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ATVってご存知ですか?―クアッド 獣の咆哮ー  作者: act.yuusuke
ファーストインプレッション
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ファースト インプレッション その1

まずは導入から。

 狭い小道をもうスピードで駆け抜ける。

 二つしかない二輪のモーターサイクルよりはまだ安定しているが、多少といったところだ。

 木の根を避ける為に左側を持ち上げ片輪走行といった凄技や地面のコブを使った低く鋭いジャンプといった技術を駆使している男の顔は進路を正確に見定めているがどこか楽しげだ。


「こいつはサイコーにブッ飛んでるぜ!」


―――肉食獣の牙のように鋭く笑った男の叫び声が山奥に響いた。


 ATV、正式名称はオール トレイン ビークル。

 全地形対応車両と呼ばれたそれは文字通りありとあらゆる地形を走るためにデザインされた四輪のバイクのようなもの。

 バイクと比べ安定性に優れ、初心者でも楽しく森林を駆けたりできるのだが、法規で公道を走れるのが限られるため路上でら余り見かけなかった。

 しかし、道路交通法の改正により高速道路すら巡航可能になるとメーカー各社こぞって開発するようになっていった。

 二輪で必要な共通のパーツが多く、新規での購入も出来た為、業界の期待や認知度がS(少し)F(増えていった)

