セカンド プレイス その11 last
セカンドプレイス、ラストです。
第1ヘアピンを越え、ここから約3分とちょっと、俺は極限まで集中する。
ただ1つのミスさえ許されない鎌瀬さんとのバトル。
ブルりと大きく武者震いした。
ヒーロのミスった第二ヘアピンをギリギリまで加速していってコーナーに侵入する。
シフトペダルを1速まで落とし込んでクラッチを握り、エンストしないよう吹かす。
わだちを無視したラインで曲がりきって再び2速で加速し始めるとここは恐ろしい直線だ。
S字に曲がるコークスクリューなコーナーまでのチキン・レースもそうだがここでのポイントは路面の状況だ。
今はドライの路面だがここは水溜りが出来やすい区間で路面が乾くとその水溜りだった区間が不均一なウェーブへと変貌する。
グリズリーズのスピードでは特に何も感じなかった程度の道がこのスピードになると鞭打ち必死のとんでもなく凶悪な路面となるのだ。
しかし、完全に集中すれば窪みを軽く飛ぶことによってスピードを殺さずに最小限の揺れで走りきることが出来る。
ここを全開に、しかし荷重をかけて走りきった俺は着地のタイミングとブレーキのタイミングを合わせてS字の区間へと突撃するように突っ込んで行った。
S字を抜けるとここは第一セクションのラスト林を迂回する大きな第3ヘアピンだ。
ラリーの真似事のようにコースにはみ出して応援している能天気な観客もハイサイドギリギリの片輪走行の俺を見て、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
加速、加速、加速、加速。
カーブもわだちも無視したように直線的に加速するとそこには頭上に木の枝がかする小さな上り坂がある。
ここはスピードが乗れば飛べるとダイキさんから教わったが頭上には子供の腕ほどある枝が伸びている。
なのでここでの正解は頭上の枝を避けながら、アクセルを全開にしたまま飛ぶだろう。
どうやらそれは正解だったみたいだ。
答え合わせのまもなく着地とほぼ同時にフルブレーキング。
エンストしかけたマシンにとっさにクラッチを握って吹かしなおす。
良かった…タイムロスにはならないようだ。
曲がった先には待ち構える下り坂。
俺が初めて競争した時のターニングポイント。
あのころとは違う。
以前は追いつかれてしまったが、今回は逃げ切ってみせる。
目の前の凸ったコーナーでダイキさんに1発カマしたインカットを今度は観客の目先で披露する。
地面から離れた右のタイヤに観客は飛んでくる蹴りを幻視したように大きく仰け反った。
第5ヘアピンでは先回りしたヒイロたちがこちらに聞こえるぐらいの声量で応援を叩きつけてくれた。
「「「いけー!!ソラト!!」」」
「おう!!」
後半最初のヘアピンを、俺は吼えるように駆けた。
◇◆◇◆◇◆
後半のセクション。
といっても何処から後半などという明確な区切りはこのコースには存在しない。
ただ、俺たちがトライした時にあの辺りがタイムの境で、ここからがなあなあになるポイントだとヒーロと話し合っていたポイントなのだ。
なんとなしに握りつつあった腕に活を入れ、親指を底まで押し込む。
ミスやケガをしない範囲の全開走行になりつつあった思考を再びタイムを1秒でも縮めるための限界走行へと叩き込んだ俺は再び荒れた路面との戦いに身を投じたのだった。
そして、気合を入れなおした矢先に起きたのはイレギュラーだった。
端的に言うと少し、際どい位置に30cm大の岩が転がっているのだ。
1回目のトライではなかったもので直前に走ったのが鎌瀬さんなので彼はこのセクションをうまく切り抜けたんだろう。
よく見てみるとラインがわだちから外れて外側に膨らんで見えるところがあった。
鎌瀬さんはきっとこのラインを通ったに違いない。
そう直感できた。
だけど鎌瀬さん、そのラインは遅いよ。
俺は減速しながらもアウトではなくイン側、土壁のようになっている崖と岩の間をねじ込むように入っていった。
コースの両端に隙間などなく、右のタイヤがはこの小さな岩を蹴っ飛ばすように外側に弾き飛ばす。
集中していなければこの障害でタイムロスがおきたと思うとぞっとした。
小さなのぼりと下りを抜けて、木にタイヤが巻きついてあるS字、ヘアピン前に2度目のジャンプカットを終えた俺は観客の様子の変化に気がついた。
ヘルメットとエンジン音に阻まれて何も聞こえない実況が何かを叫んでいるのか?
