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モンスターのご主人様  作者: ショコラ・ミント/日暮 眠都
4章.モンスターと寄り添う者
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20. 韋駄天の向かう先

(注意)本日2回目の投稿です。













   20 ~飯野優奈視点~



 会議が解散したあと、与えられた部屋に戻ったわたしは、しばらくベッドで横になって天井を眺めていた。


 そのまま、どれだけの時間が経っただろうか。

 よし、と声をあげて身を起こしたわたしは、部屋を出た。


 向かったのは、リーダーの部屋だ。


 リーダーはわたしの顔を見ると、整った顔に笑みを浮かべた。


「来るとは思っていた。まあ、入れよ」


 部屋に通される。

 ひょっとしているかもしれないと思ったが、栗山さんの姿はなかった。


 ちょっとほっとした。


「しかし、千客万来だな」


 扉を閉めたリーダーの言葉にふと視線を巡らせれば、テーブルの上に、二人分のカップが置いてあった。


「誰か来ていたんですか」

「岡崎の奴がな」


 リーダーはわたしに席を勧めると、人を呼んでカップを片付けさせた。


 わたしはリーダーと差し向かいでテーブルについた。


「岡崎くん、なにか用事でもあったんですか? ひょっとして、『天の声』についてなにか?」


 だったら聞いておかないとと思って尋ねたのだが、リーダーは首を横に振った。


「いや。そっちは関係ない。あいつは、今後の探索隊の方針について、ちょっと意見を言いに来ただけだ」

「意見ですか? ……あ。聞いたら問題あることならいいですけど」

「別にいいよ。隠すようなことでもない」


 気を遣う必要はないとばかりに、リーダーは手を振った。


「岡崎は探索隊が帝都に向かうことに関して反対しているってだけのことだから」

「そうなんですか?」

「ああ。正確に言えば、聖堂騎士団と合流するのに反対してる。合流してしまえば、当然、聖堂騎士団……聖堂教会から、ある程度の行動の制約を受けることになるだろ? それだけのメリットがあるのか、ってのが、岡崎の意見だな」

「確かに、いまほど自由には動けなくなるとは思いますけど……別に、それはデメリットにはならないんじゃないですか」


 行動に制約がつくのは仕方ない。それは、人間関係のしがらみというやつだ。


 もちろん、一方的に命令されたり、強制されたりするなら問題だが、そうでないなら、ある程度は我慢する必要はある。


「あいつは探索隊を離れていった奴らのことを、殊のほか警戒しているみたいでな」


 わたしの疑問の視線を受けて、リーダーは答えてくれた。


「おれたち探索隊に対抗できるのは、同じ一騎当千の力を持つチート持ちだけ。この世界の人間である聖堂騎士団と一緒に行動をすると、自由に動けなくなって却って危険だと。前々から似たようなことは言っていたんだが、『天の声』のこともあって、ますます警戒しているみたいだな」


 そういえば、先程の話し合いでも、出ていった人たちに岡崎くんは辛辣だった。


 そういう事情があったのかとわたしが納得していると、リーダーは両手の指をテーブルの上で組んで、天井付近に視線を彷徨わせた。


「まあ、言いたいことはわからなくもないんだが……どうなんだろうな。一騎当千という言葉がどういうことなのか、あいつにきちんとわかっているならいいんだが」


 半分は独り言だったのだろう。

 どういうことだろうか、というわたしの疑問の視線に気付くことなく、リーダーは溜め息交じりに言った。


「そもそも、みんな自分自身の能力について、きちんと理解できていると言えるのかね。おれは、そこの部分が疑問だし、危ういと思うし、もったいないとも思うよ」

「理解……ですか?」


 視線を戻したリーダーは、力強く頷いた。


「ああ。みんなの力は、もっともっと、素晴らしいもののはずなんだ。おれの『光の剣』なんて、目じゃないくらいのな」

「それは……さすがに、ちょっと言い過ぎじゃないですかね」


 わたしは苦笑してしまう。


 探索隊リーダー、中嶋小次郎の『光の剣』は、間違いなくこの世界に現在いるチート能力者の固有能力のなかで、最強の力のひとつだ。


 わたしは、少なくとも一対一の白兵戦なら、探索隊でも最高クラスの戦闘能力を持っている自負がある。


 それでも、リーダーと一対一で戦って勝てるかといえば、微妙だ。

 それくらいに、リーダーの力は卓抜したものなのだ。


「誰でもリーダーに勝てるはずっていうのは、無理がありますよ」

「そんなことはないぞ、飯野」


 わたしが言うと、リーダーはかぶりを振った。


「飯野がおれに敵わないと思うなら、それは、自分の能力をきちんと発揮できていないからだ。真島の話だと、転移者の力っていうのは、その人間の望みに起因したものなんだろう? 自分の望みを把握して、より強く望み、そうして得た力を正しく理解すれば、おれと同程度にはなれるはずだ」

