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モンスターのご主人様  作者: ショコラ・ミント/日暮 眠都
6章.人形少女の恋路
165/321

03. ローズの息抜き

前話のあらすじ:



(一部抜粋・改変)




 久しぶりに王に会えた嬉しさに、わたしは尻尾を振りそうになり、危うくその衝動を堪えた。


 そうした感情の表れを王が嫌うのは知っていたからだ。



「ベルタ、帰還しました。……どうしましたか」



(……触手が揺れてますね)

(……触手が揺れているな)

(……バッタバッタしてる)


「?」

   3



「おや。ご主人様。なにか御用でしょうか」


 部屋を訪れると、出迎えてくれたローズは首を傾げた。


「いや。用というほどのことじゃないんだが。少し顔を見に来たんだ」

「さようですか」


 精緻そのものの顔立ちに微笑みが浮かんだ。

 温かなものを感じさせる笑みだった。


 仕草も表情も、本当にずいぶんと自然なものになったものだと、ふとした瞬間に思う。


 大きな表情はまだ作れないらしいのだが、立ち振る舞いに違和感は欠片もなかった。


「お入りください」


 扉を開けて、ローズは室内に戻っていく。


 その足取りは軽いものだった。

 おれのために椅子を引いてくれる仕草も、どことなくうきうきしている。


 パスからも、彼女がこの訪問を喜んでいることが伝わってきた。


 普段は落ち着いた物腰のローズだが、たまにこのように、少し子供っぽい面を見せることがある。

 大抵の場合、それは彼女が得意とする創作に関わることなのだが、今日はどうだろうか。


 そんなことを考えながら部屋に足を踏み入れたところで、ローズがくるりとこちらを振り返った。


「いま、お茶をお淹れしますね」


 そう言って、作業をしていて汚れた手を、テーブルの上に置いてあった濡れタオルで拭う。


「別に気を遣わなくてもいいぞ」


 ローズが引いてくれた椅子にかけつつ、おれはなにげなく返した。


 失敗したと気付いたのは、次の瞬間だった。


「……不要ですか?」


 ローズがぴたりと動きをとめた。

 ぽつりと尋ねてくる。


 表情はあまり変わらないものの、明らかにがっかりした様子だった。


「あ。いや。淹れてくれるなら嬉しいが」

「でしたら、淹れされていただきますね」


 おれが付け加えると、ローズはいそいそと準備を始めた。


 ……こういうとき、わかりやすいのは良いことだと思う。


「というか、ローズが淹れてくれるのは珍しいな」

「そうですね。普段は真菜がやってくれますから」


 エプロンのポケットから魔法の道具袋を引き摺り出しながら、ローズは答えた。


「ただ、ここ数日、真菜とは別行動を取ることが多いので。事前に教わっておいたのですよ」

「ん? だが、ローズは飲めないだろう」


 人形の体を持つローズ自身は飲食できない。

 加藤さんがいないからと言って、お茶の淹れ方を覚える必要はないはずだった。


 魔法の道具袋のなかから必要な道具を取り出したローズが答えた。


「はい。ですが、ご主人様がいらっしゃるかもしれないと思いまして」

「……」

「ふふ。早速、役に立ちました」


 つまり、ローズは来るかどうかもわからないこうした機会を想定して――あるいは、期待して――準備をしていたらしい。


 なんとなく、むずがゆいような気持ちになる。


 ……もう少し、こうした機会を設けてもいいかもしれない。

 そんなことを思った。


 魔法道具でお湯を沸かし始めたローズがこちらを向いた。


「しかし、ご主人様は確か村の方を交えて話し合いをされていたと思いますが、そちらは終えられたのですか?」

「おおよそな」


 ふうとおれは溜め息をついた。


 シランとケイの故郷の開拓村に襲来した聖堂騎士団第四部隊を退けて、一週間。