 これはそんな世界のお話。


◇◆◇◆◇◆


「あー暇だ…なんか面白いことねぇ?」


 よくある高校のよくいる高校生のセリフ。

 俺こと高久(たかく) 昊翔(そらと)はいつの間にか口癖のようになってしまったセリフを半ば無意識に吐いた。


「んーこれなんかどう?シーカヤック1日体験。」

「いや、春先に海はまだはやくねーか?」


野外アクティヴィティ!とかなんとか書かれた雑誌の一ページを指差しながら尋ねてるこの男は腐れ縁の黒井(くろい) 緋色(ひいろ)だ。

 テストも終わり春休みに入ろうかというこのタイミングで「なんかしたいなぁ…」と思った俺らは雑誌を回し読みしながらどこへ行こうかと作戦会議しているというわけだ。


「スノボーは…もう雪ネーか…」

「今年、暖冬だったもんなぁ…」

「くそう!あんとき俺たち二人でいってればゲレンデで恋に落ちたり落ちなかったりしたってのに!」

「もう春だもんなぁ…」


 年末年始の冬休み行ったスノーボードは正直、女の子目当てと言うところも期待していたんだが、結局こいつと家族ぐるみでの旅行になってしまった。

 姉貴や向こうの妹達、母親に囲まれる中、若干形見の狭い思いをしたのだが、スポーツとして純粋に楽しかったのでまぁ良いとしよう。


「モテそうなスポーツねぇ…あ、サーフィン!」

「いや、だからまだ海は早いって…」


 とりあえず黒井は海に行きたいのか雑誌すらめくらず提案してきた。

 確かにカヤックなりサーフィンなり自転車で海まで行けばもう既にやってるやつらはそこそこいる。でも気分じゃないんだよなぁ…


「というかバイクで遠出してなんかしたいんだよ。俺は」

「えー、俺後ろ乗ってるだけじゃん。暇じゃんー」


 黒井はそうは言いながらも「でも、確かにそれも面白そうだな」とバイクでの遠出は賛成なのか椅子の背もたれを足で挟んでアメリカンバイクを乗るような仕草をしていた。

 俺は黒井の手元から離れた雑誌をパラパラとめくり、ふと目についた場所を指差して提案してみた。


「お、これはどうよatvバギー体験。これならタイヤ4つあるし、バイクっぽくてもこけないんじゃね?」

「そりゃ、こけるもクソもないだろうよ…あーでも、良いかもしんないな…俺もブンブンしてぇ!」


 こうして俺たちはATVという乗り物に初めてのりに行くことになったのであった。


◇◆◇◆◇◆


 玄関口の目の前、自分のバイクを車庫から出してるところに黒井がやって来た。

 たまに狭いうちの駐車場とかでバイクを跨がせたりしているのだが、今回はあいつも広い場所でエンジンのついた乗り物を乗りに行けると言うことで気合いは十分のようだ。

 俺は黒井にヘルメットを手渡し、顎紐がきちんと止まっているのを確認していると玄関から母さんが出てきた。


「さて、行きますか!ってかーさん、見送り?俺らもう出かけるよ?」

「おう!よろしくぅ!あ、咲枝(さきえ)さん、おはようです!」


 咲枝とは俺の母親のことである。

 世間一般ではどうか知らんが自分ではおばちゃんを自称するくせにいざ、呼ぶとひどく怒ってきた。

 黒井もそれを知っているのか咲江さん、とさん付けでいつも呼んでいる。


「おはよー、緋色君。

大翔あんた、二人乗りは気を付けるのよ?あと、夕飯要らないなら早めに教えてね?緋色君も気をつけてね?」

「わかってるよかーさん、んじゃっいってきまーす。」


 俺は自分のバイクに跨がり右足、左足とタンデム用のステップを広げてスタンドを払い、黒井に乗るよう促した。黒井は俺の右肩を持って割りと遠慮なくドカッと座ってきた。

 「うぉっ」と一瞬よろけてしまったが、車体をしっかり垂直に向けて体勢を立て直した。

 一人で乗るときよりも少しりリアサスペンションが沈んだのを体で感じながら差し込んでた鍵を回しクラッチを握りながらセルスイッチを押す。本当はニュトラルの方が良いんだろうが横着して既にギアは一速のままだ。

 かかりの良い単気筒でキャブレター、赤色のプラグカバーが目立つ空冷エンジンがト、とド、の間ぐらいの音でアイドリングを始める。

俺は後ろの大きな荷物が落ちないよう丁寧に長い半クラッチで発進した。


◇◆◇◆◇◆


 さて、ATVが出来るところ、というとどうやら山奥にあるらしい。

 片道100kmもないぐらいの道のりだが、俺の200ccとちょっとのバイクは200km走れるか位なタンク量なので給油が必要だ。

 幸い今は満タンなので帰りのどこかで給油すれば良いのでそこまで気にしてはいない。

 問題は道のりだが、そこは既に行き先をネットで調べて黒井と確認してある。

 黒井は携帯でいつでも取り出せるようにリュックを手前にしてサイドポケットに入れてある。

 信号待ちの時に道を教えてくれたりするので、俺が


「便利な荷物だな。」


と声をかけたら、黒井は


「おう!天地無用の割れ物注意だ。気をつけて運べよ?」


と、なかなかうまい返しをしてきた。

 途中、休憩を挟んだりもしながらなんとか昼前の予定時間にはたどり着いたんだが…


「のどかだなぁ…」

「おう、取り敢えず女の子とかそういうのの出会いはあれだな、ないな。」

「そういえば…そうだった!元々女の子いるとこ行こーぜって話だったじゃん!?」

「…取り敢えず、向こうにマシンあるし、いこーぜ。」


 そう、そういえばすっかり忘れてたが、男だけゆえの女の子との出会いーとかそう言ったことを求めて企画したはずの遊びだったことを俺たちは現地に着いてから思い出したのであった。


◇◆◇◆◇◆


「あのー…予約した高久ですが…」

「はーいこんにちはー」


 どうやら奥にある事務所に見える建物からかわいらしく、元気声と共に一人、女性がでてきたようであった。

 ふっふっふ、こう見えても俺は実は好みにうるさく、こういったキュートな声は大好きだが、一目見たときに良く裏切られるお陰で落ち着いて対処出来るのだ。

 ちなみに俺の好みはこの子のような軽くウェービだけど滑らかそうなセミロング、艶のありそうなココア色の髪に少し厚手の服の上からでも感じられる女性らしい腰の括れ、主張し過ぎないバストの膨らみながら、愛でたくなるぐらい愛くるしい小動物のような女性――


――まんまじゃん!?好みに超弩級のドストライクだよ!?

