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読書と眠気とゲシュタルト崩壊

作者: 黒宮杳騏

がくん、と頭が落ちて目が覚めた。

こんな時に眠気が襲ってくるなんて、と眠い目を擦りながら、それまで読み進んでいた文章を読み直す。

不明瞭な頭で何とか文字を目で辿っていても、それはシルクのリボンのようにするすると解けて、何の意味も無いただの文字の羅列になり、解けた字はばらばらとあちこちに遠退いていって、やがては意味を持たない記号に化けて消えてしまう。

いわゆる「ゲシュタルト崩壊」という奴だ。


本を読みながら寝てしまうのが気持ち良いという人もいるだろうが、個人的には好きではない。

自分がどこまで読んだのか、そしてどこからが夢でどこからが現実だったのか、訳が分からなくなるからだ。


小さい頃は本を読むのが好きで、家にある本を片っ端から読んでいた。読む本が見つからなくて、決して子供向けではない「躾」などについて書かれたよく分からない教育書にも手を出してみた事もあるが、それは内容が難しい上に小学校低学年の知識では読めない漢字ばかりで諦めた。

家の中にある本を探しても漢字が読めなくて挫折する事が多くなり、段々と読書の時間が減っていった。

今となっては、お気に入りのシリーズ物か、好きな作家の作品以外は殆ど読まない。


一般的に「読書好き」というと作文も得意という印象があるが、自分は作文が非常に苦手だった。

夏休みの宿題にあった読書感想文も、何をどうやって書けばいいのか分からず、小学生の頃は「何がどうなった結果こうなりました。楽しかったです。」というような箇条書きの感想文を毎年提出していた。

現在も読書感想文を書くのは相変わらず苦手で、どんなに壮大な物語も「楽しかったです」で終わらせてしまう語彙力の無さもあり、あれこれと手書きで「お勧め書籍」のポップを作る書店員には絶対に向いていない。

書店でデザインも文もいいポップを見かけると、「これ作った店員さん凄いなぁ」と店員さんに心の中で拍手を送っている。

まあ、実際にその本を買うかどうかは別だが。


書店へ行くと、近くに誰もいないのを確認してから子供向けのコーナーを覗いて、ひらがなの絵本でわざとゲシュタルト崩壊を体験する、という変な遊びをして楽しむ事がある。

例えば「あ」という文字が歪み、解けて、ゆっくりとバラバラになっていくのを眺める。そうやって頭の中で象形文字レベルまで分解されたら、次のひらがなへ進む。

家で退屈な時は、漢和辞典を引っ張り出してきて適当に開いたページの漢字を分解して楽しむのだが、一度部首が崩壊してしまうと、その部首のページの漢字は全て見た事のない、文字と言っていいのか分からない「デザイン」にしか見えなくなってしまう。

それは何らかの形で「リセット」するまで壊れたままだ。


いつものようにベッドで目が覚めれば、昨夜崩壊した筈の文字は復元され、何事もなかったかのように一日が始まる。

そして、読みかけの本を開いて話の続きを読むのだ。

どれが崩壊した文字だったのかも忘れて。

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