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モンスターのご主人様  作者: ショコラ・ミント/日暮 眠都
6章.人形少女の恋路
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11. とある町角での遭遇

前話のあらすじ


毒に倒れた孝弘。

そこに押し寄せるのは、偽勇者討伐を謳うマクロ―リン辺境伯領軍。

   11



「あら」


 宿を出ようとしたところで声を聞いて、ぼくはうしろを振り返る。


 年上の少女がこちらに視線を向けていた。


 栗山萌子さん。

 探索隊のリーダーである中嶋さんの護衛をしている人物だ。


「町に出るのですか? 探索隊の幹部として、あまり羽目を外さないようにしてくださいね、岡崎くん?」

「はは。わかっていますよ」


 探索隊の二つ名持ち、『万能の器』の岡崎琢磨。

 それが探索隊での、ぼくの肩書きだ。


 もっとも、こんなのは別に望んだものじゃない。


 求められたから応えただけ。

 この世界にやってきて手に入れたぼくの力は、ちょっとばかり優秀過ぎたのだ。


 面倒なことだ。


 かといって、どうでもいいやと無視することもできないのがつらいところだね。


「ちょっと町を見てくるだけですよ。社会見学みたいなものです。栗山さんもどうですか?」

「わたしはやることがありますので」


 おや、残念。断られてしまった。

 だけど、仕方がないかな。


 栗山さんは忙しい。

 一応、肩書き上は中嶋さんの護衛ということになっている彼女だけれど、そんなものあの人には必要ないので、実際の働きは秘書に近い。


 中嶋さんは大雑把なところがあるから、大変だろう。


 あの人も、なかなか優秀な人ではあるんだけれどね。


「くれぐれも勝手なことはしないように」

「わかりました」


 釘を刺してくる栗山さんにそう返すと、ぼくは泊まっていた宿を出た。


   ***


 探索隊は現在、とある宿場町で過ごしている。

 この町には二日間、逗留をする予定だ。


 全員がチート持ちである探索隊は、みんな常識外れた体力を持っているので、物資の補給はさておいて、休息を摂る必要性は薄い。


 なのに、滞在期間が二日取られているのは、町で歓迎の席を設けるとの申し出があったからだ。


 探索隊のメンバーからすれば、まあ休日みたいなものだ。

 半分くらいのメンバーは、町に繰り出しているはずだ。


 あとは宿でゆっくりしている者もいるし、リーダーである中嶋さんをはじめとした数人については、周辺のモンスター討伐などの仕事に動き出してもいる。


 さっき栗山さんが忙しそうにしていたのは、こちらの関係かな。


 討伐計画の細かいところを、町の人たちと詰めなければならないのだろう。


 まあでも、それは彼らの話だ。

 ぼくには関係がない。


 といっても、他の転移者たちのように、町に出て遊び歩こうと思っているわけでもない。


 ぼくにはぼくのやるべきことがある、とでも言えばいいのかな。


 力があるというのも考えものというか、ぼくとしては面倒なんだけどね。


 栗山さんには勝手なことをするなとは言われたけれど、まあ、それはそれ。仕方のないことだと諦めてもらおう。


 ま。そもそも、気付かれるようなヘマはしないけどね。


 ぼくは市場とは逆の方向に向かった。

 人目がなくなったところで足をとめる。


「さてと。じゃあ、行こうかな」


 たたんっ、と。


 鼻歌交じりに、独特のステップを踏む。


 ふと思い立って、タップダンスの練習を始めた……なんてわけではない。


 同時に身の裡の魔力を高めている。


「よっと」


 およそ五秒ほどの短いステップの最後に、少し強めに地面を蹴った。


 浮遊感。ずれる感覚。移り変わる。


「成功っと」


 着地したときには、景色が切り替わっていた。


 同じ路地裏だが、さっきまでとは別の場所だ。


 というか、別の町だ。

 前に訪れたことのある場所だった。


 さっきまでいた町とは、百キロ以上は離れている。


 所謂、瞬間移動だった。


 もちろん、魔法の存在するこの世界でも、こんなことは普通できない。

 できるとしたら、それは転移者の固有能力だけだ。


「ふう」


