24. 駆け付ける者たち
前話のあらすじ
中嶋小次郎との戦い。
サルビアの献身を糧に、孝弘は怪物の腕と蜘蛛の脚を振りかざし、リリィとともに奮戦する。
侵食され上書きされた聖堂騎士団が敵に回るなか、ついにガーベラとシランが駆け付ける。
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ガーベラの蜘蛛の脚と、シランの剣が騎士たちを退ける。
そもそも、聖堂騎士団がこの場に最初に駆け付けたのは、彼らが城の崩落に巻き込まれたせいで足留めを喰らわずに済んだからだ。
各方面での戦いが終われば、他の戦力も集まってくる。
「助かった……!」
「ありがと、ふたりとも!」
シランはおれの、ガーベラはリリィの援護に回ってくれた。
合わせて騎士たちを押し返す。
「孝弘殿、ご無事ですか!」
振り返ったシランが力強く問い掛けてきた。
そして、片側だけの蒼い目が丸くなった。
おれの背中から伸びる蜘蛛の脚に気付いたのだった。
「って、その姿は……」
「お、おおおお!? なんたることだ!」
驚きのつぶやきが、遠くからのすっとんきょうな大声に掻き消された。
「主殿が……超絶格好良くなっておる!?」
見れば、リリィの助勢に入ったガーベラが、血のように赤い目を驚愕に丸くしてこちらを凝視していた。
「おおお……! こ、これはなんたること! 確かに主殿には脚が足りないと常々思っておったが愛は姿かたちではないゆえ気にしておらんかったのにこれほど佳い男になってしまうとはまずいまずいぞ妾はこれからどうすればいいのだ!」
「早口」
助勢を受けているリリィが呆れ顔でつぶやいた。
というか、常々そんなことを思っていたのか。
まあ、そんな気の抜けたことを言いながらも、突っ込んできた騎士を脚の一撃で突き返しているのはさすがだが。
「……はは」
思わず口元が緩んだ。
酷いものを見せられて、削られていた気力がなんだか回復してしまった。
まだまだ、どこまでだって戦える。
そう心が熱を取り戻して――
「さすがだ、真島の眷属たち」
「――ッ!」
「だが、こちらを忘れてもらっちゃ困るな!」
眷属たちの加勢に対して、中嶋小次郎はむしろ昂ぶった様子で叫んだ。
両手に剣を創り出してみせる。
このままではまずい。
遠距離からやられたい放題では詰んでしまう。
即座に指示を出した。
「ここはもういい、シラン! 行ってくれ!」
「はい!」
素直にシランは飛び出した。
「な……っ」
唖然としたのは、対峙する騎士たちだ。
またひとりに戻ったおれを見て、顔を赤くする。
「我らを愚弄するつもりか!」
いっそう勢いを付けて突っ込んでくるのを、うしろに飛び退って躱した。
「……そんなつもりはないんだけどな」
彼我の戦力差は把握している。
馬鹿にできるはずがない。
だから、これはそうではなくて――こうするのが最適だと判断しただけだ。
直後、瓦礫を踏み砕いて、小さな影が乱入した。
「孝弘!」
叫び、赤い髪をなびかせて飛び込んできたのはロビビアだった。
彼女が来るとわかっていたから、シランに中嶋小次郎への攻撃を指示できたのだった。
「よく来てくれた! 足留め頼む!」
「わかった!」
そう答えた口から、激しい竜の炎が吐き出された。
悲鳴をあげて騎士たちが足をとめる。
火勢が強い。
ロビビアの力が増しているようだった。
炎を煙幕にしておれが距離を取ると、ロビビアが追いかけてきて肩を並べた。
「ありがとう、ロビビア」
「……」
声をかけると、吊り気味の目がちらりとこちらに向けられた。
「孝弘」
「なんだ」
「生やすなら、ドラゴンの翼のほうが似合うと思う」
「……機会があればな」
そうしてどうにかおれが敵をやり過ごしている間にも、シランは中嶋小次郎に突っ込んでいた。
「はあぁあああ!」
尋常な速度ではない。
精霊四体による同時支援が掛かっていた。
