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36. 逆襲の一手

(注意)本日2回目の投稿です。(6/23)














   36   ~加藤真菜視点~



 怪物に向かって、先輩が駆け出した。


 先輩に対する憎悪を撒き散らす怪物は、見るからに強大だ。


 工藤くんの配下、ツェーザーの防御を打ち破った打撃力。

 ドーラさんがズタズタにしたダメージをゼロにした再生力。


 あれだけの巨体なのだし、再生力を抜きにしても耐久性能は高いだろう。


 そこに突っ込んでいく先輩のうしろ姿を見ているだけでも、血の気が引いて倒れてしまいそうになる。


 わたしは口許に手を当てて、悲鳴を呑み込んで――その頭上で、魔法陣が展開した。


「フリードリヒ、展開」


 少年の声を聞き、振り仰いだわたしは目を瞠った。


 宙に浮かんだ工藤くんの背後に広がった、四色の羽が輝いている。


 逃走している間に練り上げられた魔法は、第三階梯の大魔法。

 その『二重展開』。


 探索隊で『疾風怒濤』の二つ名で知られた少年だけが使えるはずの力だった。


「燃やし尽くせ」


 燃え上がる爆炎を風が倍加させて、すさまじい炎が怪物に襲い掛かった。


 切り札を使うと言っていたが、これがそうなのだろう。

 第五階梯の三重展開も可能だという『疾風怒濤』に比べれば、二段落ちのうえに展開数だって足りていないが、それでも威力はすさまじかった。


 熱波が通路の温度を一気に上昇させる。


 これだったら……と思った直後、膨れ上がった肉の塊が炎を突き破った。


「こぉおおのおお、ていどかぁあぁあああ!」

「やはりこれでは倒れませんか」


 工藤くんが小さく舌打ちした。


 怪物の表面は炭化しているものの、致命傷には届いていなかった。

 掲げた腕で、きっちりと顔面もガードしていた。


 そして、致命傷でさえなければ、怪物はその再生能力で傷を癒してしまう。


「ああ……」


 駄目だ。

 あの工藤くんがが切り札のひとつを切ったというのに、とめきれていない。


 ぼろぼろと怪物の表皮が崩れて、露わになったピンク色の肉が盛り上がって再生が始まった。


 愕然として、わたしはそのおぞましい光景に見入ってしまい――怪物の脚の一本に、蔓が巻き付いたのを目撃したのだった。


「サマ!」

「よし、行くぞ!」


 そして、先輩が加速した。


 牽引のスピードに、地面を蹴った速力も加えた高速移動だ。

 魔法攻撃に気を取られて反応が遅れる怪物の足元に、あっという間に先輩は辿り着いていた。


「はあぁあ!」


 すれ違いざまに、気合一閃。

 先輩の剣が、腕の一本を深く傷付ける。


「お? おぉおお?」


 怪物はなにが起こっているのかわかっていない。


 先輩は怪物の後方へと移動を続けながら、さらに一太刀浴びせた。


 先程の魔法攻撃を耐えたことといい、怪物の体躯が強靭なことは間違いない。

 にもかかわらず、先輩の剣は深々と肉を切り裂き、体液を飛び散らせた。


 武器の性能はもちろんのこと、過酷な訓練で培われた先輩の剣の腕が、怪物の肉体の強靭さを上回っているのだ。


 だけど、いつまでも怪物だって、やられてばかりではいなかった。


「おお、おぉおおおお!」


 おぞましい欲望がこめられた、歓喜の声があがった。


 飛び込んできた先輩の存在に気付いたのだ。


「まぁああ、じまあああ!」


 うしろに抜けた先輩を追って、攻撃が放たれた。


「ひっ!」


 思わず悲鳴をあげてしまう。


 いったい、どれだけの威力で叩き付けているのか、距離のあるこちらまで振動が伝わってきていた。


 それも、一度ではない。