 脱力感を覚えて、ぼくは小さく吐息をついた。


 一瞬で体内の魔力を大きく消耗してしまったせいだった。


 この移動方法、消費魔力が大きいことが玉に瑕だ。

 それなりに便利なんだけどね。


「琢磨様!」


 路地裏から立ち上がる影があって、ぼくはそちらに目をやった。


 最初から気配には気付いていたので、突然呼び掛けられても驚きはない。


「こら。駄目だろう。宿で待っていろって言っていたじゃないか」

「も、申し訳ありません」


 返事をした彼女の名前はサラ。


 ちょっとしたトラブルに巻き込まれていたのを助けたのが切っ掛けで、知り合いになった女の子だった。


 頬に白い染料で特徴的な化粧をしている。

 これは草原地帯で暮らす人々特有のものらしい。


「帰ってきてくださったことが嬉しくて。待っていられませんでした」

「そうか。ふふ。まあ、だったら仕方がないかな」

「それにしても、ほんとにぱっと現れるのですね。驚きました」


 サラは素直な尊敬の目を向けてきた。


 ぼくはくすりと笑った。


「こんなのはたいしたものじゃないよ」

「そんなことありません! それが、琢磨様の勇者様としての能力なのですよね」

「いや。違うよ?」

「え?」


 サラがきょとんとした顔をした。


 まあ、わからないだろうね。


 どういうことなのか教えてあげても良いんだけど……それは今度のお楽しみということにしておこうかな。


「悪いね、サラ。話はここまでだ。今日は用事があるんでね」

「あ。そうなのですか」

「うん。名残惜しいんだけど、ぼくはそちらに行かなくちゃいけない。宿に戻っていて、ご飯でも手配しておいてくれ」

「わかりました」


 ぼくが指示を出すと、疑問のひとつも浮かべず、従順にサラは頷く。


 みんなあれくらい素直なら、ぼくも楽ができるんだけど。

 なんて言っていても仕方がないので、ぼくも動き出すことにした。


 表通りに出て、雑踏のなかを歩き始める。


「うん?」


 その途中で、ちょっとした騒ぎを聞きつけた。


「草原の民風情が、舐めた真似をしてくれる!」


 足がとまった。

 草原の民というのは、サラの出身部族のことだ。


 サラが帰ったのは別の方向だけれど、万が一ということもある。


 念のために足を向けてみることにした。


「も、申し訳ありません。申し訳ありません……」


 案の定、そこにいたのはサラではなかった。

 十歳にもならないくらいの男の子が、偉そうな男に許しを乞うている。


 子供の頬には、サラと同じ白い化粧がしてあった。

 殴られでもして転んだのか、体中が擦り傷だらけだ。


 そんな子供を、上等な服を着た恰幅の好い中年男性と、その取り巻きと思われる男たちが取り囲んでいた。


 なにがあったのかはわからないが、どんな理由があっても、大の大人があんな小さな子供に向けて良い態度ではない。


 それがまかり通っている理由は、あの男が口にした『草原の民』という単語にあった。


 草原の民は、その名の通り、町の外の草原地帯で、牛の放牧によって生計を立てている人々だ。

 基本的にこの世界の人間は生まれた町の壁のなかで一生を終えるため、町の外で暮らす彼らは異質な存在として見られる。


 そのため、彼らはある種の偏見の目を向けられることもある。

 立場としては、エルフに近い。


 町のなかでは、理不尽な扱いを受けることも多いのだという。

 サラと知り合ったのも、そうしたトラブルから彼女を助けたのが切っ掛けだった。


 どうしたものかなと、ぼくは思案する。


 サラと同じ部族のことだ。

 あの少年が彼女の知り合いという可能性もないでもない。


 面倒ごとはごめんなのだけれど、これは仕方がないかな。


 などと考えていると、声があがった。


「なにをしている!」


 人垣の間から、金髪の男性が進み出た。


 少し神経質そうだが、真面目そうで精悍な青年だ。

 体は良く鍛えられており、完全武装した姿は軍人のものだ。


 きっと戦場を駆け回った経験があるのだろう。

 義憤を露わにしたその威圧感たるや、相当なものだった。


「な、なんだ、若造め。わしを誰だと思っている!」


 中年男性が反発してみせる。

 それだけの気概があったというよりも、これはどうも、普段から威張り慣れているせいで、退くに退けなかったってところかな。