すでにその力は並の転移者を凌駕している。
だが、相手は『災厄の王』だ。
不用意に踏み込んでしまえば――聖堂騎士団の二の舞になる。
「はは。ひとりで来るとは良い度胸じゃねえか。無謀とも言えるけどな」
待ち受ける中嶋小次郎は、容赦なくその権能を行使した。
世界を歪める『災厄の王』の力だ。
恐るべき『接続者』としての力が襲い掛かり――
「ひとりではありません!」
――喝破するシランには、届かない。
「なに……?」
さすがの『災厄の王』も、これには虚を突かれた顔をした。
しかし、即座にこちらに目を向けた。
「そうか、真島の……!」
気付くのが早い。
もう少し、動揺してくれていればいいものを。
完全に状況を把握したようだった。
「いまのお前は、心を繋いだ眷属であれば、干渉ができるんだな!」
その通りだった。
さすがにシランであっても、『災厄の王』の干渉をゼロにはできない。
だから、おれの『接続者』としての力で守っているのだ。
おれの力は無差別に外に干渉して変化させる類のものではないので、その手の能力に関しては苦手だ。
しかし、深い繋がりを作った相手であれば話は別だ。
というより、まったく逆の話になってくる。
「こっちの干渉は防がれて……そのうえで、これは強化もしてるってわけか!」
これも、その通りだった。
シランが精霊四体のフル・ブーストを維持しているのは、おれの補助があるからだ。
中嶋小次郎の『接続者』としての力が、自分の望みを叶えるための世界の改変であるのなら、おれの力は絆を育んだ仲間たちにこそ作用する。
対象が無限大に広いものと、一点に集中したもの。
元の干渉力の桁が違っても、これなら拮抗しうる。
「フ、フフッ、ハハッ! ハハハハハハハハ――ッ!」
堪えきれないように『災厄の王』が笑った。
「これが! これが『接続者』としてのお前のカタチか!」
「仲間を好き勝手させるわけないだろう!」
「ハッ! そりゃそうだ!」
笑って、犬歯を剥き出しにする。
「だけど、まだそれじゃあ足りねえぞ!」
中嶋小次郎の手には『片手剣』があった。
肉薄するまでの数秒で迎撃の一撃を喰らえば、いまのシランでも大ダメージを喰らうだろう。
いくらアンデッドとはいえ、肉体がひどく損壊すれば、まともに動けなくなる。
ただ、おれもそれくらいのことはわかっていた。
わかったうえで、指示を出したのだ。
そもそも、突っ込んでいたのはシランだけではなかったからだ。
「おおおおお!」
声をあげて、人影が戦場に飛び込んでくる。
聖堂教会付きの転移者たちだった。
負傷者が出たのか、河津他二名だけだ。
ただ、躊躇いなく戦場に踏み込んでくるさまからは、鬼気迫るほどの覚悟が感じられた。
「おお、河津か! 良い顔になったな!」
「中嶋さん! あんたはここまでだ!」
河津たち聖堂教会付きの転移者たちは、探索隊のリーダーを務めた青年に対しても、刃を鈍らせることはない。
だから、問題は『接続者』の干渉力だ。
心繋げていない彼らにおれの力は及ばない。
だが、彼らにもまた、負けるわけにはいかない理由があった。
「させんぞ『災厄の王』……!」
立ち上がって吼えたのは、やられたはずのゴードンさんだった。
「これ以上の狼藉は、このわたしが許さん!」
聖堂騎士団の副長たる男は、禿頭に血管を浮かび上がらせて怒号をあげた。
残酷なかたちで部下を失い、体を半ば侵されつつも、その心は折れていない。
河津と一緒に来た転移者に体を支えられた彼の背中には、先祖から受け継いだ翼が広がっていた。
補助に特化した能力の一点集中。
願いを込められた『輝く翼』の加護が『災厄の王』の干渉さえも減衰させる。
「ぐ……っ」
結果、河津は呻き声をあげたものの、動きをとめることなく走り抜けた。
影響はゼロではないが、かなり抑えられている。
長い年月、この世界の守護者であり続けた聖堂教会の矜持を見せたのだ。
守られた河津が斬りかかった。
