セカンド プレイス その2
書き続けるのって大変なんだね?
お兄さん初めて知ったよ。
スタートラインに順番に一列、並んでいる。順に黒井、ダイキさんさん、俺の順だ。
黒井はダイキさんに「ソラトにこの間、やったスタートの声かけ、俺にもやってくださいよ!」という。どうやら俺の話を聞いて、羨ましくなったらしい。
それにたいしてダイキさんの返答は
「…よしきた!…スタートは「ゴー!」の合図を掛けてから!ストップウォッチもなければロガーの測定もなし!オーケー!?」
だ。なかなかアドリブも効いてるいい感じの空気感満載の台詞だ。
この間も思ったけどやっぱり戸部兄妹、ノリが良すぎだな。
黒井も満足が言ったようで振り返り、大きなサムズアップで「オッケーっす!」と返す。
奴のヘルメットでかくされた頭のなかはきっと気合いで一色なんだろうなぁ…
ダイキさんがカウントダウンを始める。
「それじゃぁ、行くぞ!
カウントスリー!ツー!ワン!
ゴー!!!」
後ろにまでダイキさんの叫ぶような声が大きく響き渡る。黒井はさぞ、驚いたのか腕がハンドルごと吹っ飛んで言ったような仰け反りを見せながらスタートした。
続いてダイキさん、俺と続くのだが俺が出発した時には思ったよりあいつが遠くまですっ飛んでいくもんだで、思わず「おお」と軽く声を上げてしまった。
あいつのロデオマシン、なかなかやるじゃないか。
黒井のマシンは最初のヘアピンの少し手前には既にほとんどマシンの最高速を出せていた。
俺とダイキさんは少しだけアクセルを緩めて黒井のブレーキングを見極める事にした。
しかし、黒井はブレーキランプを点灯させることなくそのままコーナーへと侵入し、片方の車輪をマンガのコメディ描写のように浮かせて曲がっていった。
「うっひょおおお!!やっべぇええ!!」
とこっちまで届く声で叫びながら走る黒井。
爆笑しまくりのダイキさんがかけてきた声と呆れまくりの俺の心の声が完全にリンクした。
「「あいつ、まじ、大バカ野郎」」
そんな俺とダイキさんの冷や汗などどこ吹く風の黒井はテンションがものすごいことになりながら二つ目のヘアピンへと向かう。
「のーぶれーきっすよ!次もやってやんぜ!!!ひゃっほぉぉぉぉおおお!!!」
こういった所謂、「のめりこんでる」状態って言うのは集中力も上がるし良いこともあるが、白熱し過ぎる諸刃の剣なんだなぁと俺はこの後に思うのであった。
ここで少しコースの話をしたいのだが、第一ヘアピンと第二ヘアピンは同じ折り返しのある、スピードの乗った状態からのカーブなのだがかなり違いがある。
第一が左で第二ヘアピンが右カーブ、若干の標高の違いや日当たりなどまぁあるのだが…その中で特に無視できない違いが二つある。
ひとつは路面。第一ヘアピンではガレ場といわれるようなごつごつとした目の大きな石が敷き詰められているようなカーブで、第二ヘアピンの路面と比べてスピードが落ちやすいコーナーになっている。
もうひとつはカーブの直前だ。第一ヘアピンの直前には登山道の階段のようなものが敷いてある。
これが心理的なブレーキになって 黒井は アクセルを戻したのであろうと予想できる。
しかし、第二ヘアピンの直前には直線で突破できるほどの緩いS字コーナーが存在するのだ。
ヘアピンカーブというのは当たり前の話だが適度に減速をしなければ曲がりきることはできない。カーブ手前で体重移動などで車体に角度をつければ進入できるスピードはまた変わってくるのだが、オーバースピードでコーナーへ侵入すれば文字通りすっ飛んでゆく。
――結論を言うと、黒井はコース上から、姿をけした。
◇◆◇◆◇◆
「ヒイロ君、私は君に言いたいことがある。わかるかね?」
「は、はい…」
オーバースピードでカーブに突っ込んでった黒井は草を飛び越えてコースを大幅にショートカット。
さらに戻ろうとして逆走にコースアウトと辺りをひっちゃかめっちゃかと走っていた。
俺とダイキさんが発見した時、黒井は垂直になった自信のマシンにぶら下がっていた。
「ミスっ…ちゃ…った?」
「っぷぷ、ぶぁぁぁかだ!!お前、ほんと馬鹿だな!!」
と俺に疑問を投げつけるような黒井。
一体どうすればこうなるのかと呆然となる俺の横ではダイキさんが太腿をバシバシ叩きながら爆笑していた。
何とか黒井のマシンをコースに戻して、残りの工程をささっと走り終えた後、ダイキさんはまじめな、諭すような口調で黒井に話しかけた。
ただ、その顔はどう見ても笑いをこらえているようで説得力はなさそうだった。
「とりあえずヒーロ君、1つだけ、1つだけ言わせてもらうぞ」
「はっ…はいっ」
「ブレーキを使えっ!…っぶははははは!!!
だめだっ!!笑いがとまんねぇよ!!
レースゲーム覚えたての小学生かよ!?
こんな指導したの生まれて初めてだぜ!?」
「わ笑いすぎっすよ…ダイキさん…」
ひとしきり笑いきったダイキさんはその後、黒井に対して今度こそまじめな口調で諭し始めた。
「だがなヒーロ、ブレーキは重要だぞ?低ミュー路面ではいかに曲がれるまで最低限度の量でブレーキを終わらせるかが重要だ。
あんなロデオマシンだとたとえ曲がれたとしても、タイムは遅くなるもんだぜ?
大方、「スピードなんかたいしたことはねぇからこれぐらいいけるだろ」とか高をくくってノーブレーキで突っ込んだんだろ?
このマシンは駆動系を含めまぁそこそこのポテンシャルまでしかないし、万一もあるんだから気をつけて走ることだけは止めるな。
…まあでも俺はああいうブッ飛んだ走り方、好きだぜ?
俺からはこんなところかな」
黒井はハッとした顔でダイキさんを眺めた。
言われたことにでかい心当たりがあるといわんばかりの表情だ。
黒井はひとしきり考えた後、奴らしいはにかんだような笑顔で「そのとおりでしたわ…ダイキさんにはかなわないっすね」と小さく口にした。
「…と、まぁ戸部君のお話も終わったみたいだから次は僕の番になるね…」
なごやか空気の終る音、諸行無常の面あり。
なにが言いたいかというと春野さんが後ろから声を掛けてきたのだ。
後ろから。
氷の笑みで。
「さて、黒井君、私も君に言いたいことがある。わかるかね?」
先ほどの運動した時の爽やかな汗でないほうの汗が滝のように流れ落ちる。
「とりあえず、黒井君は少し、お話があるからあっちの事務所まできてね?」
「はっ…はいっ!」
そういって春野さんは戦々恐々としている黒井を連れて、事務所へと戻っていった。
後で話を聞いてみると、春野さんはレンタルで余りにも滅茶苦茶な運転をしている人を見かけた時にペナルティを兼ねて、こうしてお説教をすることがあるらしい。
今回はマシンの損傷が奇跡的になかったのでお説教はそこまでにはならないもんだとダイキさんは言っていた。
なんで知っているのだろうか。
「…んじゃ、ヒーロ君が戻ってくるまでソラト君、いってみますか」
「あぁ…ええっと…まぁいいか。宜しくお願いします!」
そういうわけで二度目のダイキさんの一対一の追いかけっこが再び始まった。
男のみの回、もうちょっとだけ続くんじゃよ┌(┌^o^)┐




