ごすことになっていた。

「俺って、本当は優しいだけなんだけどなあ。」

その優しさが仇になって,プレイボーイと陰で噂されてしまうありさま。

「まったく、損だよ。俺は。」

あさ美とは違う理由だが、恋人いない歴の長さにおいては、競っていたかもしれない。


 あさ美は高校卒業後、お菓子の専門学校へ入った。もっともっと、美味しいチョコを作りたい一心だったらしい。

「けなげだよなあ。」

 専門学校へ行ったのなら、試食は俺でなくても良いんじゃないかと思っていたのに、やはり毎月試食は続き、高校では部活をやっていなかったので、俺は、ダイエットも兼ねて、ジムに通いだした。おかげで、腹筋が6個に割れてきた。ちょっと自慢するつもりで、あさ美に見せると、

「人間の体って、こんな風になるのね。これ、チョコのヒントにならないかな」

だって、

「そこかい!」

―若い男子の体を見て、恥じらいはないのかー!―

当然、ここでも連敗記録を伸ばす結果に。





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