「喰らえぇえ!」
「覚悟――ッ!」
シランも合わせて、挟み撃ちにした。
もしも一方に『光の剣』を解放する気配を見せれば、その隙を突いてもう一方がひと太刀を浴びせるだろう。
どちらを手ごわいと見て、解放の一撃を喰らわせるのか。
果たして、中嶋小次郎の選んだのは――どちらでもなかった。
「……あ!」
振われる剣の残光が、まぶたを焼く。
瞬間、斬り掛かった側のシランと河津が、身を投げ出すようにして回避の姿勢を取った。
「……ぐっ」
「おれが遠距離ばかりだと思ったなら甘いぜ」
両手に光と闇の『片手剣』を握った中嶋小次郎は、前後同時に相手取っての近接戦に持ち込んだのだ。
その結果は、まさに戦慄すべきものだった。
おれは喉の奥の苦いものを呑み込んだ。
「まさか……近接のほうが強いのか?」
霧の魔法ですべてを把握できているからこそわかる。
これまで強烈な遠距離攻撃で敵を焼き尽くしてきた中嶋小次郎だが、近距離での戦闘はさらに恐ろしいものだった。
肉体面では、精霊のフルブーストをアンデッドの身体能力に乗せたシランをも上回っている。
技術面でも、極まった剣技を持つシランに近いレベルにある。
それだけならほぼ互角と言っていいが、そこに武器の差が上乗せされる。
中嶋小次郎の武器は『光の剣』と『闇の剣』。
最強の固有能力で創られる剣は、すなわち最強の武具なのだ。
まともに打ち合えば、こちらの武器がやられてしまう。
同じく単純な攻撃力では最強クラスだった『絶対切断』が相手であれば、切断面以外、つまりは剣の側面を狙うことで斬撃を逸らすことができたが、純粋なエネルギーである『光の剣』はそれもできない。
攻撃は避けるしかない。
これはあまりに大きなハンデだった。
「ハハハハハハ――ッ!」
恐るべき速度の斬撃が、一呼吸に前後を切り払う。
やむをえず、河津は距離を取ったうえで大きく避ける。
一方のシランは踏みとどまった。
「ぐ……っ」
至近距離からの攻撃を避ける。
誰かひとりはそうして圧を掛けなければ、手が空いた瞬間に距離を取られてしまい、あとは遠距離攻撃で近付けなくされてしまうのが目に見えているからだ。
しかし、当然、彼女の負担は激増する。
「ぐっ、あ……!」
剣が掠めたシランの二の腕が弾けた。
とてつもないエネルギーの込められた剣だ。
掠めただけなのに、骨まで見えそうな酷い損傷を負ってしまう。
さいわい、アンデッドの彼女であれば戦闘中でも修復可能だ。
逆に言えば、これを河津が喰らえばまずい。
そもそも、ゴードンさんの補助があるとはいえ、『接続者』の影響を完全には排除できていないので、河津は若干弱体化しているのだ。
「河津様はフォローに回ってください! わたしが押さえます!」
「っああ! クソ、わかった!」
勢い込んできただけに、忸怩たる思いはあるのだろう。
ただ、河津はそれを呑み込んだ。
偽勇者事件の際には大失敗を犯したということで危惧していたのだが、抑制は効いているようだ。
それだけ強い覚悟を定めてこの場にやってきているということか。
シランのフォローに回った。
だが、これではまだ足りない。
「はあぁあああ!」
真っ向からシランは『災厄の王』を抑え込む。
驚異的な見切りと身のこなし、なにより損傷の修復能力を持つ彼女にしかできないことだ。
しかし、その修復能力が追い付かない。
「ぐっ……」
厳しく見積もっていたよりもさらに『災厄の王』の力は強大だった。
こちらもまだ騎士団を処理している最中であり、助けに向かうことができない。
このままでは、やがて潰される。
それがわかるのだろう、河津が苦しげに声をあげた。
「くそぉ、このままじゃ……」
「まだです!」
それを、シランが一喝した。
「孝弘殿の差配を信じるのです!」
彼女の目は死んでいない。
そのときだった。
唐突に、リリィたちの近くに気配が出現した。
***
「間に合ったようですね、真菜」
