ファースト インプレッション その3
正にファーストインプレッションです!
まずコースに出る前に俺たちは一列に並んだ。順番は戸部さん(兄)、黒井、戸部さん(妹)、俺の順番だ。
黒井はどちらかというとユーティリティーモデルの無骨なデザインのほうが好みらしく「戸部のにーさん、おれのこのマシンでぶっちぎってやるっすよ!」とかいっているが、そもそも戸部さんはコースの先導なので抜かしちゃダメだと思う。
そして戸部さん(妹)のほうも割とノリノリで「兄ちゃんに負けないよー」と黒井と一緒に息巻いてる。
黒井よ、場所を変われ。
「とりあえず、一周はゆっくりいくぞー。コースのチェックをしっかりしとかないとな。」
「「「はーい」」」
よっと言う声が聞こえて先頭の戸部さん(兄)がマシンに飛び乗った。さっとエンジンを回し、軽い蛇行運転をした後、コースの入り口へ向かった。
戸部さんのマシンは蛇行するときにタイヤを引きずるような、いわゆるドリフトを次々に行っていて服装もあいまってかどう見てもプロのレーサーにしか見えなかった。
黒井もすぐ後ろからそれより一回り小さい蛇行、戸部さん(妹)はほとんど直線的に。
俺はというと後ろも居ないので少し間を空けて黒井と同じように戸部さん(兄)のまねをしながら、マシンの挙動を確認していた。
タイヤを引きずるような感覚が思った以上に面白くて少し離されるほど間を空けてしまった。
先導してる戸部さんがコースの入り口にぴったり停車してこっちを見てるので、待たせたら悪いと急いで列の最後にビタ付けした。
◇◆◇◆◇◆
コースは一周2~3km程らしく、一本道で道幅は狭い。
わだちはどう見ても軽トラ1台分だし、コースの端に完全に寄らないと道を譲って抜かすことも難しそうだ。
皆でゆっくり入ると一周およそ10分ぐらいでコースを周回するらしい。
いざコースに入ってみると、春先の若い緑が少しづつ見え始めた心地よい森林浴を長い最初の直線で感じ、先頭の戸部さんが指差したカーブがすぐに見えた。
何を言っているのかは聞こえないがごつごつとした岩が見えるようなブラインドカーブが目に入ってきたことから要するに、気をつけろということだろう。
(これは…面白い!)
コースに入ってから最初のカーブ、1分にも満たないようなわずかな時間で俺はATVに虜になってしまった。2輪と比べて、と考えることが多かったが一つ目のヘアピンカーブはこれが安定感のある4輪だということをまざまざと意識してしまった。
「おっと、よっと」
「わっ…タカク君、ごめんね!?」
目の前の二人が苦戦していて、つい岩場の真ん中でとまってしまったが、こけない。
二人も多少の手間取っていたが無事にカーブをこなせる容易さ。そして、発進のときのオンロードでは絶対に味わえないトラクションのかかり方。これはもう、夢中になってしまう。
「戸部さん、気にしないで!」
「大丈夫かー!」
ヘルメット越しでエンジンの音で声がさえぎられるため声を張り上げたが、それに勝るとも劣らずの大声で先頭の戸部さんはこちらを確認した。
「大丈夫ですよー」
「がんがん行きましょう!!」
その後も竹林を風を感じながら掛け抜けたり、路上のボーリング大の石をどかしたり、木々を抜けるヘアピンやS字カーブを少し早くなったペースでテクニカルに走り抜けたりと一周目を楽しみながら走り抜けた。
気分は自由に操る機械式の乗馬といった感じでたまに黒井がオーバースピードでコースアウトしたり、戸部さん(妹)が木の根っこを引っ掛けて車体に振り回されたりするトラブルも 正に「アクティビティ!」といった感じだったと思う。とりあえず一周目で体が疲労でダメになる…なんてことにはならなかった。
◇◆◇◆◇◆
「さって…と」
コースから少しはずれたところに戸部さん(兄)は俺たちを集めて声を掛けた。
「とりあえず一周、走ってみたけどどうだったよ?」
「これ、めっちゃ楽しいわ!な?ソラト!? 」
「うん、兄ちゃんがはまるの分かったよ!」
戸部(兄)の問いかけに対してはしゃぐ二人、だけど俺は…
「俺は…ちょっとだけ物足りないかも…」
「ほう?」
――気づいたら声に出していた。こんなんじゃない、もっと…もっと早く走りたいと首の付け根を痺れさせる様な、背中に強い衝撃がきた様なそんな気持ちになっていた。
「あー…お前さんバイクで来たんだよな?…ちょっとついて来い」
戸部さん(兄)はほかの二人に「ケガすんなよ?」と軽く声を掛け、コースでそのまま遊んでいいと促した。
そして、マシン置き場に二人で戻った後、春野さんに声を掛けた。
「春野さん、あれって今、動く?ニーハンのやつ」
「誰が…ああ、高久君がのるのかい?それならまだ一台あるよ。ちょっと待っといてくれ」
春野さんはそういってすぐ近くにある青いボディのマシンを引っ張り出してきた。明らかにユーティリティモデルとは違う攻撃的な表情が印象的だった。
「こいつもスポーツモデルだ。フルノーマルだし軽くデチューンされてあるが一応、俺がこれから出ようとしてるクラスと同じ機種だな」
「乗っていいんですか?」
「ああ、トラックの様子を見てたら君はいけると戸部くんとしゃべっててね、短いけど残りの時間はこれを使っていいよ」
一応、このマシンはバイク経験者や、何回か来ている人にしか貸さないらしく、調子が悪いときは使えないそうだ。
軽いデチューンとはアクセル周りのことで、スロットルが7割ほどしか開かない仕様になっているらしい。
まぁ、それでも今乗っているものとは比べ物にならないくらい速いらしいが。
「それでだ、腕試しでもするかいって話だよ。まぁ俺の見立てでは高久君はこいつで4分半は確実切れると見たね。」
「それって速いんですか?」
「まぁ初心者でうまければって感じかな?」
俺の質問に春野さんはさらっと返した。まぁ、基準が分からんが大分、見込まれているっていうことなのかな?
後から聞いたところによると初コースで4分半はかなり早い部類に入るらしい。
「とりあえず、ストップウォッチは俺が持ってるからタイム計ってみようぜ。」
戸部さん(兄)がそういって自分の乗っているマシンでコースの入り口へと向かった。俺は春野さんに「お借りします」と一言伝えてATVをスポーツモデルへと乗り換えた。
まずは、と跨ってみる。
シートの硬さも車体の幅も重心も何もかも違う。
フロントに二つ、リアに一つ着いている三つのサスペンションから有機的なな沈み込みを体に覚えさせてバイクとの違和感を消していく。
フロントブレーキ、リアブレーキとバイクと配置が一緒の安心感と、既についた左足からクラッチペダル、アクセルの押し込みという違和感を二つ飲み込んでクラッチの握りを確かめてみる。
慣れない位置にあるスタートキーを回し、慣れた位置にあるセルスイッチを押し込み、エンジンを掛ける。
――キキッ…ブゥン!ウゥン!
この時俺は、最初のマシンよりも確かな手ごたえを感じていた。
というわけで250ccのモデルに乗り換えです!
そろそろ本気出します!ついでに戸部(兄)も本気だします!