 その間、おれたちは慌ただしい日々を送っていた。


 決めなければならないことも、やらねばならないこともたくさんあった。


 まずは樹海という土地柄、亡くなってしまった人々はグールになってしまう可能性があったため、その前に被害者を弔わなければならなかった。


 また、村の二重の防壁は、外側を放棄することに決まった。

 戦力は十分でも人数が足りないため、全周を守り続けるのは難しいし、少なくなった村人たちが暮らすだけなら、内側の敷地だけでも十分だったからだ。


 食料や物品については引き上げて、内側の防壁に優先して補修を施した。


 そうする間に、隣村への連絡も行った。


 これは、シランの伯母であり、隣村の村長の妻でもあるリアさんにも協力を頼んだ。


 万が一に備えて同行したリリィとロビビアとともに、こちらの村の現状を伝えてくれたリアさんは、夫のメルヴィンさんから協力の約束を持ち帰ってくれた。


 この村の生き残りにとって、これは朗報と言えるだろう。


 彼らの今後は流動的だ。


 最悪の場合、村を放棄して隣の村に移住することもありうる。


 あるいは、このまま村を維持する方向も考えられる。


 村がひとつなくなるということは、それだけ人間の領域が小さくなるということでもある。

 エルフの開拓村は、お互いにお互いを支えており、ひとつ欠ければ、このあたり一帯の危険が増すことにも繋がってしまいかねない。


 なるべくなら、村は維持されたほうが望ましいのだ。

 さいわい、村の施設は生き残っているため、隣村から移住してもらい、村を復興するという選択肢もまだ残されている。


 いずれの選択をするとしても、メルヴィンさんの協力の約束は、この村のエルフにとっては心強いものだろう。


 このあたりは将来の話だが、それ以外に、直近の対応についても動き始めていた。


 おれたちの抱える最大の問題――聖堂騎士団に関することだ。


 先日、聖堂騎士団はシランの故郷の開拓村を襲い、罪もない村人たちを多く手にかけた。


 しかし、シランの知る限り、聖堂騎士団の上層部――団長のハリスン=アディントン、副長のゴードン=カヴィルともに、決してこのような暴挙に出るような卑劣な人物ではないのだという。


 今回の一件は、手柄を求めたトラヴィスに率いられた第四部隊の暴走と考えるのが自然だ。

 無論、そうでない可能性も考慮しなければならないが、だからといって、こちらから対話の可能性を切り捨ててしまっては破局に突き進むことになってしまう。


 おれたちにとって最悪のシナリオは、この一件が発端になって、聖堂騎士団との関係がこじれてしまうことだ。


 どうにかして話し合いに持ち込んで、争いを回避する必要があった。


 しかし、そのためには聖堂騎士団への連絡の手段をまずは確保しなければならない。


 おれはアケル王家に連絡を取って、聖堂騎士団との仲介をしてもらえないかと考えていた。


 そもそも、アケルにおれを招待した同盟騎士団の団長さんは、アケル王家の人間だ。

 また、聖堂騎士団に襲われたエルフたちはアケルの国民であることを考えれば、今回の事件における当事者のひとりとも言える。


 彼らに渡りをつけてもらうのが一番可能性のある方法だと考えたおれは、リアさんが隣村に行く際に、手紙を預けておいた。

 今頃は隣村の人々の手によって、手紙はディオスピロの町に向かっているはずだった。


 さいわい、ディオスピロに駐留する王国軍には、シランの元同僚であるアドルフが所属している。


 確実性を増すために、おれと加藤さんの連名のほか、シランの署名も入れておいた。


 あとは向こうのアクション待ちだった。


 こうした対応のほか、聖堂騎士団との争いの喧騒に引き寄せられてきたモンスターを討伐したり、聖堂騎士団の再襲撃がないか警戒したり、村の今後について村人たちと話し合いをしたりしている間に、時間は瞬く間に過ぎていった。


