セカンド プレイス その3
この回で練習回、終わりです。
正直、修行パートって結構好きだったりする。
さて、今回の追いかけっこだが大きく違う点が一つある。
それは最初からダイキさんが後ろについている。ということだ。
これはなかなかにプレッシャーだ。
(まぁ、何とかやってみますかっ)
と心の声を出しながら再び、自分のマシンにのってコースの入り口に向かう。
――空気が変わった。
ダイキさんの纏う気配が白亜紀の暴君竜を幻視させる。
一瞬、威圧に飲まれてしまいそうになるが首を振り払ってその雰囲気を振り払う。
左手で自分の相棒を軽く叩いて気持ちをスタートに切り替えた時ダイキさんが「なるほどね」と呟いた声が聞こえた気がした。
「よっしゃ!行こうか!
カウント!スリー!ツー!ワン!
…ゴー!」
背中を押されるぐらいの強い掛け声にせかされるがまま、俺は飛び出した。
◇◆◇◆◇◆
コースに入ってまず、第一コーナー、これは全力で駆ける。
スピードレンジが変わるとこのカーブと言えないような緩な曲線すら障害に思える。
しかしダイキさんはここを「直線と思え」と言っていた。
だからここではアクセルの手を緩めない。
俺はアクセルをそのまま、直線的に加速する。
次はこの間も見た最初のヘアピン。
俺はブレーキングポイントを間違えた。
黒井も教えてくれたくれたようにこのコーナーのブレーキングポイントはもっと奥だ。
消しゴムで殴ったように最初の記憶 を乱暴に消し去る。
ブレーキングポイントは…――ここ!
スピードを減速しきらないでコーナーに侵入する。
まだ前に行く力が残っていて体がふらついた。
俺は先の黒井の第2ヘアピンを限視した。
「やべぇぇぇぇ!!!」
ヘアピンを曲がるとき、まるでジェットコースターのように俺の内蔵がフワッと浮いた。
その時、左のタイヤもガッツリ浮いていて、
直後に自分がコースアウトするRCカーなったようなブッ飛んだ横Gを感じた。
この時はカーブの終わりまで生きた気心地がしなかった。
直線の付け根でタイヤを着陸させたとき、半分抜けていった俺の魂が自分の身体に戻ってきたのを感じた。
一瞬だけ後ろを振り返りかえってダイキさんを覗くと彼の武骨なヘルメットが大きく縦に振れ、左手で大きくサムズアップしている。
少し聞き取りづらい声が聞こえてきたが、多分、「GJ!」とか「やるじゃん!?」的なことをいっているんじゃないかと思う。
これをすべてのコーナーでやるのか。
俺は今更ながらATVが恐ろしいまでに過酷なスポーツであることを自覚した。
◇◆◇◆◇◆
流石に直前の黒井を見ているので、過ちは繰り返すまいっとあいつが消えたカーブをセオリー通り抜けつつ、2つ目のヘアピンコーナーを攻略していった。
さらに一つ二つと数えるように抜けたヘアピン。
越えた先に見える斜面を下ると前にダイキさんと目が合った(気がした)場所だ。
無我夢中で逃げようとしたあのときと違って今、ダイキさんは俺の真後ろにぴったりとくっついている。
この人に練習の成果を見せないとな。
まずはと手はじめに下りの坂からの全開区間。
目の前のS字コーナーにブレーキング勝負 をしかけてみるとする。
何回か走ってみて気づいたことだが、ここのS字は最初の左カーブが短い。
だからここはSというより右コーナー主体の凸ったコーナーと捕らえるべきだと俺は感じた。
だから左にめいっぱいよってから右に加重移動をする。
右フロントタイヤがコースの端にある大き目の石に掛かったので、ねじ伏せるようにタイヤを飛ばした。
どうやらこの目論見は成功したようだ。
ヘアピンカーブに差し掛かったとき、ダイキさんはまだS字を抜けた直後だった。
カーブの頂点でふと左を向いてきた道を覗いた時、ダイキさんが面食らった様に頭を仰け反らせているのが見えて確かな手ごたえを感じた。