その時俺の頭のなかではキャッチャーと審判を兼ねた黒井が豪速球を良い音させながら補給した後、


「ストライク!バッターアウト!イェェァァァア!!!」


となぜかバッターである俺と叫んでる妄想がよぎった。


 「なんだこいつ、さてはまた頭の悪い妄想しているな…」と言いたげな超・高性能お荷物の黒井の視線を無視して、俺は極めて冷静にキメ顔ならぬキメ声でっさっきの声の主に返事をした…

 …かったのだが…それは彼女の後ろからの声にインタセプトされてしまった。


「おお、予約してた高久君かね?道には迷わなかったようだね。」

「い、いえ後ろの彼が道案内してくれたので特に迷子とかにはならなかったです。」

「はい、超高性能お荷物こと黒井です!よろしくお願いします!」


 なんだあいつ、俺の心を読んだのか?荷物にあるまじきハイスペックぶりだな。


「荷物って…ああ、君たちバイクで来たんだ。それは気合はいってるねぇ!私も若いころ、よく乗り回してたよ。今日は二人でいいかい?」

「はい、よろしくお願いします。僕ら以外に体験やる方っていらっしゃるんですか?」

「はーい、私!」


 視界から外れていた好み弩ストライクな彼女を再び見ると、彼女は元気よく右腕を上げていた。

 え、お客さんなの?


「というわけで、今日はよろしくね?タカククン?と…お荷物君!」

「おい、大翔、初対面でお荷物って言ってくる女の子ってどう思うよ?」


かわいいと思います。


「いいんじゃない?タンデムシートは荷物置き場ってお前言ってたじゃん」

「まぁそうだなぁ…そのとおりだな!」


 黒井はテンション高めに自分が荷物であることを認めた。

 俺は黒井のこういう深く考えないところが好きだったりする。


「まぁでも取り敢えず名前ぐらいは自己紹介すっか!俺は黒井 緋色。こっちが高久 昊翔な!」


「よろしくね…えっと…」


戸部(とべ) 明莉(あかり)だよ!取り敢えず今日はよろしくお願いします!」


 このかわいい茶髪の子はアカリちゃんというらしい。名は体を表すという言葉がものすごい理解出来た気がする。彼女、マジ、シャイニー。


「あ、あと兄ちゃんが一緒なんだ!私が初めてで…兄ちゃんは経験者らしいよ」


 そういって建物の中を指差すと細マッチョ?ガタイのよさそうなイケメンがダルそうに席に座ってパンフレットをじっくり見ていた。

 この人を義理兄さんと初対面で呼ぶには少し勇気が欲しい程度に目つきが悪そうだった。

 横に居る黒井が外にあるATVをじっくり見ながら早歩きで建物に向かっているので手早く受付を済ませることにした。


「この二人でラストですか?春野(はるの)さん」

「そうだよ。戸部君、君はどうする?」

「あー、俺は何もせず待ってるのもあれなんで着替えてきますわ」


 ちなみに春野さんはこの施設の管理人さんで、リタイア後にこの施設を運営し始めたらしい。それとさっき戸部さんと聞いたのでこの人がきっとお兄さんなんだろう。


「春野さん。用紙書き終りました。」

「おっと、そしたら講習を始めるね。」


 先ほど着替えの話を小耳に挟んでしまったので率直に着替えはいるのか?と現地についた後、いまさらながら聞いてみたところ、雨も連日降っていなかったので大丈夫だそうだ。

 一応、ヘルメットは貸し出し用でもいいのでつけて欲しいらしいが、バイクで来た俺たちにとっては関係なかったりする。

 受付を済ませると簡単な注意事項の後、ビデオを見させられた。これが講習扱いなのかな?

 プロのインストラクターが体重移動云々とかを言っているのでしっかり聞いておいた。どうやらバイクとは少し勝手が違うらしい。

 講習も無事終わったところでいよいよ初体験といきますか。

とりあえず体験施設にたどり着けました!

次回はマシンと初遭遇です!

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