 憎しみに猛る怪物の感情を表すように、荒々しい振動は何度も繰り返し引き起こされた。


 あっという間に、巻き上がる大小の瓦礫と粉塵に紛れて、先輩の姿は見えなくなった。


 ただ、地団太を踏む怪物の醜悪な姿だけが目を引いて、巨大で醜悪な赤ん坊の化け物めいた姿に背筋が冷たくなった。


 これでは、先輩は……。


 と、目の前が暗くなりかけるわたしの頭上で、声がした。


「大丈夫ですよ」


 工藤くんだった。


 いかにも楽しげに、その口端が笑みを刻んでいた。


「はは。すごいですね。あれがいまの先輩の実力ですか」


 そういう彼の口調には、紛れもない讃辞が込められていた。


 つられるように、わたしは改めて熾烈な戦場に目を凝らした。


「あ……」


 確かに、工藤くんの言う通りだった。


 舞い上がる粉塵のなか、無事な先輩の姿が見えた。


 繰り出される激しい攻撃は、機敏に動く先輩の動きを捉えられていなかったのだ。


 速い。


 怪物の攻撃を回避して走る先輩の動きに、思わず目を奪われた。


 ここに飛ばされてから、わたしは先輩にずっと抱きかかえられて移動してきた。

 襲いかかってくる敵から逃げ回る速度は、信じられないくらいに機敏だった。


 けれど、いまはそれよりずっと速い。


 きっと、わたしを庇っていては、自由に動けないところもあったのだろう。

 これが先輩の実戦での最高速なのだ。


 それも、ただ速いだけではなかった。


「おおお!? まぁじまぁあ!? あぁああ!?」


 巨体が災いして、怪物は小回りが利いていない。

 不気味な巨体を、不器用そうに回転させていた。


 対する先輩は、常に怪物の死角へと移動を続けているようだった。


 それも、一撃喰らえば終わりの攻撃を避け続けながらだ。


 その動きは、まるで敵の動きをすべて把握しているかのようだった。


 ……いいや。『まるで』ではないのだろう。


 距離があるのでわたしの目ではわからないが、怪物の周りには、霧が立ち込めているはずだ。

 サルビアさんと契約することで先輩が得た、魔法『霧の仮宿』が。


 きっと先輩は、何本もある怪物の腕の動きをすべて把握しているに違いない。


 視覚や聴覚を使って状況を認識する、そのステップを飛ばしているのだ。


 もちろん、そうして得た情報を、きちんと活かせるかどうかは別の話だ。


 戦闘力はもちろんのこと、とてつもない精神力と集中力、なにより胆力を必要とされるに違いない。


 わたしの目からは奇跡のように見えるあの光景こそが、仲間の足を引っ張らないように生き抜くすべを磨いてきた先輩の努力の結晶なのだった。


「まぁああじぃいぃまあぁあああ! ああ! ああぁあああ!」


 その結果、怪物は先輩の位置を正確に把握することもできず、当てずっぽうに踏み付けを繰り返している。


 たとえるなら、一寸法師と鬼の戦いだろうか。

 通路を破壊していく怪物の姿は圧倒的なものを感じさせるが、その実、先輩には届いていない。


「……すごい」


 恐怖と不安で凍っていた血が溶けて、全身に回り出したみたいだった。

 胸が高鳴って、興奮する体が熱を帯びた。


 知っていたはずだったが、わかっていなかった。


 こうして、じかに目にして実感できた。


 これこそが、真島先輩が得たものなのだ。


「だから言ったでしょう」


 と、工藤くんが声を掛けてきて、わたしは自分が先輩の戦いに夢中になっていたことに気付いた。


 冷たい目がこちらを向いていた。

 ただ、不思議なことに先程とは違って、恐ろしいものは感じなかった。


「先輩は強い。あなたが取り返しの付かない真似をする必要はありません。下手なことは考えないで、大人しくしていればいいでしょう」


 さっき声を掛けてきたときと同じ、いかにも気に入らなさそうな口調だった。


