断書一『強欲の罪罰書』
少女は、貧相な家の娘でした。
上流階級者達に散々コケにされいつも一人嘆いていました。
嗚呼・・・・私は、何でこんなに嫌な思いをしないといけないの?
神様、私何か悪いことした?
人に迷惑をかけた?
何で私だけ・・・
少女の頭の中は、いつも答えの存在しない嘆きで一杯でした。
それから数年が経ちました・・・
少女は立派な大人になっていました。
自営の宝石店が成功し、大金持ちになっていました。
親は、病気で亡くなっていました。
大富豪にまで成り上がった彼女の手にはいつも一冊の本が握られていました。
『強欲の罪罰書』が・・・
ある貴族の令嬢が聞きました。
「いつも、持ち歩いているその本は何?」
すると彼女が答えました。
「私の救世主、私の命よ・・・・」
そう言いながら、彼女は自分の少女時代を思い出しました。
ある晴れた日の朝・・・
少女は、その可愛いらしい顔に見合わぬ短い金色の髪に、見窄らしい麻布で繕
われたワンピースに裸足という、いかにも貧しい格好で街の市場に買い出しに
きていました。
両親が1ヶ月の間、休むことなく朝も夜も働いて手に入れた銀貨一枚を、手に
しっかりと握って。
少女は本当は長く綺麗な金色の髪を昨日の夜、母に頼んで切ってもらい、それ
を売って少しでも足しになれば、と、その髪も腰の麻袋に入れ持ってきていま
した。
市場で芋と小麦、野菜などを買えるだけ買い込むと、品物が入った大きな紙袋
を両手に抱え、髪を売るために街道を一つほど外れた細い道を通っていました
すると、いきなり後ろから声を掛けられました。
少女が振り返るとそこには、美しい顔をした青年達が立っており、声を掛けて
きたのは、その内の一人でした。
青年達は、皆シルク材の高そうなシャツや、ズボンを着ていて、言葉使いは貴
族そのものでした。
青年達は、強引に少女を路地に押し倒すと買ったばかりの品物が入った紙袋を
取り上げ、金目のものが無いか探しはじめました。
少女の腰の麻袋を乱暴に掴み取ると中身を漁りはじめました。
赤毛の整った顔立ちをした青年が少女の髪を見つけ笑いはじめました。
茶髪の端麗な容姿の青年は、赤毛の青年から髪を受け取るとポケットから取り
出した小さな火器でそれを燃やしはじめました。
少女に声を掛け、今現在、押し倒した少女の上に跨っている金髪の妖艶で美し
い顔立ちの青年も笑っています。
少女は、泣きました。
沢山、沢山泣きました。綺麗な青色の瞳から涙を滴らせ。
すると、金髪の青年が信じられないことをいいました。
その言葉に他の二人が頷いて少女を抱きかかえると、すぐ近くの宿屋に連れて
いかれました。
そして、拘束具を付けられ何回も何回も卑劣な行為をされ続けました。
朝になり、青年達は、起きるとすぐどこかへ出掛けて行きました。
青年達が戻ってくると、手には数枚の金貨と、奴隷売買契約書が握られていま
した。
その時少女は、絶望しました・・・
この世に私のようなちっぽけな存在を守ってくれる神などいないということに
その時、少女は誓いました。
この、卑劣な貴族の青年達に復讐してやると・・・・
それから、幾日かが経ちました・・・
身も心もボロボロになった少女は、青年達から逃げ出しました。
毛布だけを纏い、路地の片隅で震えている少女の前に、一人の不思議な少女が
現れました。
女はせいぜい15、6と、少女と同じ位の年齢層でした。
陶磁器のような白く滑らかな肌に、フリルを幾重にも重ねた膨らんだドレスを
纏っていたました。
狼のような鋭くまた美しい黄金の瞳は面白そうに少女を見つめていました。
髪は、紫色で腰の辺りまで豊かに伸びています。
そんな、不思議な少女の口から可愛らしい高音が漏れました。
「復讐したいでしょ、あの忌々しい青年達に?」
突然、そんなことを言われ少女は、驚きました。
するとまた、不思議な少女が言いました。
「お金持ちに、上流階級者になってあいつらを見返したくない?」
少女は、少し戸惑いながらもこう言いました。
「そんな事できるの?」
「えぇ、できるわよ。『七つの大罪罰書』の中の一冊『強欲の罪罰書』の力を
使えば」
「そ、その本を持っているの?」
「えぇ、この本にあなたは、選ばれたのよ・・・・」
そう言うと、不思議な少女の手に一冊の書物が現れました。
その本を少女に渡しました。
「あなたは、選ばれたのよ、”門を開ける者”に・・・・」
過去の事を思い出していた彼女は、強欲に金の亡者となり、莫大な財力で一代
貴族にまでのぼりつめていました。
不思議な少女は、ある塔の最上部から彼女を見ています。
相変わらず人間は、罪を犯し続ける馬鹿で下等な生き物ね・・・・
と、高笑いしています。
そして数か月後、彼女は、結婚しました。
とある国の王子様と・・・
王子様は、金の髪に妖艶な美しい容姿、そう、昔、彼女を襲った貴族の一人で
した。
王子様は、美しく成長した彼女のことを全く覚えていないようでした。
そして彼女は、結婚式を終えると自分の部屋にある三人の男を呼びました。
赤毛の美しい侯爵と、茶髪の子爵と妖艶な王子様を・・・・
数時間後・・・
彼女は、片手にナイフを持ち、血まみれの部屋立ち尽くしていました。
彼女は、そのまま狂気にとりつかれたように笑いはじめました。
それを見ていた不思議な少女も、くすりと笑い言いました。
「ばっかみたい!!人間、ついに大罪を犯したわね!強い欲情にとりつかれ
挙げ句の果てに殺人、笑えるわね!! 」
そう言って高笑いを始めました。
「ふふふっ、大罪を犯した罰は自らの”死”よ!!本当にばかみたいね、人間」
さらに言葉を続けたました。
「これで、[第七の門]が開いたわ、ふふふっ」
そう言うと不思議な少女は、その場を後にしました。
その頃彼女は、静かに死体に囲まれ息をひきとりました。
幸せそうな顔をして・・・
そして『強欲の罪罰書』は、銀色に輝くと、どこかえと消え去りました。
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