 いまは、ようやく一息つけたところだ。


 おれは口を付けたカップをテーブルに置くと、対面に座ったローズに声をかけた。


「悪いな、ローズ。ずいぶんと忙しくさせてしまって」


 間違いなく、ここのところ一番忙しくしているのは、ローズだった。

 防壁の修復と補強、壊れた家々の修繕、傷んだ武具のメンテナンスに、消費した模造魔石の補充……やるべきことは多くあり、休憩する暇さえなかったほどだ。


「いいえ。気になさらないでください。なすべき仕事があるのは喜ばしいことですから」

「そうは言うけどな」


 本気でローズが言っているのはわかるが、それに甘えてばかりではいけないだろう。


 作業の進捗状況を見る限り、聖堂騎士団を退けた戦いからこのかた、ローズはまったく休んでいない。

 ひょっとすると、これが初めて一息ついた時間かもしれない。


 人形の体に休息は必要ないにせよ、精神面はまた別だろう。

 仮にローズなら堪えられるのだとしても、それで負担をかけていいことにはならない。


 しかし、ローズの性格を考えると、ちょっと言ったくらいでは休まないだろうし、かといって、命令して休息を摂らせるのも少し違う気がする。


 どうしたものだろうか。


 考えるおれのことを、きょとんとした顔でローズは見詰めていた。


   ***


「相談というからなにかと思ったら、そういうことですか」


 ほう、と吐息が空気を震えさせた。

 どことなく呆れるようであり、それでいて、微笑ましそうでもある仕草だった。


「真剣な顔で言うから、なにがあったのかと思っちゃいましたよ」


 口元を押さえて、加藤さんはくすくすと笑った。


「あー、いや。悪かった」


 決まり悪さを感じて、おれは視線を逸らした。


「こんなときに、なにを暢気なと思われるかもしれないが……」

「いえ。そんなことは思っていませんよ」


 加藤さんは首を横に振った。


「すでに打つべき手は打っていますし、考えるべきことは詰めました。あとはもう、先方の出方待ち……こちらについても、どういう展開がありえるかは一緒に考えましたよね」

「そうだな」

「だったら、かまわないでしょう」


 おれなんかよりよっぽど聡明な加藤さんには、この一週間、幾度となく相談に乗ってもらっている。

 誰よりも状況は把握できていた。


「そもそも、ローズさんのことだって不必要なことではありません。わたし個人としても、ローズさんのことを先輩が考えてくれてるのは嬉しいですからね」


 ローズの親友として、本心から喜んでいるのだろう。

 嬉しそうに言うと、きゅっと華奢な拳を握り締めてみせた。


「任せてください。ローズさんが息抜きできれば良いんですよね。それだったら、わたしに考えがあります」


 そう言い切った加藤さんは、とても心強く見えた。


   ***


 ……のだが。


 あれ?