 だから、違ったのはこちらの状況だった。


 さっきまで、わたしは先輩が死んでしまうと思い込んでいた。


 戦う力を持たないわたしには、先輩の強さを測ることもできなかったから、追い詰められてしまっていた。


 けれど、いまは違う。

 胸を高鳴らせる先輩の戦いを見て、余裕を取り戻していた。


 だから、引っ掛かった。


「工藤くん、あなたまさか……」


 わたしはちょっと目を丸めて、どうにもそりが合わないことを自覚している同級生を見詰めた。


 てっきり、意地悪をされたのだと思っていたのだけれど……。


「さっきのは、本当にただの忠告だったりしますか?」


 尋ねると、工藤くんは口を噤んだ。


 細面の顔には、珍しく苦虫を噛み潰したような表情が浮かんでいた。


「あなたのためではありません。先輩のことを考えただけです」

「……そうですか」


 その言葉には嘘が感じられなかったから、少し笑ってしまった。


 多分、先輩に関することだけは、どうしたって自分たちは意見が同じになってしまうと気付いたからだった。


 同じことを感じたのかもしれない。

 工藤くんはわたしを見て、かすかに眉を顰めた。


 それから、視線を改めて先輩の戦いに向けた。


 準備が整ったのだった。


「決着を付けましょう」


 再び工藤くんが魔法陣を展開した。


 それが、合図だった。


「フリードリヒ、展開。燃やし尽くせ」


 魔法が発動する。

 先輩に殺意をぶつけていた怪物が、危険に気付いて頭部を守るようにした。


 そこに、炎の風が襲い掛かった。


 まるで前回の焼き直しだった。


 持ち前の耐久力で怪物は炎をやりすごすと、離れた場所にいる工藤くんに顔を向けた。


「じゃああ、まぁあをおぉお……おおお?」


 呪詛を撒き散らす頭部が、なにかに気付いたように声をとめた。


 注意が別の場所に逸れたのがわかった。


 顔が向けられた先は、呪詛を吐く怪物の頭部の真下。


 そこに、攻撃を仕掛けようとした先輩の姿があったのだ。


 あと数秒気付くのが遅ければ、先輩は怪物の首を刎ねることができたに違いなかった。

 しかし、怪物は目敏かった。


 それは、ひょっとすると、怪物のなかにあるトラヴィス=モーティマーの執念が働いていたのかもしれない。


「ひひゃっ!」


 怪物が狂笑を漏らした。


 攻撃を仕掛けようとしていた先輩は、迂闊にも怪物の目の前に飛び出すかたちになっていた。


 ようやく手の届くところにやってきた恨みある相手を、怪物が見逃すはずもなかった。


「まぁじまぁあああああ!」


 怪物は即座に、攻撃可能な位置にあったすべての腕を叩き付けていた。


 大質量による空間の蹂躙だ。

 逃れる場所なんてなかった。


 怪物は、逆恨みの復讐を遂げたと思ったに違いない。


 恍惚に表情を蕩けさせた彼は、果たして気付いただろうか。


 憎い相手の左腕に備わった異形の爪が、まだ一度も振るわれていないことに。


「おおおお!」


 迸るのは、裂帛の気合い。

 この瞬間に放たれた左腕こそが、先輩の切り札だった。


 リリィさんの『悪魔ノ腕』を模した大爪が、怪物の腕と激突する。


 ほんの一瞬の均衡が崩れ、押し勝ったのは先輩だった。


 白い蜘蛛の暴虐の力を再現した左腕は、ほんのわずかな時間だけ、怪物の力にも負けない爆発力を先輩に与えていたのだ。


 鋭い爪が怪物の肉を抉り、骨を砕き、軌道をねじ曲げる。


 怪物の攻撃を正面から突破した結果、先輩は絶好の攻撃のチャンスを得ていた。


 大きく跳躍し、唯一、人間の姿を残した首に肉薄する。


「ひゃはっ」


 だが、怪物は狡猾だった。


 振りかぶり、打ち放った先輩の左腕が、肉の壁に阻まれる。

 怪物はまだ一本、防御のための腕を残していたのだ。