「ええ。良かったです。これで先輩の力になれます」
現れたローズと加藤さんがやりとりを交わす。
ふたりの足元で、あやめがくぅーっと鼻を鳴らした。
待っていた、援軍だった。
「来てくれたか!」
手筈通りだった。
もともと、最後の戦いには戦力を集中させる予定だった。
そのために、リリィには転移の魔法道具の片割れを預けており、加藤さんとローズのふたりが飛んでこられるようにしていたのだ。
ただし、そこに想定外の人物も加わっていた。
「リーダー!」
誰よりも鋭く、清冽なまでの闘志。
一振りの剣のような印象は、最後に会ったときよりもさらに増している。
黒髪をなびかせて飛び出したのは、探索隊の『韋駄天』飯野優奈だった。
彼女の参戦は、もともとの予定にはなかった。
足をやられていてまともに戦えない彼女は、最終決戦にはさすがに不参加……というか『災厄の王』の取り巻きを押さえ込むのだけで手いっぱいだと思われていたからだ。
だから、彼女が十分な戦力として来れるとローズたちを経由してパスで『知った』ときには、驚いた。
「おい、飯野! 本当に大丈夫なんだろうな!」
「当たり前でしょ!」
無理をして出てきたなら心配だ。
騎士たちから逃げながら声を掛けると、即座に返してきた。
このぶんだと、心配の必要はなさそうか。
そう思ったところで、彼女がすごい目でこちらをにらんできた。
顔が赤い。
「それと、真島。あんたには、あとで話があるから!」
「……話?」
わざわざ、なんだろうか。
しかし、訊き返したときには、飯野はすでに戦場に飛び込んでいた。
向かうのは、もちろん、『災厄の王』のもとだ。
おれは思わず瞠目した。
突進するスピードに霧の認識が追いつかない。
足を怪我していながら、以前とまったく変わらない速度で『韋駄天』が突っ込んだ。
「はあぁあああ!」
四つ足で跳躍したところで剣を抜き、一閃。
近接戦でシランとやりあう青年に斬りかかった。
「おお!?」
間一髪、中嶋小次郎は身を捻って避けるが、他の転移者ならあっさり斬られていただろう。
それくらいに、いまの飯野は速かった。
ひょっとしたら、怪我をする前より速いかもしれない。
同じように感じたのか、中嶋小次郎が大笑した。
「ははっ。なにかしてくるだろうとは思ったが、まさかお前とはな、飯野!」
「リーダー! あなたはわたしがとめます!」
「一皮剥けたみたいじゃねえか。わけわかんねえほど速いな。すごいすごい。――だけど、これならどうだ?」
「飯野様!」
ゴードンさんが焦った声をあげた。
ここから先、なにが起こるか予想がついたのだろう。
実際、今度は飯野に対して『接続者』の力が伸ばされたのだ。
ゴードンさんは飯野にも『輝く翼』の加護を与えようとしたようだが、現時点で彼のキャパシティはいっぱいだ。
下手に力を分散させれば、飯野どころか河津の補助さえも危うい。
自由を奪い、存在を書き換えようと、飯野に干渉が襲い掛かる、が――
「邪魔ァ!」
――飯野優奈はとまらない。
「なに!?」
あっさりと、干渉が霧散した。
さすがの中嶋小次郎ですら、呆気にとられた顔をした。
無理もない。
力づくで、干渉の腕が引き千切られたのだから。
おれもまた、息を呑まずにはいられなかった。
ありえない。
いま、なにが起こったのか。
理解して、唖然とした。
この世界では、すべての人間が世界に干渉する力を持っている。
本来であれば、意思持つ存在の書き換えは難しい。
それにもかかわらず、強大な干渉力で個人を塗り潰すのが『災厄の王』だ。
逆に言えば、その強大な干渉力でさえ及ばない埒外の抵抗力があれば、存在の書き換えは起こらない。
すなわち、自身への確信と、人間離れして強烈な意志力。
人知を超える災厄そのものでさえ、手出しができないほどの。
おれが『接続者』としての特性を確立することで『災厄の王』に迫ったのとは、また話が違う。