少なくともタイムが悪ければこうはならないはずだ。
このヘアピンを抜けると後残すヘアピンは2つ。
思った以上に間隔の短いこの2つの周りでは観客がカメラを持って俺を写していた。
少しこそばゆい気分になるがレースに集中しよう。
ここは観客が居るのが人目で分かるぐらい視界が開けていた。
左を見るとコースの最外殻の道が顔を覗かせる。
ラストのヘアピンカーブを角度をつけたVの字で攻略すると最後の最後、ヘアピンカーブもない最外殻を全力で走る。
S字を理想的に。
上り坂を情動的に。
そして、最後のストレートまでを狂気的に。
森林のアーチを抜けてこの目に飛び込んできたのは驚愕した顔一色だった。
測定した人間やその場にいた観客でさえ声を発することなく、しんと静まり返った。
◇◆◇◆◇◆
一拍の静寂、それは賞賛の嵐の前の静けさだった。
何処からか「すげぇ…」という簡単な感歎がもれると刹那、わぁ!と会場が沸きあがった。
何処からかアカリちゃんともみじちゃんが俺に抱きついてきて
「一位!一位だよ!?ソラト君!?」
「ソラト兄さん、どんな無茶をしでかしたんですか!?」
と俺がどうやら鎌瀬さんに勝てたことを教えてくれた。
「アカリちゃん、俺、2位とは何秒差だった?」
「あ、知りたいよね?えっと…コンマ5秒差だよ!」
一秒も稼げてなかったのか…接戦だったんだな…
「…ソラト兄さん、どうやら鎌瀬さんと勘違いしているようですね」
「…ん?どういうことだ?クラス1位は鎌瀬さんのことだろ?」
「もしかして気付いてなかったの!?ソラト君!?1位って総合1位の事だよ!」
「もしかして2位って…」
ダイキさんのことを言っているのか!?
嘘だろ!?
「やーってくれるねー 色男さんよぉ 」
俺が自身のタイムに驚愕していると渦中の人物であるダイキさんが声をかけてきた。
その姿はヘルメットを被った完全武装だ。
聞こえてきたのは意識したのか、先ほどと同じ台詞。
しかし、その身に纏うオーラは明らかに最初にした追いかけっこの時のそれだった。
「だ、ダイキさん」
「まさか、ラストランの前にお前が俺のタイムを上回ってくるとは、正直予想もしてなかったわww
でも、まぁ…ケツに火がついたみたいでいい緊張感だぜ。サンキューな、ソラト!」
俺もそうだったがダイキさんもまさかと予想していなかった様子で、同時にそれが心底面白いと分かるぐらいに笑っていた。
しかし、言い直すように
「まぁ、ソラト。お前を待ってたんだ。俺のラストランもしっかり見てくれよな。
見せてやるよ、一つ上のクラスの走りを。」
ダイキさんの出してきた威圧感に俺やアカリちゃんでさえも息を呑んだ。
確かに俺は知っている。
ダイキさんの走りはまだ「上」があると。
最初の走りはダイキさんにとって見せるための走りだったと。
ダイキさんはそのまま自身のマシンに跨りスタート位置についていった。
◇◆◇◆◇◆
その後は語るまでもなくダイキさんの独壇場だった。
文字通りイベントのラストランで最初の走りとは別次元の、圧倒的な速さを見せつけた。
俺の暫定優勝は話す時間を含めて5分という、とても短い時間で終わりを告げたのだった。
しかし、俺は鎌瀬さんから勝ち取ったのだ、総合2位を。
そして、クラス1位を。
いい感じで締められたと思ってます!
いかがでしたでしょうか?
これで、書きだめがまた無くなったのですが…
よろしかったら評価、感想お待ちしております!
次は閑話という名の日常回?
エピローグ?的な話になりそうです!