 肉が弾け、体液がこぼれ、骨まで砕いて、腕を引き千切って。

 そこで、先輩の跳躍の勢いが失われる。


 攻撃は届かなかった。


 トラヴィスの面影を唯一残した頭部が勝ち誇った笑みを浮かべる。


 そして、直後に凍り付いた。


 その眼前に、影絵の少女が飛び込んできたからだ。


「あとは頼んだ……!」

「任せろ!」


 役割を果たした先輩の呼び掛けに、ドーラさんは短くも力強い答えを返した。


 影絵の剣が振りかぶられる。


「あ、あぁあ。あぁああ……!」


 怪物がなにか喚こうとした。


 敵対者への怨嗟か。

 とどめを刺そうとする者に対する慈悲を乞う懇願か。


 いずれにしても、ドーラさんは許さない。


 そうするだけの理由が、彼女にはあったからだ。


「王に深手を負わせた罪科、その命をもって贖え」


 憤怒に猛る影絵の剣が振り下ろされる。

 怪物の首が宙に飛んだ。


   ***


 大きな音を立てて、肉の塊が倒れ伏した。


 その光景を確認してから、わたしは駆け出していた。


 なるべくならみんな近くにいたほうがいい……という理性的な判断もあるにはあったが、それよりも先輩の傍にいたい気持ちが強かった。


「先輩!」

「……ちょっと待ってくれ。加藤さん。道が引っ繰り返っていて危ない。いま、そっちに行くから」


 近付いたところで、気付いた先輩に制止された。


 怪物が破壊した瓦礫のせいで、まともに歩けなくなった道を飛び越えて、背後にサルビアさんを連れた先輩がこちらにやってくる。


 わたしはすぐに、残った距離を駆け寄った。


「先輩! 無事ですか!?」


 上から下まで、体の状態を確認する。


 大怪我はない。

 けれど、体中に大小の裂傷と打撲があった。


 あれだけ強烈な攻撃の嵐のなかにいたのだ。

 飛び交う瓦礫が肌を抉ったのだろう。


 居ても立ってもいられないような気持ちが胸を疼かせる。

 わたしはその気持ちに逆らわなかった。


「すぐに治療しますね」


 先輩の頬に手を添えて、回復魔法の魔法陣を展開する。


 触れた掌の下、先輩の頬は戦闘の余熱を残していた。


 ここに来てから数時間、ずっと先輩に抱っこしてもらっていたせいか、触れ合って存在を確認できたことに心の底から安堵した。

 わたしの体は、すっかり先輩の温度に慣れてしまったかのようだった。


 そうしてわたしが治療をしている間に、ドーラさんは工藤くんのところに駆け寄っていた。

 今更だが、左腕の治療をしようというのだろう。包帯を取り出していた。


 工藤くんの左腕は、あれだけの怪我をしていながら出血さえしていなかった。

 もともと、相当に悪い状態にあったはずだ。

 処置をしたところで、どれだけの意味があるのかはわからない。


 けれど、ドーラさんはそうせずにはいられないのだろう。


 先輩も気遣わしげに、工藤くんのことを眺めていた。


「まさかトラヴィスが出てくるとはな。それも、あんなふうになって」

「はい。わたしも驚きました。でも、ようやく因縁を断ち切ることができましたね」

「……そうだな」


 怪我人は出たが、大きな窮地を乗り切ることができたのだ。


 先輩たちが見事なコンビネーションで強敵を倒したことをわたしは喜んだけれど、先輩の反応はにぶかった。


 なにか別のことに気を取られているふうがあった。


「どうかしたんですか」

「ああ。ちょっと、サルビアがな」

「サルビアさんが? ……あ。そういえば、さっき話すことがあるとか言ってましたっけ」


 わたしが視線を向けたところ、サルビアさんは頷きを返した。


「ええ。この場所について、ひとつわかったことがあったの」

「この場所について……?」


 この答えを聞いて、わたしもふと思い出したことがあった。


