閑話 In case of Daiki - His First Impression
文字通り閑話です。
ダイキさんの視点で書いてみました。
おれTUEEE要素出てますかね?
この世界に入って来るやつは第一印象で分かる。
少なくともあいつー高久 昊翔 はそうだった。
友人と2ケツで頑張ってでもマシンを乗りに来る。
誘うやつは大抵レースがしたいから誘うもんだ。
例外に漏れずあいつの目はレースをする人間の目つきだった。
俺のマシンに火を入れたときに感じたこと、それは自身のマシンに火を入れる高揚感。
しかし、その視界の隅であいつらの目の色が変わった事を俺は見逃さなかった。
妹をつれてきた手前、保護者の立場を放り投げるわけにもいかないので再び、大人としての面の皮を被ってから、正面にいる二人に声を掛けた。
「多分これからコースのなか入ると思うんだが先導さ、俺やって良いかな?」
正直、先導なんてものはついでみたいなものだ。
俺はこの目の前の二人がどういった走りを魅せるのかで興味が尽きなかった。
先導をしているときに後ろで感じる威圧感。
ゆっくり流すだけでも、車両感覚の違いによる感覚のとり方やアクセルワーク、ライダーの癖など近くで見れる事によって得られる情報は多かったりするもんだ。
数少ないATVレースの楽しさを共有できるかもしれない相手、ここで春野さんに先導する権利を譲る訳にはいかない。
俺はあかりが振った冗句に軽く乗り合わせながら期待に胸を膨らませ、コースに向かった。
◇◆◇◆◇◆
(こいつは物が違う!)
やはり、といえばいいのだろうか。後ろにいるタカクという奴はデキル奴の動きをしていた。
いや、正確に言えばクロイという奴も期待通りに走れているし、妹も筋が悪くない事に驚きもした。
つまり、ここにいる三人とも初めてにしては上出来なんだ。
だが、タカクは物が違うのだ。
こいつは先ほどから正確に俺の後ろをトレースしている。
ストレートで離される事なく、コーナーでぶつかったり、極端に近づきすぎる事もなくぴったり1メートル、棒で車体を括り付けたようにつかず離れず俺のすぐ後ろを追走しているのだ。
いくらスピードレンジが遅いとはいえ、これは異常だ。
実はワザとスピードの緩急をつけていたのだがあいつはそれすらも完璧に合わせていた。
これは少なくとも全開からフルブレーキングまでの速度コントロールがかなり高い水準で行え、しかもライン取りも初心者離れしている、という事になる。
路上のボーリング大の石をどかしたりするときに急停止した時もあいつはぴったり1メートルで俺の後ろに停止した。
「わお、まじかよ…」
高久の呟きは俺の心境と全く同じだった。
あいつはテールトゥノーズの車間でもこの恐ろしく狭く視界の悪いコースをしっかりと見ている。
俺はあいつがレーサーに向いていることを確信した。
◇◆◇◆◇◆
あいつをレーサーと思うようになってから、こんな声が出てくるのは正直予想できていた。
「俺は…ちょっとだけ物足りないかも…」
「ほう?」
気づいたら声に出していた。
間髪入れずってやつだ。
もっと…こいつのポテンシャルを見てみたい。
限界近くの、俺と戦えるステージで…
そう思ったときには既に俺は高久を誘っていた。
そう、次のステージへ、だ。
「春野さん、あれって今、動く?ニーハンのやつ」
「誰が…ああ、高久君がのるのかい?それならまだ一台あるよ。ちょっと待っといてくれ」
そう春野さんとやり取りをして出させたのは250ccのスポーツモデルのATVだ。
レースチューンされた俺のマシンとは少し違うがさっきのもっさりした乗り心地の奴より勝手が違うはずだと思う。
高久は軽く断りを入れた後、さっとそのマシンに跨ると、すぐさま感触を確かめていた。
今までのマシンとの「違い」を体に馴染ませて使いこなそうとしているあいつは間違いなく今後、おれのライバルとなってくれる事を予感させた。
おっと…今はあいつに走らせる事が優先だったな…
俺がスタート位置でストップウォッチを手にしていると高久は見ていたのかすぐこちらにやってきた。
スタート位置についてギアをニュートラルにするのを確認して俺はは軽く声を掛けた。
「いいか!俺が肩をたたいたらスタートのマン島TT式!そこからタイム計測開始だ!妹が着たらストップウォッチ預けてお前を追いかけるから、掴まんなよ?トラブルがあったら端によって停車!すぐ向かうから車体から降りてエンジン切って待ってろ!OK!?」
あいつはは大きく頷いた。カウントダウンを始めた。目の前のアイドリングの音が高揚感をを生み出した。
「いくぞ!!スリー!ツー!ワン!」
クラッチを握り、ギアを1速にして、完全にヤル気になっている高久をゴーの合図で叩き出す様に送り出した。
「あれ?タカクくんは?」
そう疑問を口にしたのは妹のアカリダだ。
俺はこのとき完全に装備をキメて二人を待っていた。
意外と早かったのには少し驚きはしたものの、俺の共感されないぐらいの興味の行方はは残念ながら今、タカクに注がれている。
俺はストップウォッチをアカリに投げつけ、タカクの相方に世界一雑な断りを入れるように指を指してこういった。
「お前の相方と鬼ごっこやって来るわ」
黒井は一瞬、気圧された表情を見せたが、その面をすぐに不敵に取り繕うと
「あいつは、一筋縄じゃいかないっすよ?大樹さん?」
と面白い返しをしてきた。
どうやらこいつも男のロマンって奴をわかってるらしい。
「しってるよ」と黒井に短く返してアカリからスタートの合図をもらう。
「あかり!!スリーカウント!!」
「え!?あ、さん、にー?、いち、ぜろ!」
若干、戸惑いを含んでたアカリの合図で俺はタカクとの鬼ごっこを始めた。
さあ、はじめようぜ!!
◇◆◇◆◇◆
狭い小道をもうスピードで駆け抜ける。
二つしかない二輪のモーターサイクルよりはまだ安定しているが、多少といったところだ。
木の根を避ける為に左側を持ち上げ片輪走行といった凄技や地面のコブを使った低く鋭いジャンプといった技術を駆使している男の顔は進路を正確に見定めているがどこか楽しげだ。
「こいつはサイコーにブッ飛んでるぜ!」
そう、自分のマシンは最高に ブッ飛んでる。調子もいい。
だが、俺の目線はすれ違うまでコースより先、ブッ飛んだ走りを魅せるタカク ソラトに注がれていた。
名は体をあらわすというのか、あいつを視界に入れたとき、あいつは確実にこっちを見ながら下り坂を駆け下りていた。
高く、空飛ばんとする野生の鳥のような鋭い目つきは俺に狩りを連想させるような必死さを想起させた。
この「鬼ごっこ」は本当に病みつきになってしまいそうだ。
◇◆◇◆◇◆
残念ながらこの最高に楽しい遊びの時間は程なく奴のマシンのスペック不足で幕を閉じた。
割と強引な気のするレースの進め方をしながら雑談をする。聞くとどうやらアカリは奴らと同じ学校らしい。
とりあえず、こいつをけしかけてやらないとな。
「同じ高校って…おもしろい奇縁じゃねーか。おいアカリ、勉強でも見てもらえよ」
なかなかまんざらでもない表情の妹を横目で見ながら俺は次回のタイムトライアルレースの期待に胸が膨らんだ。
早く、他の奴らにも知らせないとな。
次のレース、楽しみだぜ。