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33. 仮面の怪人

(注意)本日2回目の投稿です。(5/26)














   33



 ついにオットマーが姿を現し、本格的な戦いの火蓋が切られた。

 リリィたちは正体不明の怪人を連れたオットマーを引き付けて移動を開始したため、主人のことを他の眷属に任せるほかなくなった。


 そこで期待をかけたのは、合流間近のローズとロビビアのふたりだった。


 リリィは知らないことだが、このふたりは『韋駄天』飯野優奈と行動をともにしている。

 合流が叶えば、リリィが思っている以上に、孝弘の身の安全は飛躍的に向上するだろう。


 それは事実だ。


 ……ただし、合流が叶えばの話だが。


 リリィには、ひとつ気付かなかったことがあった。


 全体の一部しか状況を把握できない彼女では、どうしても気付けないことはある。

 先程、パスを介して仲間たちの位置関係を調べたときのことだった。


 孝弘とローズの位置が、前に確認したときよりも近付いたことを、リリィは確認した。

 それはいい。


 問題は『そうなったのがいつからか』ということだ。


 ずっと移動を続けてきて、いまそこに来たのか。

 それとも、もっと前にその地点まで移動して、足をとめているのか。


 リリィの確認方法ではわからないのだ。


 ずっと位置を追跡していたなら気付けただろう。

 あるいは、飯野がローズたちと同行していることを知っていたなら、おかしいと思えたかもしれない。


 ――ローズたちに関しては、この感じだと、合流までかかる時間は最初に予想してたのと同じくらいだね。


 リリィがガーベラと会話しているときの発言だが、これはおかしいのだ。


 なぜなら、ここでの予想とはリリィのできる範囲でのものだ。

 言い換えれば、『ローズとロビビアがふたりきりで行動している』と考えたうえでの予想なのだった。


 障害物であるモンスターと行き遭うたびに、戦闘を行ってから前に進む計算をしていた。


 けれど、実際には彼女たちには『韋駄天』が同行していた。

 モンスターなど障害物にもならず、普通ではありえない速度が出せていた。


 である以上、それを知らないリリィの予想と同じくらいというのは、もう明らかに遅いのだ。


 なにかがあったということだった。


 では、なにが?


 そう問うことに意味はない。

 なぜなら、その疑問には、すでに答えが出ているからだ。


 すなわち、戦いが始まっていたのは、リリィたちだけではなかったということで――


   ***


「なにか近付いてきてるわね」

「またモンスターですか」

「でしょうね」


 優奈とロビビアとの間で起きた諍いをローズが収めて、すぐあとのことだった。


「まずは邪魔者をどけないとね」


 そう言って駆け出した優奈は、直後に血相を変える羽目になった。


「な、なんなの、こいつら!?」


 あまりに狼狽し過ぎて、焦りを隠すこともできない。


 それでも細剣を繰り出すことができたのは、これまで超えてきた修羅場の経験があればこそだった。


「はあぁあ!」


 その一撃は誰より速い。

 腕力だって、戦闘向きのチート持ちで一般的なウォーリアの平均と比べて、そう見劣りするものではない。


 事実、この強烈極まりない一撃は、これまでモンスターを蹴散らしてきた。


 けれど、この場では耳障りな金属音を立てて受けとめられる。


 常人では目にもとまらぬ斬撃を剣で防いだのは、仮面をかぶった怪人だった。


 リリィが遭遇した怪人と、同じ仮面だった。


「……ありえない」


 優奈は唖然としてつぶやいた。


 さすがに反応は遅れがちではあったものの、怪人が自分の攻撃に追い付いてきていたからだ。


 チート持ちでも最上位の力を持つ彼女に追い付ける人間なんて、同じチート持ちか『戦鬼』クラスの恩寵の愛し子、あとはかろうじて、リリィやガーベラといった最上位モンスターくらいのものだ。