馬鹿みたいな力押し。
だが、これは決して愚か者にできることではない。
この世界を駆けて、駆けて、ひたすらに駆け続けて。
様々なものを目の当たりにし、いくつもの障害と懊悩を乗り越えて、なおも駆け抜けて。
決して折れない意志と、胸に宿した望みを極めることで、飯野は単純な強度だけで『災厄の王』に追随してみせたのだ。
彼女以外の誰にも、こんなことできるはずもない。
恐らく『災厄の王』を除けば、純粋な個人の強度において最強の能力者は彼女だろう。
ゆえに、もはや誰にも駆ける『韋駄天』はとめらない。
「はあぁあああああ!」
そして、一閃。
シランと斬り合う中嶋小次郎に斬りかかる。
身を翻した青年の頬が、かすかに裂けた。
「やった……!」
と、河津が声をあげたのも気持ちはわかる。
あまりにも強大過ぎる『災厄の王』だが、傷付けられないわけではない。
剣は届くのだ。
「まだまだ――ッ!」
飯野が参戦したことで、どうにか戦線が拮抗する。
シランが近接戦を挑み、河津がフォローをし、飯野が一撃離脱を繰り返す。
あの中嶋小次郎を押し留める。
「真島! いまのうちに!」
「……わかってる!」
叫ぶ飯野に返した。
ぎりぎりのところで拮抗しているだけでは勝てない。
このままでは、恐らく、遠からずシランが限界を迎えるか、河津が追い付けなくなって状況は崩れるだろう。
いまのうちに応援にいかなければいけない。
そのためには、存在を書き換えられてしまった哀れな騎士たちをどうにかすることだ。
息の根をとめるのも、ひとつの慈悲のかたちではあるかもしれない。
だが、それはあまりにも酷過ぎるし、このぶんだと時間もかかる。
ただ、どうにかする手はある。
おれにならできる。
そうパスで知ったロビビアが叫んだ。
「ここは任せろ、孝弘!」
着物の帯を解いた少女の目が、ドラゴンのものに変わった。
変生する。
「グルゥ、ォオオオオオオ!」
咆哮をあげるのは、黄金の竜。
防御よりだった甲殻竜形態とは比べものにならない速度で迫ると、強化された筋力で、災厄の王の騎士たちを薙ぎ払う。
ただ、これは足止めだ。
本命は別にある。
おれ自身は魔力を高めながらも、さらに距離を取った。
「こちらです、先輩」
呼び掛ける加藤さんたちと合流する。
「少しの時間、頼んだ」
「無論です、ご主人様」
前に出たローズに頼もしさを覚えながらも、さらに魔力を編み上げる。
「なにをしようとしている!」
巨体で大暴れをして、騎士たちの大部分を足留めしていたロビビアだったが、全員とまではいかない。
また、リリィとガーベラが相手をしていたほうでもこちらに気付いた者が出てきた。
「ぬぬ! 行かせるものか!」
「ご主人様は、わたしたちが守るんだから!」
必死で彼女たちは足止めをする。
結果、こちらまでやってきた騎士たちは数名にとどまった。
そこに、ローズが立ち塞がった。
「ご主人様には手は出させません!」
気合とともに大斧を薙ぎ払い、騎士たちを足留めする。
とはいえ、『災厄の王の騎士』の力は尋常なものではない。
「その程度か!」
ひとりを受け止めても、他のひとりが剣を突き入れ、他のひとりが剣を叩き付ける――。
「――戦装『マトリョーシカ』」
だが、ローズは損傷した手足を換装することで対処した。
手傷を負わせたと思った相手の即座の復帰に、たたらを踏んだ騎士たちを大斧が薙ぎ払う。
何度来ようと同じことだ。
それ以上、一歩も通さない。
そのありようは、まさに主人を守る盾だった。
「ありがとう、ローズ」
おれは十分に集中することができたのだ。
そうしてようやく、準備が整う。
練り上げた魔力を解放した。
「魔法『霧の仮宿』。――呑み込め」
世界を欺く白い霧が、騎士たちに襲い掛かった。
◆年末にいろいろあったり、忙しかったりでしたが、更新です。
大変な時期ではありますが、頑張っていきましょう。
◆総力戦です。






