セカンド プレイス その8
書きダメがキリのいいとこまで、出来たのであげていきます!
まずはなぞ理論、入ります!
「どうやら、僅差で僕の勝ち…かな?」
信じられないと言った様子のねーちゃん、アカリちゃん達。
苦笑いするヒーロとまさかいう心中の俺。
思案しているダイキさん以外はそれぞれに驚きを隠せていない。
「古賀音さんは…このコース、初めてですよね…?」
「ん?そうだよ?でも…」
「…でも、俺たちもレース、やってるからな」
そういって古賀音さんの台詞をずいとぶん盗る形で鎌瀬さんが入ってきた。
そしてやはりと言うべきか、鎌瀬さんと古賀音さんは「レース」経験者だった。
さっきまで思案をしていたダイキさんは二人に詳細を聞くべく更に質問を重ねた。
「俺が思うに二人はオンロードだな…箱か?」
「いや、カートだ」
余談であるが、ここでいう箱とはフォーミュラーカーのような顔が剥き出しでない箱のような物に入ってレースする、つまり自動車の事を指す。
それにしてもカートか…あまり、やった所で速くなりそうなイメージが涌かないんだが…
そんな見当外れな事を考えていると、ダイキさんは少し一物を含んだ面持ちで「成る程ねぇ…」と呟いた。
ダイキさんは今一つ理解出来ずに疑問を覚えている俺達に向き直して、一つづつカートの事について教えてくれた。
「…あー最初に言うが、アカリ?カートっつっても遊園地にあるようなゆっくり走るゴーカートの事じゃないぞ?」
「お兄ちゃん、それぐらいはわかるよ!」
「え、違うの?」
ねーちゃん…話の流れ的にそうでしょうに…
ダイキさんだって「高久のおねぇさん…」と呆れ気味に見えるよ…
「…まあ、話を続けるが…そう、カートと言ってもレーシングカート。
F1の登竜門としても有名なモータースポーツだな」
アカリちゃん以外の女性陣は「F1」という単語でやっとピンと来たらしく、「ああ」といったような表情を表した。
「それで、ソラト。1つ聞くが今乗っている グリズリーズ 、大体時速何キロぐらい出ていると思う?」
「ええと… グリズリーズ なら最高速で60km/h位…ですか?」
「おしいなソラト、スペック的には合っているが実はこのマシンでここを走った場合だと大体出せて45km/h位なんだ」
ダイキさんのこの発言でアカリちゃんとヒーロは「あ、その程度なのか」と呟いていた。
「一応、俺はここのストレートで70km/h近くは出せているぞ?
…それで、対するカートなんだが、同じ排気量だとコースによって120km/hも出せる。」
「「「120km/h!?」」」
ねーちゃんたち女性陣はその速度の差に驚きを隠せていない。
そりゃあ今観戦しているマシンの3倍近くスピードが違うといわれたら驚くだろう。
「一応、レンタルカートとかなら5,60km/h位ですよ?…というかここで70km/hも出せるんですか!?」
古賀音さんがダイキさんのストレートのスピードに驚きつつも補足を入れてくれた。
ダイキさんは何てことも無いように「慣れればいけるもんですよ?」と古賀音さんに軽く返しながら話をまとめる。
「まぁ、そんなスピードで一周辺りコンマ何秒というような時間を争ってる奴らが遅いわけが無いんだ。って話だな。」
「まぁでも、僕もオフロードのって分かったんですけど、路面のこともありますし、一概に速度の話だけじゃないと思いますよ?」
謙遜しているように見えて古賀音さんは自信に満ち溢れている。
路面のことは触れているが、それも実質「オンロードなら絶対負けない」ということなんだろう。
そう言っている古賀音さんの横顔を眺めた後、ふと鎌瀬さんの方を見た。
鎌瀬さんは誰にも聞こえないように
「だから俺はオフロードを事前に練習してたんだよ」
と呟いた。
俺以外、誰も聞こえていなかったその台詞に俺は驚きを隠せなかった。
どうやら古賀音さんと鎌瀬さんを甘く見ていたらしい。
二人のようにコンマのタイムを争ったことの無い俺はタイムに対する考え方が大雑把であることを自省した。
さらに鎌瀬さんはカートのタイム感覚 でこのコースを走りこんでいる。
俺はこの間、必死に練習している鎌瀬さんを思い出し、この人が途轍もないライバルであることを再認識したのだった。
◇◆◇◆◇◆
結局、古賀音さんやヒーロよりタイムの早い人間は出てこなく、二人の勝負の明暗がはっきり分かれた形で決着が付いた。
グリズリーズのタイム測定が終わるといよいよ リミット250ccとアンリミテッドの混走、つまり本番が始まる。
周りがいそいそとマシンの準備や着替えを始めようとしている中、俺は2回、大きく深呼吸をした。
更衣室に向かい、全力で TT へ望めるよう、着替えながら頭の中でルールを反芻した。
走行の手順や大まかなルールは一緒でも グリズリーズとは違う点が存在する。
リミット250とアンリミテッドは先のグリズリーズと違い、最大で2回走行できる。
これは単純に グリズリーズの平均に比べ、このクラスは平均にして半分以下のタイムで回ってくるからである。
ヒーロや古賀音さんのようにここを 125ccのマシンであんなに早く走ってくるのは本当に稀で例年であればアカリちゃんが表彰台に上っているのが普通のレベルであるから一理ある理屈なんだろう。
ただし、「最大で」といったのには理由があり、中には2本目を走らない人間もいる。
なぜかというと「2本目」を申請する際には「1本目」の記録を無かったことにする必要があるためだ。
つまり、調子の良い記録が出た場合は走らないほうが良い可能性がある、ということになる。
俺は、頭の中でこれは重要だと思ったこのルールを再び記憶に留めて、くるぶしまで隠れるツーリングブーツのバックルを止めた。
ズボンの中には膝のプロテクター。
マジックテープのバンドで脛までガードされている。
スリーブで腕に通して装着する肘のプロテクターにチェスト・ガード。
これらはレースをするならと満を持して用意した俺の装備だ。
ヘルメットの中にグローブを入れ、俺は準備を整えた。
プロテクターに覆われた胸を右手でパンと1つ叩くと完全に気持ちが切り替わった音が聞こえた。
―― Now is the time to race.
さあ、鎌瀬さん。戦おう。