直線に入り、加速へ入る。全開、全開、全開とほとんどブラインドとなっているようなカーブの先が見えるたびにアクセルを吹かしていゆく。
もう何個目かわからなくなるような曖昧な気持ちでコーナリングをしていた俺は、ダイキさんの声で再び覚醒した。
「ソラト!!!」
ちょうど高速コーナー。ダイキさんの一言は俺にエンジンを吹かせと叫んでいるように聞こえた。
そう、最後まで気を抜くなっていうやつだ。
弛緩した空気に今一度、渇を入れなおした。
さて、コースに残っているヘアピンカーブは残り2つ。
加速が少なく、Rの大きいコーナーを抜けて、最後のヘアピン。
見通しのよいこいつを、先ほどダイキさんにおそわったコーナリングでねじ伏せる。
残る外周も気持ちが緩むことなくこなしきった俺はゴールラインをくぐった時、以前の3倍ほど体力を使ったような感覚に陥った。
◇◆◇◆◇◆
「ソラト君、お前さんやっぱすげぇな!?」
コースから少し避けた所で息を整えていると手早くヘルメットを脱いだダイキさんが駆け寄って来た。
その目は驚愕を地で行ったような表情で、ダイキさんは俺の背中を嬉しそうにバンバン叩いてくる。
そんな様子がなんだか「こいつはスゲェヤツだ」と認められた気がして、嬉しくなり思わず拳を握ってしまった。
「ありがとうございます…あんな走り方で大丈夫ですかね?」
「おう!これなら上位だって余裕で狙えるよ!つーか2回目でこれとは…まったく末恐ろしいぜ…」
「でも、ATVって速く走らせるとものすごく体力を消耗しますね…2,3分、休憩が欲しいところです…」
「まぁ、ただでさえオフロードの競技は運動量が違うからな。そう思うのも無理はないな。
しかもこの間より20秒以上早くなっていやがるときたら、体力も5割増しで使うもんだよ」
「そんなにちがうんですか?」
「そうだ、一般的にオフロードでもオンロードでも速く走れば走るほど、ガソリンなどもそうだが労力が指数関数的に増えるもんなんだ。
当たり前の話だが速いやつは同じ時間により多くのコーナーを曲がれるわけだから、その分エネルギーを消費する」
「…それに、早くなればなるほど横Gやブレーキの踏ん張らないといけない力も増えるからより大変…ということですね?」
「その通りだ」とダイキさんは明るい口調で頷いた。
息も整えたところでラスト1,2本走れるかという感じなので黒井を拾いに行く。
黒井はなにやらこの後に入っているお客さんが受けている講習をもう一度聴いているようで、待たせた様子ではなかったみたいだ。
あいつはこちらに気づいたようだ。
「よーソラト、どうよ?調子は?」
「ヒーロ、なかなか充実した一周だったよ」
俺達がコースについて少し話している間にダイキさんが春野さんに時間を聞いていた。
「二人とも、あと1周位ならいけるってさ。この人も戻ってくるまで待ってるって言ってるし」
そういって次のお客さんへ指を指すダイキさん。
かなり目つきの鋭い無愛想なその人はこちらを見た後、軽く一瞥して再び、携帯をいじり始めた。
まぁ、初対面って普通こんなもんだよな。
俺は改めて戸部兄妹がフレンドリーすぎな事を実感した。
この後も黒井が名誉返上ならぬ汚名返上と言わんばかりのタイムで一周を回りきって練習は終了となった。
ダイキさんにお礼を言い、次のお客さんといれかわるように帰路えと向かう。
俺と黒井は俺達の後、ストイックに練習するさっきのお客さんやコースの内容、レースの意気込みなどをだべりながらバイクを走らせた。
タイム・トライアル…俺達にとってはじめての結果の見えるイベント。
正直言って、今から待ちきれない気持ちでいっぱいだった。
ここまで男まみれ┌(┌^o^)┐
次回からは女の子出します。出したいです!マジで!