 とんでもない手練れである。


 その事実に驚愕しつつ、優奈は動き続ける。


「やあっ!」


 速度を活かして身を翻すと、先程とは別の角度から剣を繰り出す。

 敵の反応が遅れがちである以上、連続で攻撃を繰り出し続ければ、いずれ追い付けなくなるのは目に見えていたからだ。


 だからとにかく手数を増やす。


 その方針は間違っていないし、遠からず怪人は斬り伏せられるだろう。


 敵がひとりであるのなら、の話だが。


「また……!」


 改めて繰り出した攻撃は、割り込んだ別の怪人に防がれていた。


 驚愕すべきことに、こちらも優奈とやり合えるだけの力を持っていた。


 それだけではない。


 怪人たちの数は、全部で五人もいたのだ。

 信じられないことに、その全員が多少の差こそあれ、同レベルの戦闘能力の持ち主だった。


「……嘘でしょう。岡崎くんは何者と手を組んだっていうの!?」


 優奈が動揺するのも無理はない。


 これでは、全員がウォーリアと比べて遜色なかった。


 違うところと言ったら、統率が取れていることと、精神面が強いことくらいだろう。


 良くも悪くも、ウォーリアは我が強く、劣勢になると精神面から崩れがちだ。

 自分にはなにか力があるに違いないと、無意識の確信から力を得ている以上、そうした性質は必然として備えているものと言えた。


 だが、目の前の敵は連携して優奈と戦っている。

 誰かひとりがスタンドプレーに走る予兆は欠片もない。


 また『韋駄天』という、自分より格上の相手と戦っても揺らいでいない。

 自分の役割をきっちりと果たしていた。


 付け入る隙がなかった。


 さすがの『韋駄天』といっても、自分と近いレベルの敵を複数相手取っては、蹴散らすことはかなわない。


 ……もっとも、それでもここにいるのが優奈だけなら、この状況をどうにかできたかもしれない。


 最悪、脚力に任せて逃げてしまえばいいのだ。

 この連中が何者であれ、探索隊の『韋駄天』に走る速度で追い付くことはできないのだから。


 しかし、それはできない。

 この場には、ローズとロビビアがいたからだ。


「ギィ!?」


 回り込んだ怪人の攻撃を受けてとめきれず、盾にした斧ごとローズが薙ぎ倒される。


「このぉ、離れなさい!」

「ローズ!」


 優奈は即座にフォローに回り、ロビビアが悲鳴をあげた。


「……わたしは大丈夫です。あなたは自分の身を守りなさい」


 起き上がったローズは、冷静に言うと、いまの攻防で駄目になった左腕を振る。


「戦装『マトリョーシカ』――換装」


 人形の腕がふたつに割れて、魔法道具が起動。

 新しく出現した腕を取り付けて、ローズは改めてかまえた。


「これくらいでは倒れません」


 ローズはダメージをリセットして、臆せず戦う姿勢を見せた。


 この立ち直りの速さこそが、彼女が得た最大の武器である。

 そもそも、いまの攻撃を受けたのだって、ロビビアを庇ってのことだった。


 ローズとロビビアは、よく戦っていた。


 彼女たちには怪人たちと正面から戦うだけの力はないが、優奈が対応する隙を突くかたちでの不十分な攻撃であれば、防ぐだけの力量はあった。

 特にロビビアの戦闘力は高く、炎のブレスで優奈の援護もしていた。


 たまに危ない場面があっても、すぐに戦線に復帰することが可能なローズが率先して盾になることで、事なきを得ている。


 怪人たちの連携は大したものだが、ローズとロビビアも負けてはいない。

 優奈のフォローもある以上、これならそう簡単にやられてしまうことはないだろう。


 だが、逆に彼女たちのほうが敵を撃破することも難しかった。


 お互いに決め手に欠けている以上、戦況は膠着する。

 それはすなわち、孝弘との合流が妨げられることを意味していた。


「なんなんだよ、こいつら! あとちょっとだってのに!」


 ロビビアが苛立たしげに叫ぶ。


 ここで足留めを喰らって、かなりの時間が経過していた。


 この膠着状態を打破するには、状況を変化させるなにかが必要だ。


 そういう意味では、孝弘の側からの合流こそが求められていることだった。


 ローズたちが『韋駄天』飯野優奈という切り札と行動をともにしていたように、孝弘にも『魔軍の王』工藤陸という鬼札がある。


 戦力の大半と切り離されたとはいえ、それでもまだナイトメア・ストーカーのドーラ、ダーティ・スラッジのツェーザー、エレメンタル・ドラゴンフライのフリードリヒを従えた工藤の戦力は強大だ。


 状況を引っ繰り返すのには十分過ぎる。


 だからここから先は、いかにして真島孝弘が早くこの場に駆けつけるかが勝負の分かれ目になるのかもしれない。


   


 無論、これは言うまでもないことだが――


「……どうして、お前がここにいるんだ!?」


 ――本格的な戦闘が始まっているのは、ここだけではない。



◆昨日の活動報告でも話しましたが、


コミカライズ版『モンスターのご主人様』のCMがYoutube にあがっていますので、

ぜひご覧ください。活動報告にリンクも張ってあります。



◆更に更新します。

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