ファースト インプレッション その5 last
エピローグです。
「戻ってきたか!お疲れー!」
「二人とも速いね!?」
ユーティリティモデルのATVの後部へ荷物の如く腰を掛けている黒井と律儀にゴール前でストップウォッチを握った戸部さん(妹)が走りきった俺達の元へ向かいながら声を掛けてきた。
あの、狂気的にコースへ挑んだ一周は自分にとって追いかけっこの勝敗の悔しさを上回るほど刺激的な時間で、俺は呼び掛けられて初めて二人がここに居たことに気づいた。
「いやぁ…戸部のお兄さんには手も足も出ませんでしたよ…」
「いや、タカク君も十分速かったって!?私たち、全然待ってなかったもん!」
戸部さん(妹)が興奮ぎみに声を張り上げて返事してくれた。
正直、誉められて凄く嬉しい。
「にしても…ソラトお前、完全にハマったって顔だな」
黒井は満面の笑みで俺に問いかけてきたので
「ヒーロ、お前にその台詞をそのまま返してやるよ」
と、ブーメランを投げ返してやった。
その後、もう一度コースに入って時間までATVのアクティビティーを堪能しつくしたのだった。
時間が終わってからもう一度、戸部さん兄妹に声をかけてみた。
「戸部さん、ATVって滅茶苦茶面白いですね!」
「ああ、俺も今シーズンからレースに出ようと思ってこいつを用意したってぐらいだからな。そっちは大学生だろ?お前さんも初めて見たらどうだ?」
「い、いやぁ…実は僕ら、まだ高校生で今年、受験なんですよね…」
「え!?私と同い年!?」
ヘルメットを脱ぎ捨てたプリティーな方の戸部さんが驚いた声を上げていた。
「ソラト、俺もさっき聞いたんだけどよ、どうやらマジだぜ。しかも俺らと同じ高校だってさ」
「え、戸部さん(妹)受験生なの!?そもそも同じ高校!?」
「黒井君、なんで言ってくれなかったの!?私、ずっと年上だと思ってましたよ!?」
そういいながら(私、怒ってますっ)アピールをしている戸部さん(妹)は見ていてほほえましいほど可愛いと思います。
そんな可愛らしい様子を見ていた俺に救いの手のような提案が戸部さん(兄)から舞い込んできた
「同じ高校って…おもしろい奇縁じゃねーか。おいアカリ、勉強でも見てもらえよ」
「兄ちゃん笑いすぎ!…でも確かに数学とか苦手だから教えてもらえたら嬉しいかも…」
「あー数学ですか?それなら理論派、高久教授の出番ですな!」
「茶化すなよ…それにまだ戸部さんが良いとも言ってないし…」
「タカク君、アカリでいいよ!戸部さんだとお兄ちゃんか私か分かんなくなるし!」
「…流石に呼び捨ては恥ずかしいからアカリちゃんと呼ばせてもらうよ。それで…さっきの勉強の件だけどとりあえず一回、勉強会でも開いてみようか?あと、俺も名前で構わないよ?タカク君って呼びにくいでしょ?」
戸部さんのお兄さんに心のなかで90度のお礼をしつつさらっと(出来たか分からないが)提案してみた…正直、がっつき過ぎた気がしないでもない。
「あはは、確かにそうだねソラト君。んじゃっ、してみよっか!勉強会。国語とか社会なら任せて!」
「うん、宜しく頼むよ、アカリちゃん」
「宜しく頼むぜ!ソラト!」
「おいおいヒーロ、お前は…」
アカリちゃんと戸部さん(兄)は存外ノリが軽く、その後も黒井がアドレスを聞いたらノリノリで教えてくれたり、戸部さん(兄)も大樹と名前の方を呼ぶように言ってきたりしていた。
戸部兄妹、フランク過ぎやしないか?
料金の精算を済ませてから、少し話し込んでしまったのか日が傾いてきた。
二人は今日はマシンをもって帰らないからと言う話らしいのでお兄さんの自家用車で帰るらしい。四人のりのスポーツカーだ。
かっけぇ。
颯爽と帰ってく二人を見送り俺たちもと、春野さんに挨拶をしたあと帰路へ向かう。
バイクに戻ったせいで再び感じた違和感がなくなった辺りで黒井からヘルメット越しで声を掛けられた。
「なぁ、ATV楽しかったな」
「ああ、人生観が変わる体験だったよ」
「…なぁ、アカリちゃん可愛かったな」
「ああ、人生観が変わる体験だったよ」
「…だよな!?お前が常に言ってた好みのタイプまんまだったもんな!?俺、笑い堪えんのも大変だったよ!」
「笑うなよ…ヒーロ。…でも、何気にフォローしてくれたろ?サンキューな」
今日、こうして茶化しながらも色々気を使っている黒井には実は頭が上がらない思いなんだが、認めるのが恥ずかしいのか、ついぶっきらぼうな言い方になってしまった。
黒井はそれもお見通しと言わんばかりにニヤニヤしてる。
しかし、ATVの話に戻ったとき、先程とは全く違う表情を俺に見せた。
「それで…ATV、始めるんだろ?」
「…ああ、大学入ってからだけどレースもしようと思ってる。アカリちゃんの事もだけどATVで人生観が変わったのもマジだ」
「とりあえず、咲枝さんに報告だな。まぁ、説得の手伝い位は付き合ってやるよ」
「助かるよ。今度ラーメンでもおごるわ」
「いや、今くおーぜ!俺、腹へったよ!」
この、最高の一日を終わらせたくなくて俺たちはラーメンを食いながら今日の出来事を振り返り、語り合った。
こうして人生観が変わるATVの体験は終わりを告げた。
ちなみに夕飯を勝手に食べて連絡を忘れていたので母さんにこっぴどく怒られた話はまた別の話である。が、恐らく俺の口から語られることは無いだろう。
はい、というわけでファーストインプレッション編、これで終わりです。
そして書き溜めもこれで終わりです…
ここから更新頻度が落ちてしまうかもしれませんがちょくちょく見てもらえればと思います!
次回は金曜までにあげられればと思います。