 なんだか思っていたのと違くないか。


 というのが、おれの正直な感想だった。


「人形のおねーちゃん。あそばないの?」


 大人の腰ほどまでしか背丈のない小さな少女が、こてんと首を傾げた。


 尖った耳、つぶらな瞳。

 胸には、布製の人形を抱きかかえている。


 人形は見るからに年季が入っており、縫い目がほつれかけていた。

 ひょっとすると、誰かのおさがりなのかもしれない。


 部屋には、彼女も含めて、おれたちが助けた子供たちのうち、特に幼い者が集められていた。


 他にいるのは、村の女性がひとりと、おれ、ローズ、加藤さんだ。


「ええと……」


 ローズが戸惑った声をあげた。

 つぶらな瞳で見上げてくる少女を前にして、中途半端に手を伸ばした状態で固まっている。


 困惑に満ちたローズの様子を見て、加藤さんが声をかけた。


「どうしたんですか、ローズさん」

「真菜……」


 ローズが助けを求める顔を向けた。


「その、触れたら壊れてしまいそうに思えて」


 びくっと肩を揺らしたのは、子供たちを一緒に見ていた村の女性だった。


 エルフらしく若々しい顔立ちに、かすかな不安の影が差した。


 一瞬だけそちらに視線をやったものの、加藤さんは気にすることなく会話を続けた。


「心配のし過ぎですよ。こんな小さな子と接するのは初めてでしょうから、気後れするのもわかりますけど……気を付けてあげれば大丈夫ですから」

「ですが、真菜より小さくて細いのですよ。真菜でさえ、ちょっと触れただけでも折れてしまいそうなのに」

「……いえ。ちょっと触られたくらいじゃ折れませんけど。本当に、ローズさんて変なところで心配性ですよね。まあ、気遣ってもらえるのは嬉しいですけど」


 吐息をつく加藤さんに、待ちぼうけの少女が不思議そうな顔を向けた。


「まなさまー?」

「はいはい。わかっていますよ」


 親しみのこもった呼び掛けに面倒見よく返して、加藤さんはローズに水を向ける。


「ほら、ローズさん」

「……わかりました」


 促されて、やっとローズは動いた。


 覚悟を決めて唇を引き結んだ様は、まるで戦いにでも臨むかのようだ。

 しかし、表情の凛々しさとは裏腹に、少女に手を伸ばす動作はこわごわとしていた。


「……あ」


 声があがった。

 小さな指が、伸ばされた手を掴んだのだ。


 少し驚いた顔をしたローズに、少女は無邪気に笑いかけた。


 それで緊張が解けたのだろう。

 ローズもまた口元を緩めると、壊れ物でも扱うかのようにそっとその手を握り返した。


「あそぼ」

「はい」


 少女は無邪気に笑って手を引くと、ローズを座らせた。

 他の子たちも集まってくる。


 彼女たちは、どうやらおままごとをご所望のようだった。

 どういうものなのか知らないローズに、一生懸命に説明を始めた。


 あまり要領を得ない話だったが、ローズは耳を傾けていた。


 動き出してしまえば、物腰も丁寧で真面目なローズは優秀な子守だった。


 ……そう。子守である。


 これが、おれたちがここにいる理由だった。


「なあ、加藤さん」


 状況がどうにも掴めない。


「これは、どういうことなんだ?」

「あ、はい。それはですね、先輩……」


 ローズの様子を見守っていた加藤さんが、すっと身を寄せてきた。


「実は、ここ数日考えていたことがありまして」


 内緒話の距離。無防備な近さで、甘い女の子の匂いがした。


 けれど、加藤さんの表情に甘さはなかった。


「さっきの、先輩も気付いてましたよね」


 言いながら、もうひとりこの場にいるエルフの女性に、冷静な瞳を向ける。


「ローズさんのこと、少し警戒していました」

「……ああ。そうだったな」


 加藤さんは眉を下げた笑みを作った。


「仕方のないことなのだと思います。この村の人たちは、ローズさんたちの存在を知っていて、滞在を容認してくれていますけど、それはあくまで先輩の眷属としての立場があればこそですから。……先輩には不本意なことだと思いますけど」

「理解はしてるよ。要は、前に同盟騎士団と一緒に行動していたときと同じだろう」


 あのとき、ローズたち眷属は、人格のある一個の存在として受け入れられていたわけではなかった。


 極端な話、おれの武器扱いされていたようなものだった。

 そうであればこそ、モンスターである彼女たちが一緒に行動できていたともいえる。


「はい。あのときは、それでもかまいませんでした。ですが、こうして村に滞在している以上、このままじゃ駄目だと思うんです。なにせ人手不足ですから」

「外のことを同盟騎士団に任せられたあのときとは違って、引きこもって摩擦をなくすというわけにもいかないからな。村のエルフたちとの接触は、どうしても必要か」

「そういうことです。さいわい、状況は以前と少し違います。この村はシランさんの故郷です。その身がアンデッドになったいまも、村の人たちは彼女を自分たちの一員として認識しています。自然、ローズさんたちへの感情も違ってきます」