 それは、怪物に襲われる直前に気付いたことだった。


「ひょっとしてですけど、サルビアさん。わかったことっていうのは、『この場所に生息しているモンスターの死体が見当たらないこと』と、なにか関係がありますか?」


 通路の先で倒れる人影を見付けたときのことだ。

 工藤くんは、その人影について『この場所にかつて迷い込んだ人間だろうか』と、可能性を挙げた。


 実際には、倒れていたのは岡崎琢磨の遺体だったわけだけれど、その発言を聞いて、わたしは別の奇妙な事実に思い至っていた。


 それが、工藤くんの言うような『この世界の住人』どころか『棲み付いているモンスターの死体』すら、この場所で見掛けていないという事実だった。


 樹海のような場所であれば、木々や下生えが死体を隠して目に付きづらいこともあるだろうし、土に還るのだって速いだろう。

 けれど、この場所はそうではなかった。


「なんの形跡もないというのは、ちょっと不自然かなって。この場所は、なんというか『綺麗過ぎる』気がするんです」


 もっとも、それがなにを意味しているのかまではわからなかった。


 ただ、サルビアさんは先輩が魔法『霧の仮宿』を使えない原因を突きとめるために、この場所に関して解析を進めて、なにかに気付いたのだという。

 その話を聞いて、自分の気付いた不思議な点となにか関係があるのではないかと思ったのだ。


 だけど、わたしはそれ以上、詳しい話を聞くことができなかった。


 唐突に先輩が顔を強張らせたからだ。


「加藤さん!」


 直後に、突き飛ばされた。


「……え?」


 背後に倒れゆくわたしが見たのは、突き飛ばした手を伸ばす先輩の姿。


 そして、わたしを庇って体勢を崩した彼の側面から迫る、鬼気迫る形相の生首だった。


「トラヴィス……!?」


 蛇のように伸びた首をくねらせて、あと少しで息絶える命を燃やし尽くして、トラヴィスの生首が先輩に飛び掛かっていた。


 いまのトラヴィスはまさに、憎悪と妄執の具現のように見えた。


 すべてはただ、自分を破滅させた憎い少年を殺すためだけに。

 それが逆恨みだなんてこと考えないし、言ったところで聞こえない。


 先輩自身も、工藤くんたちも、対応が間に合わない。

 うしろに倒れ込みながら、わたしはただ、その光景を目の当たりにするしかない。


 涎を撒き散らす口が、かっぽりと開かれる。


 がら空きになった先輩の喉元に、大きく広げられた歯列が迫って――。


「しぶといのもそのへんにしときなよ」


 ――その側頭部に、どすりと音を立てて、飛来した槍が突き立った。


「え?」


 よく使い込まれた槍だった。

 鋭く頑丈な穂先は深々とトラヴィスの頭部に突き刺さり、逆側から突き抜けていた。


 側面からの攻撃に軌道が逸れて、トラヴィスの生首が地面に叩き付けられる。


 わたしも尻餅をついて、その拍子に目を閉じてしまった。


 もう一度、目を開けたときにはすべてが終わっていた。


 トラヴィスの生首は、今度こそ完全に沈黙していた。

 さすがの憎悪の化身も、脳髄を破壊されてはひとたまりもなかったのだ。


 危ういところを助けられた先輩が、ばっと弾かれたように振り返った。


 こちらに歩いてくる、人影があった。


「おーいおい。危ないなあ」

「お前は……」


 男性にしてはやや背が低く、骨太な印象。

 ぼさぼさの髪の下には、悪戯っぽい印象の目があった。


 両手には戦闘用の無骨なナイフが二振り握られている。


「よう、孝弘。元気そうでなにより」

「幹彦!」


 親友の登場に驚く先輩の声には、確かに喜びが込められていた。

◆さらに更新します。

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