セカンド プレイス その7
ヒーロは始めに辺りを見回してどのタイミングにコースを走り始めるかを図り始めた。
恐らく少し早めの人の次の辺りを狙っているのだろう。
ヒーロはやがて一人の人物に目をつけて彼の次に入っていったがあの人なら俺も覚えている。
確か既に走っている経験者だったはずだ。
最初のトライでアカリちゃんの数秒落ちで完走していて、なんか無駄にエロティックな彼女に「女の子に負けちゃうのー?」と煽られていた人で印象に残っている。
成る程、彼のタイムならヒーロは追い付かれることは無いだろう。
俺は順番待ちをしているヒーロに声を掛けてみた。
「そろそろ走るのか?ヒーロ。」
「おーうその通りっ、まっ作戦っすわ!ソラトくーん!」
「成る程ねぇ…そーいやお前は古賀音さんとは勝負しんの?」
「うーん一応ジュース一本位でで提案しようとは思ってるんだけどな?まだ、言ってはいんわ」
「それぐらいなら緩いしなぁ…良さそうだな」
正直、鎌瀬さんとは「何でも一つ言うことを聞く」と言うような賭けをしたは良いけど、実際のところ内容事態はヒーロが提案しているそれと対して変わらないと思う。
丁度やって来た古賀音さんにヒーロが先の提案をすると、古賀音さんは快くその提案に乗ってくれた。
「にしても、君らもよくやるね…」
「でもこういう勝負は結構楽しいっすよ!?」
「古賀音さんも鎌瀬さんとよく勝負するんですよね?」
「まぁ、そうだね…とりあえず、やるんであれば僕も真剣にやらせてもらうよ!」
「宜しくお願いします!」
手前の人が走り始めたことで前が詰り、次はいよいよヒーロの番だ。
二人はそろそろと会話を切り上げて目の前に集中していたので、俺はその場を後にした。
◇◆◇◆◇◆
ヒーロのスタートを皆で見送って視線を外すと、オーロラビジョンの前で鎌瀬さんが俺に話したいことがあるのか、目で合図をしてきた。
なにかあっただろうか?
「鎌瀬さん?どうされました?」
「いや、さっきはきぃ使わせちまって悪かったなと思ってよ」
この短い時間で感じていることがあるんだが、鎌瀬さんは基本いい人なんだと思う。
色々気を回してくれるし、抜けてるところはあってもやっぱり大人だと思う。
「いや、僕も面白そうだと思って乗っかったもんなので…」
「ふん…まあいい。
そういえばマキナのヤローとなんか話していたのか?」
…そしてツンデレなんだと思う。
こう、不良が実はいい人でダンボールの子猫を助けちゃう感じの。
俺は大人しくそらされた会話に乗ることにした。
「ああ、ヒーロと古賀音さんがジュース賭けるか何とかって話ですよ」
「へぇ、ヒーロ君が奢らされるって話か、そりゃ気の毒に」
正直、古賀音さんが勝つことが当たり前だといったような鎌瀬さんの物言いに思うところがあったのだが、さすがに冗談と思い直し俺は軽く立ったむかっ腹を収めることにした。
「いやいや、流石に古賀音さんはここに来るのは初めてですよね?
ヒーロはかなりここを走りこんでいるんで勝つのは難しいと思いますよ」
そういってオーロラビジョンに映るヒーロを指す。
ヒーロは前回の汚名を完全に払拭した全快のテンションでアクセルを全開にしていた。
チェストマウントされたカメラの映像と所々映る定点カメラの映像があいつを テディベアと一線を画していると知らしめている。
もう、見なくてもこのまま行けばあいつが暫定一位になることは目に見えて分かった。
「うーん、まぁ確かにはえぇな」
ヒーロの走る様子を見て感心したようにうなずく鎌瀬さん。
しかし、その後ニヤリと不敵に鎌瀬さんは笑い言葉を続ける。
「だがな…何かを賭けたここ一番で俺はマキナが負けるところを見たことがねぇんだわ」
「それに…」と言葉を続けるようとした後すぐにハッと気が付いてスタート位置を獣のような目つきで注視し始めた。
そこには次の出走を待つ古賀音さんが朗らかに手を振っていた。
「ギンジー!コースレイアウト教えてくれてサンキューなー!」
「ふん!せいぜい一発カマしてきやがれマキナ!」
そういいながら中指を立てる鎌瀬さん。
さっきツンデレだと思うといったが訂正しよう。
鎌瀬さんは確実にツンデレだ。断定できる。
古賀音さんはスタートのカウントダウンが始まったので一気にゾーンに入り込んだ。
完全に顔つきが勝負を経験している「それ」へと変わる。
氷のように冷たくなったジェットヘルメット越しの彼の表情はある意味でとても美しく、彼がスタートして目の前から消えるまでこの目に古賀音さんを写す以外の事を許されないほどに引き込まれたように錯覚した。
「あの古賀音君ってやつ、恐ろしく速いな…」
「ダイキさん!?…分かるんですか!?」
俺はつい、食い入るようにマシンを見てしまっていてダイキさんが横で声を発するまで気づかなかった。
「お前だって分かるだろ?あのスタートと直線のスピードの出し方。
どう見ても経験者の「それ」じゃねーか」
「…そうですけど…」
そうなのだ。
古賀音さんは躊躇うことなくアクセルを全開にした。
普通、殆ど初見やコースインが初めての場合、一般の人はアクセルを全開に開けられないもの(らしいの)だ。
ましてやオフロード、この場合最初に全開に回すことが出来ても、それをし続けることは例えるならレーンの外れたジェットコースターにのる心境らしい。
更に言えばこのマシンはアクセルに細工がしてあり、パワーにリミッターが掛けてあるマシンなので少しでも手を緩めてしまったらブレーキがかかる。
アカリちゃんのタイムがヒーロに及ばない理由も正にこれが理由で、つまり古賀音さんは同じように全開で走ることが出来るレーサーと言うことになる。
俺は納得をしつつもヒーロの画面を眺める。
ヒーロは丁度ラストのヘアピンカーブと言ったところか。
ヒーロは順調だ。
この間ダイキさんに聞いた理想にほぼ近いタイムでセクションを回れている。
俺はそろそろと道中いたガールズトークをしていた女性陣に声を掛け、ゴールへとヒーロを待った。
◇◆◇◆◇◆
結論から言うとヒーロは少ししてやって来た。
前を走るマシンを追い抜かして。
「ヒロにぃ、スゲーじゃん!?」
「やっぱりヒーロ君、私より全然速いんだね!?」
「これなら罰ゲームはまのれそうですね?ヒロ兄さん」
「こりゃーソラトも相当頑張んなきゃダメなんじゃないのー?」
ねーちゃんみたいな間接的なものも含めて女性陣は口々に絶賛の声をヒーロに送った。
それもそのはず、ヒーロのタイムは二位を大きく引き離して4:30秒とちょっとだったのだ。
普通はこのまま一位の記録を独走と考えるだろう。
しかし、前を抜かした時に生じるロスタイムはわりと大きく、もしかしたらヒーロがそのロスタイムによって負けてしまうのでは?という懸念が俺の頭のなかを掠めた。
ヒーロの方も俺の方をチラリと見ると察してしまったのか「いや…抜かしたところがロスになっちゃったからまだ、一位になれるかは分からんなぁ…」
と古賀音さんを言外に匂わせた。
そして、俺たちの懸念は現実のものとなった。
そう、古賀音さんはヒーロより5秒速く戻ってきたのだ。
次回は少し更新が空きます。
恐らく来週ごろになるかと思います。




