サード パーティー その3
「ソラト、ダイキさんのパドックこれじゃねーか?」
「この間マシン…確かにここっぽいね」
ダイキさん達が言い合いをしているのを尻目にパドックを探していた俺たちはわりと簡単に探すことができた。
「にしても…」
「思ったより皆落ち着いてるなぁ…」
「私、レース前ってもっとピリピリしてるものかとおもってたわ」
「ともみちゃんも?私もそう思ってた!…でも今の雰囲気って」
「キャンプとかに近いよね?」
一巡ぐるっとお互いに溢れた感想はどうやら同じだったようで、全員が「全日本の大会前っぽくない」だった。
俺たちがダイキさんのタープ内でそんな話をしてると、横のタープからエンジンの始動音が聞こえた。
キーン キキュッ
ブゥオン!ゥォオン!
「キャッ!?」
水冷単気筒の馬力のよくでそうなエンジンの音は慣れていないトモミちゃんには驚愕の一言だったらしく、後ろからクラッカーを鳴らされたような顔で耳を塞ぎながら辺りを見回していた。
今すぐからかいたそうなニヤニヤ面のヒイロへ心の中で溜め息をつき、俺はその音の元へ顔を向けた。
「あ、ごめんね?驚かせる気は無かったんだ」
そう言った声の主は明らかにレーサー然としたマイペースそうな巨人だった。
「いきなりっ!…いえ、私もびっくりしちゃっただけなんで…」
「うん、ほんとにごめんよー?」
不機嫌ぎみに振り返ったトモミちゃんは目の前にいる声の主を瞳に入れたとたん、ある日森の中で熊さんに出会ったような顔をしてその強かった語気を弱めた。
相変わらずニヤニヤしているヒイロを目ざとく見つけたトモミちゃんは「な、なによー」と若干涙目になりながらヒイロの胸をぽかぽかと叩き始めた。
眉を八の字にした森の熊さんだったが、ヒイロとトモミちゃんのやり取りは琴線に触れたらしく、俺とアカリちゃんと三人で和やかにそのやり取りを眺めていた。
さてその彼のマシン。
ライトがマウントされてたであろうフロントはレースマシンらしくきっちりとブランクが広がり、刺せるほどシャープな顔つきになっている。
アイドリング時に僅かに聴こえるモーターの駆動音は冷却水を冷やすファンの音。一直線に伸びたスイングアーム…を見ていたところでパッ、とエンジンの音が消えた。
キルスイッチを押した指先から顔の向きに視線を動かすと、そこには「ふふん」と笑った持ち主の姿。
全く、レーサーってやつは皆こうなのか
俺はダイキさんの様にニヤリと笑ってから、自己紹介をした。
「高久大翔です。友人からは名前で呼ばれてるので気軽にソラトって読んでください」
「僕の名前は慧なのさ。よろしくねー?」
ケイさんと自己紹介をし終えたタイミングで丁度、ダイキさんと木下さんが戻ってきた。
「あれ、もううちのケーちゃんと友達になったの?皆、コミュ力高いねぇー」
「あねきー、ちゃん付けはやめてくれよぅ」
あれ、兄弟?
どうやら、聞くところによるとケイさんはダイキさんらとレースに出ていて、トップクラスカテゴリーのレーサーらしい。
あと何気に同い年だった。まじか。
「…それにしても兄ちゃん、私たちは観戦に来ただけだから良いけど準備の方は大丈夫なの?」
思ったより続いた談笑にストップをかけるようにアカリちゃんが話を打ち切った。
どうでもいいと思われるかもしれないが同級生の可愛い女の子が実の兄貴を「兄ちゃん」っていってる姿はそれ単体でとても可愛い。と思う。
「んーまあ、今日は練習日だしなぁ…でもそうだな…」
ダイキさんは割りと余裕のある様子だったが少し思案した後、おもむろに自分のマシンに手を置き、とんでもない爆弾を落としてきた。
「ソラト、せっかくだからこいつをここでぶん回してみるか?」
俺が!?
というわけで新登場のキャラクターっすね