「それで、これか」


 加藤さんは、ここ数日、昼間は村の子供たちの世話をしていた。

 わずかに生き残った村の大人たちはなにかと忙しく、子供たちの面倒を見る手が足りていなかったからだ。


 さっきのやりとりを見る限り、子供好きだけあって、加藤さんはうまくやっていたようだ。

 そこで、交流の場を作ることも思い付いたのだろう。


 ローズが選ばれたのも、そういうことなら納得がいく。


 ガーベラあたりは見た目のモンスター度合いが高いし、ロビビアあたりは性格があまり交流向きではない。


 まずは加藤さんが交流を持ち、仲の良いローズに輪を広げ、さらに交流を広げていこうと考えたのだろう。


「だけど、どうしておれが呼ばれたんだ?」

「それは、ふたつ理由があります。ひとつには、先輩がいてくれれば、ローズさんが警戒されづらくなるからです」

「ん? 加藤さんだけじゃ駄目なのか?」


 眷属だけで村人と接すれば、不安がられるというのはわかる話だ。

 けれど、その場にいるのが別におれである必要はないとも思う。


「転移者は確かに信頼してもらいやすいが、加藤さんだってそれは同じだろう」

「先輩が信頼を集めているのは、転移者であることばかりが理由じゃありませんよ」


 苦笑混じりの言葉だった。


「多分、先輩が思っているよりずっと、命懸けで自分たちを守ってくれたこと、みなさん感謝してるんですよ。先輩は最後の砦として、村の人たちを匿った家を守っていました。壁を隔てた場所で先輩が戦っていたことは、みんな知っています。ここに先輩を呼んだ理由のもうひとつが、これですね。村が壊滅してしまって、みなさん不安がっています。そこで先輩が顔を出してくれれば安心できるかなと」

「そんなものか?」

「はい。わたしの見たところ、そうですね。自分たちを守ってくれた勇者様、みたいな認識があるように見えます」

「……勇者か」

「ええ。そうです。最近、シランさんと仲睦まじいことも関係あるかもしれませんね」


 状況を知っている加藤さんのからかいに、おれは頬を掻いた。


 もっとも、実際、彼女の言葉は一面の事実を突いてもいるのだろう。


 過酷な土地で生きるエルフは結束が強く、一族で纏まった集落はひとつの家族に等しい。


 なかでもシランは、彼らを率いる族長筋の家の出であり、立場の弱いエルフの身でありながら同盟騎士団で副長にまで昇り詰めた、ある種の英雄的人物でもある。


 そんな彼女と特別な関係になったのだから、半分くらいは身内の認識をされていてもおかしくなかった。


「まあ、状況は理解したよ。……ただ、まだよくわからないんだが」

「なにがですか」

「……おれはローズのことを頼んだはずなんだが、それはどうなったんだ」


 加藤さんの手配り自体はありがたいものだが、それはそれだ。

 働き詰めのローズを精神的に休ませてやりたいというのが、おれの頼んだことだった。


 子供好きの加藤さんはこれで癒されるのかもしれないが、子供に慣れないローズは違うだろう。


 そう思って尋ねると、加藤さんはきょとんとした顔をした。


「……ん。ああ、違いますよ」

「違う?」


 疑問の声をあげたおれに、加藤さんは返答する。


「ローズさんへの一番のご褒美は、先輩です」

「は?」

「先輩と一緒になにかできれば、ローズさんにとってはそれが一番楽しいんですよ」


 さらりと言われた言葉に、おれは固まった。


「……それで、おれと同じ仕事を?」

「はい。村の人たちとの交流も深まりますから、一石二鳥……子供たちを安心させることを考えれば、一石三鳥ですね。というわけで、ほら、先輩も」


 にこりとした加藤さんは、おれの背中に回り込んだ。

 柔らかな手が背に触れて、ローズのほうへと押し出される。


「ご主人様」


 近付いていくと、ローズは振り返って、こちらを見上げた。

 声は弾んでいて、喜色がありありと現れていた。


 胸の奥で心臓がどくりと脈打った。


 素直に慕ってくれる彼女が、いつもよりもっと可愛く見えた。


「ご主人様? どうかなさいましたか?」

「い、いや。なんでもない」


 不思議そうに尋ねてくるローズに誤魔化すように言って、おれはその隣に腰を下ろした。


 顔の熱さを取り繕えたかどうかは、あまり自信がなかった。




 こうして、おれとローズは昼間に少し加藤さんの手伝いをすることになった。


 村にディオスピロからの使者がやってきたのは、そんな日々を過ごしていた頃のことだった。

◆ローズ&加藤さん回。


村人との交流。

と、一緒にいるだけで嬉しい彼女の話。



◆報告です。

『モンスターのご主人様 ⑦』、発売しました!


店頭に並んでいると思いますので、よろしくお願いしますー。

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