旅立ち
写真の中で屈託のない笑顔を見せるあの子
私に似た八重歯とえくぼ
今でも お母さん と明るい声で呼ぶ声が聞こえてきそうだ
もし生きていたら
何度そう思っただろうか
同い年の子ども達を見て
なぜ私たちの子がと 何度考えただろうか
今日でちょうど 20歳を迎えるはずだった
彼女の誕生日を迎えるたびに
それは 娘が永久に私たちの元を去った日なのだと
痛感させられた
でも もういい
心労がたたり 愛する夫も亡くなった
もう いいわよね あなた
あなたと一緒にいる あの子に逢いに行っても
もう 一人では寂しいの
電子音が徐々に弱くなるのを聞きながら
だんだんと瞼が重くなり
病室に飾った一枚の家族写真が遠のいていった
残された力で 写真を手に取り抱きしめる
まるで かつて笑い合っていた あの頃に戻ったように
私たちはみんな 笑顔だった
「やっと……これで、あなたとあの子に……」
それが 病魔に侵された私の意識に最後に残った希望の言葉だった