 可哀そうに。


 当然、こけ脅しの態度なんて青年は歯牙にもかけなかった。


「あなたが誰かなど知りません」


 ぴしゃりと言ってから、腰の剣に手をかける。


「わたしはルイス=バード。マクロ―リン辺境伯から兵を預けられた者。正義なき行いを黙って見逃すわけにはまいりません」


 人垣から部下の兵士たちが現れる。


「捕えなさい」

「ちょ、ちょっと待て! いや。待ってください!」


 中年男が慌てふためいた。

 自分より年下だと舐めてかかっていた相手が、立場ある人間であることに気付いたらしい。

 へりくだった態度に変わっていた。


「お待ちを、軍人様。こいつは草原の民ですよ!」

「だからなんだというのです。我らは過酷なこの地に生きる人間同士。どこの出であるかなど関係はありません」


 はっきりと言ってのける。


「話はあとでゆっくり聞きます。安心しなさい。あなたに非がなければ、すぐにでも解放されることでしょう」


 判断も公平だった。


 なかなか立派な人らしい。


「……くそ!」


 中年男が駆け出した。


 やましいことがあったんだろうね。

 腹の肉を揺らしながら走っていく。


 もっとも、ろくに運動もしていなそうなあのざまでは、逃げられるわけがない。

 すぐに騎士のひとりが追い付いて、その腕を捻り上げた。


 無様な悲鳴が上がる。

 良い気味だ。


「少年の保護を。怪我の治療をしてやりなさい」

「わかりました」


 見事に場を修めてみせた青年が、部下に指示を出した。


 そこまでを見届けて、ぼくはその場を去った。

 約束があることを思い出したからだ。


 それにしても、ルイス=バードね。


 聞き覚えがある名前だった。

 確か飯野さんが探索隊に一度戻ってきたとき、話に出てきた人物だったはずだ。


 マクロ―リン辺境伯の名前も出していたし、まず間違いはないだろう。


 お忍びで探索隊から抜け出してきて、そんな人物に出会うとは、妙な偶然もあるものだと思う。


 彼から間違った情報を与えられたから、飯野さんは真島と戦うことになったとかなんとか。

 飯野さんの目からは、ルイスさんは正義感に溢れた立派な人に見えたらしく、わざとそのような情報を流したのだとしたら……と、暗い顔をしていた。


 この分だと、その心配は杞憂だったらしい。


 それどころか、なかなか良いものが見られた。

 ああいう人はもっと増えてほしいものだ。


 そんなことを考えているうちに、町の広場に出た。

 ここで人に会う約束をしていたのだけれど……あ、いた。


「……遅い」


 開口一番に文句を言われた。


 けれど、こちらに向けられたしかめっ面は、すぐに気の好い笑顔に変わった。


「だが、来てくれたことには感謝するぜ。相変わらずそうでなによりだ、岡崎」

「きみもね、神宮司くん」


 約束をしていた人物、『竜人』の神宮司智也が、精悍な顔を引き締めた。


「お前の助けが要る。話を聞いてもらえるか」


 ぼくは肩をすくめた。


「そのために来たんだよ――」



   ***


「――岡崎、起きろ」


 声をかけられて目が覚めた。


 どうやら座ったまま、眠りこけてしまっていたらしい。


 夢を見ていた。

 ちょっと前の出来事だった。


 夢で出てきたのと同じ人物が目の前にいた。


「神宮司くんか。そろそろ時間かな?」

「ああ」


 短い答えが返ってくる。


 なら仕方ない。

 ぼくはひとつ伸びをしてから、立ち上がった。


 面倒なことだけど、人助けと行こう。


 早く帰って、サラの手料理が食べたいね。

◆お待たせしました。

その他の転移者の話でした。


思いのほか、書きづらかった……。

話を挟む位置は悩んだんですが、とりあえず、この辺で。


追記。

このキャラは前に飯野視点で出てきた子です。

それなりに喋ってたんですが、出てきたのが昔なので忘れられてるかも……。



◆更新日が噛み合わなかったのでちょっと日が遅れましたが、

ウェブ版『モンスターのご主人様』を投稿し始めてから3年が経ちました。


これからもよろしくお願いします!

ってことで、もう一回更新です。

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