サード パーティー その7
一言目には圧巻。二言目には驚愕。
三つ目にして目の前で起きている様子を漸く言葉にすることが出来た。
「「「「すっげぇ…」」」」
流石…いや、これが全日本なのか。
経験を積んだレーサー達がトップカテゴリーのプロスポーツ化に向けてより洗練されているのが脳裏に伝わってくる。
ハイレベルなジャンプ、コーナリング後のウィリーするほどの加速。
何かに例えるのが陳腐に感じられる強烈な視覚の暴力が俺達に襲ってきた。
ダイキさんはこれに出るのか。
俺はこれに出れるのか…
気持ちを切り替えて目の前の様子を観察する。
よく目を凝らすと出走順がバラバラのために分かりづらかった特に速いマシンが見えてきた。
基本的には…社外品?のパーツに付け替えてる人が速く感じる。
特にフロント、リアのサスペンスの変更が顕著で、明らかにジャンプ後の動作が速くなっている。
着地後に路面に跳ね返ることなく接地した後輪がすぐさまトラクションを地面に伝えてマシンを前へ蹴り出している。
幸い…なのかは分からないが砂では高いトラクションを得られないのかダイキさんは付いていけている。
ん?ダイキさんの走っているラインが違っているのか…?
「君、凄く目が良いんだね?」
聞きなれないイケメンそうな声の男性に声を掛けられた気がしたので振り向いたら予想通り、イケメンがそこにいた。
と言うかヘルメットを外した姿を始めてみただけで、声を掛けてきたのはどうやらさっき前で走っていたあのレーサーだった。
「あの…貴方が天野さん?」
「そうだよ。ダイキかケイからでも聞いた?」
「いや、話をしていたので…」
なんと言えば良いのか…正直、話しづらい。
と言うのも一見、彼は人受けの良さそうな笑みを浮かべているが、俺に向ける視線にほんの少しの威圧を混ぜているのだ。
そのギャップがチグハグな印象を受けてしまう。
「そう?じゃぁ知っているとは思うけど僕は天野大地。君は?」
「あ、名乗ってなかったですね…高久大翔です。友人からはよく名前で呼ばれています…それで…目、ですか?」
「そう、目」
そう、天野さんは言うと、威圧を弛めて水のように透き通る視線を俺に送ってきた。
俺はやはり不思議な人だな、といった印象を抱いて天野さんの言葉を待つ。
「とんだ後、君のジャンプ見えたけどあれ、僕の体重移動みて真似したやつでしょ?
まだまだ荒いけど、良くできてるなあ…って思ったよ
それと選手の観察。良いタイム出てるマシンを見つけるのが上手だね。お察しの通り君が見てる人たちがポイントランキング上位の人たちだよ」
獲物を狙う鷹のように鋭く俺に言葉をかけてくる天野さん。
自分の心臓になにか刺さっているような錯覚を覚えるほど彼は俺の中に切り込んできた。
「…ありがとうございます…」
「どういたしまして」
先程まであった不思議、という印象は欠片もなくなってしまった。
この人は、強い。
「…そろそろダイキさんがもどるみたいなんで…」
「うん、時間とらせて悪かったね?まぁ、レース楽しんでってよ」
俺はパドックに向けてコースの外へ舵を切ってるダイキさんを見ながら天野さんに一言告げその場を後にした。
朗らかさなど一切ないヒリついた全日本チャンピオンとの初会合だったが、この時俺は確かな歓迎を受けた事を実感していた。
そう、「ようこそ、レースの世界へ」と。