「そう……なんですかね」


 確信を込めて断言されてしまい、気付けばわたしは相槌を打っていた。


 不思議なもので、リーダーにそう言われると、そんなものなのかなと思ってしまう。


 多分、それは、この人がわたし自身よりもわたしの――仲間の可能性を信じているからなのだろう。


「……話が逸れたな」


 と、リーダーは我に返った様子でつぶやいた。


 熱く語ってしまったのが恥ずかしかったのか、頬を掻く。


 そこでタイミングよく、さっきカップを片づけた使用人がやってきて、新しいお茶を準備してくれた。


 ふたりとも、一口、お茶を飲む。


「ええっと……それで、飯野もおれに意見を言いに来たんだよな」


 気を取り直したリーダーが、話を切り出してきた。


「なんでも言ってくれ」

「あ。いえ。違います」


 わたしは両手を振った。


「わたしは意見を言いに来たわけじゃありません」

「遠慮することはないんだぞ?」


 リーダーは怪訝そうな顔をした。


「みんなで話し合ってるときから、なにか言いたいことがあったんだろ?」

「はい。ですけど、別に探索隊の方針について異論があるとかじゃないんです」


 本当のことだった。


 マクローリン辺境伯のところへ寄って、彼の真意を質したあとで、可能であれば問題への対応を頼んで、帝都へ向かう――探索隊の行動指針としては、これ以外はないようにわたしにも思えた。


「ふむ。じゃあ、なんだ?」

「探索隊としての方針ではなく、わたしの個人的な行動について、リーダーに許可をもらいたくて」

「ほう」


 少し興味を惹かれた様子で、リーダーは相槌を打った。


「というと?」


 ほんの一瞬、わたしはそこから先を口に出すことを躊躇った。


 自分は勝手なことを言おうとしているのではないか、という疑問が胸に過ぎったのだ。


「――」


 そのとき、不意にわたしの脳裏に思い浮かんだものがあった。


 反射的に、わたしは唇を引き結んだ。


 あとは、もう滑らかに口が動いていた。


「わたしは、探索隊を抜けたメンバーが向かった地域に行こうと考えています」


 リーダーは目を細めた。


「詳しく聞かせてもらえるか」

「はい」


 頷いて、わたしは自分の考えを語り始めた。


   ***


 明くる日のこと。

 旅支度を整えたわたしのもとに、葵ちゃんと石田くんがやってきた。


「ねえ、優奈先輩。本当に行っちゃうんですか」


 葵ちゃんは、不満そうな顔を隠そうともしなかった。


「折角、合流できたのに……」

「昨日、リーダーが理由は話してくれたでしょ?」


 わたしは、荷物を確認しながら答えた。


「みんなと一緒に行ったら、わたしの速度を活かせない。わたしなら、偽勇者について現地で調査をしてから、ヌルヤスでみんなと合流することもできるはずだからね」

「それはそうっすけど……わざわざ、現地まで行く必要があるんですか?」

「いまのままだと、ちょっと情報が少な過ぎる気がするんだよね」


 そこが、引っ掛かっているところだった。


「偽勇者を見付けられるとまでは思わないけど、現地なら詳しい話を聞くこともできるはずだからね」

「まあ、そりゃそうなんですけど……」


 葵ちゃんは、どこか不審そうな顔をしていた。


「なんか、優奈先輩変わったっすね」

「そう?」

「なんだか思慮深くなった感じがします」

「……それって、わたしが前は、猪突猛進だったって言ってる?」

「い、言ってないっすよ? 違うっす」


 わたしがジト目で見ると、葵ちゃんは両手を振って誤魔化し笑いをした。


「ただ、真島先輩ってのとなんかあったのかなーと思ったり?」

「……なんで真島?」

「いや。だって、飯野先輩、真島先輩を追っていったんですよね」

「別に。わたしは……」


 言いかけたわたしの脳裏に、男の子の声が過ぎった。


 ――お前はもう少し考えて行動しろ。この馬鹿

 ――ただでさえ、お前のスピードには誰もついていけないんだ。たまには立ち止まって、よく考えろ。馬鹿。


「……関係ないわ」


 そうだ、関係ない。


 断じて。

 わたしはあんな奴に、影響なんて受けていないのだから。


「優奈先輩。だから顔怖いですってば」


 わたしは頬を押さえた。


 くそう。


「……変なこと言う葵ちゃんが悪い」

「そっすね。そういうことにしときます」


 頷いた葵ちゃんが、んー、と鼻を鳴らした。


「リーダーじゃないっすけど、ちょっとその真島先輩っての、興味ありますねえ」

「えぇー。葵ちゃん、趣味悪い……」

「いや、そうじゃなくて」


 違う違うと手を振って、葵ちゃんは言った。


「ほら、真菜ちゃん。真島先輩と一緒にいるんですよね?」

「えっと……加藤さんのこと?」


 わたしの太腿にナイフを突き刺した、あの怖い子のことだ。


 一瞬わからなかったのは、下の名前がうろ覚えだったせいだ。

 怪我が治るまで真島たちと一緒にいた数日間も、彼女とはあまり喋らなかった。


「いたけど、なに、葵ちゃん。あの子と知り合い?」

「そりゃまあ、同じクラスでしたし。けっこう仲良かったんですよ」

「へえ。ちょっと意外。……葵ちゃんとは、けっこうタイプが違うように思うけど」


 表情も雰囲気も暗い女の子だった。


 特に、敵に回ったときの、ぞっとするような昏い目は忘れられない。


 ただ、他の同行者……特に、真島や、ローズとかいうモンスターと一緒にいるときは、雰囲気が全然違っていてびっくりしたけれど。


「そっすか?」


 葵ちゃんは首を傾げた。


「からかい好きで小悪魔っぽいとこありますけど、明るくて元気な子ですよ」


 わたしも首を傾げた。


「明るい……? 元気……?」

「まあ、わたしと違って運動神経はあんまよくなくて、頭の回転が速かったから、そういう意味では真逆ですけどね」


 あははーと笑った葵ちゃんが、不意に真剣な顔になった。


「昨日の話し合いでは、チリア砦襲撃とは無関係だって話くらいしか聞けなかったですけど……ぶっちゃけ、真島先輩ってのは信頼できるんすか?」


 ぴり、と空気が引き締まり、『剛腕白雪』としての顔が覗く。


「真菜ちゃんは大丈夫なんすよね?」


 こと近接戦闘に限った話なら、探索隊でも最多のモンスターを屠ってきたのが、この『剛腕白雪』だ。


 しかし、その表情にあるのは、ただ友人を心配する気持ちだった。


 だから、わたしはなるべくやわらかい声で言ってあげた。


「安心して。真島のことは嫌いだけれど、信頼はできると思うから」


 リリィさんを助けようと必死になっていた真島の姿を思い出す。


 あれは、少なくとも身内に関しては、命懸けで守ろうとする気概のある男の子だろう。


 ほんの数日、一緒にいただけだけれど、真島が加藤さんを大切にしているのはわかった。

 眷属でもない人間の彼女にどうして、とは思うけれど、これまでの旅でいろいろあったのだろう。


 加藤さんのほうは……こちらはもう明らかに、真島にべた惚れだった。

 恋していた。

 正直、あれに惚れる理由がよくわからないけれど、まあ、蓼食う虫も好き好きという言葉もある。


 真島が加藤さんに危害を加えるような展開には、どう転ぼうがならないだろう。


「信頼はできるんすね」


 葵ちゃんは、わたしの顔をじっと見詰めて尋ねてくる。

 わたしは大きく頷いた。


「わたしは、嫌いだけどね」

「……それ、言わなくちゃ駄目なんですか」


 葵ちゃんが、呆れたように笑った。


「ちょっと会いに行ってみたくなってきましたね」

「葵」


 うしろの石田くんが名前を呼ぶと、葵ちゃんは唇を尖らせた。


「わかってるってば」


 拗ねる彼女に苦笑して、わたしはその小さな肩を叩いた。


「葵ちゃんは、探索隊のみんなをお願いね。ヌルヤスで会いましょう」


 こうしてわたしは、再び探索隊を離れた。


◆韋駄天回でした。


探索隊のほうでも少し動きがあった模様です。

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