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〜英知〜 アリア=ディエリアルの秘密の書庫  作者: -RAI-
第一書 『月姫ノ星書』
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第一書  『月姫ノ星書』 Episode05

盛大に舞い上がった砂煙が徐々に薄れてくると、未だ戦闘が終わっていないことが窺い知れた。


アリアは、既に、十八番(おはこ)である光属性魔法[holyflash(ホーリーフラッシュ) ]をほぼ完成させていて、同じくクロカッサも死霊魔導[Wraithsignalレイスシグナル]を完成に近づけていた。


 死霊魔導とは、闇属性魔法と聖属性魔法を魔力操作で融合させ創り出した高等魔法で、高度な魔力操作技術と膨大な魔力保有量が必要となるため、今となっては、世界で唯一クロカッサのみが扱えるか如何かといったところであろうか。


それぞれに魔法を完成させた両者は、相手に向かい最大出力で魔法を解放する。


闇と光の最上級閃光魔法は、それぞれ放射線状に光を放つと、半ばで衝突しあい、一瞬の内に相殺しあった。それは闇と光という対極にある魔法が織り成す、美しい光景だった。


その間に、次の魔法を完成させたアリアは、中級火炎魔法[starflareスターフレア]を頭上高く打ち上げた。


サッカーボールほどの火炎の球体は、空中で数秒間停止すると、勢いよい良くその場で炸裂し、無数の星形の火炎となって、一斉にクロカッサに襲いかかる。


数百もある星形の火炎を、水の下級防御魔法

[waterveilウォーターベール]で防いでいたクロカッサだったが、流石に数が多いため防御魔法を解除すると、瞬光の名に恥じない光速(スピード)で、襲い来るそれを次々と躱していった。


光速で軌跡の残存を画きながら、人の眼には、とても捉えることの出来ない速さで、最後の一発に至るまで美しく芸術的にそれを躱してみせた。

 

 其の儘にアリアの目前に現れると、魔力を杖に込め放出した。


アリアは、咄嗟に速度補正魔法で能力値を底上げした移動速度(スピード)で、後方へと飛び退き、あっさりとクロカッサの攻撃を避ける。

 

「お嬢ちゃん。そろそろ終わりにしないかね」


クロカッサが攻撃の手を緩めずそう言う。


「まだだ」


アリアは、低く掠れた声でそう告げた。


両者は、互いに空高く飛翔し、光速という次元の中で戦いを繰り広げる。


アリアが攻撃魔法を放つと、それをあっさりとクロカッサが避け、又クロカッサがアリアへと攻撃魔法を放つと、アリアがそれを避ける。


そんな変わり映えのない戦いが続くーー


魔力を使い果たしたのではないかと心配するほど、攻撃魔法の応戦を繰り広げた二人であるが、未だに魔力消費量の激しい最上級や上級の魔法を駆使し攻防を続けている。



アリアは、額に少し汗を浮かべなから、空高くに舞うと、高速詠唱で最上級破壊魔法[terrorworlcrashテロワールクラッシュ]を完成。自らの魔力を極限の域まで解放し、クロカッサめがけてそれを力任せに放った。


放たれた[terrorworlcrash]は、白い閃光と凄まじい衝撃波を放ちながら、クロカッサめがけ、有り得ない速さで進んで行く。円状に拡がるそれは、半径だけでも5mほどはあり、徐々に肥大していた。


流石のクロカッサも「ヤバい」と本能的に感じたらしく、素早く高度な術式を紡ぎあげ、堅牢な魔法壁の結界を創り出した。

極大な衝撃波が薄い桃色罹った分厚い魔法障壁に衝突すると、辺り一面に衝撃波が断片化した狂気が飛散し、木々、植物は消し飛び、大地を抉り、屋敷を木片へと変えていった。

クロカッサが魔力を総動員させ懸命に維持していた魔法障壁にも少しずつだが綻びが生じ始めた。

魔法障壁の内部は、アリアが放った魔法の影響を全く受けていないが、その外部は、酷い有り様だ。


アルとソフィは、当の昔に屋敷から少し離れた小高い丘上に避難していて難を逃れていた。


「あのままでは、おば様が危険ですわ!」


ソフィが悲鳴に近い声を上げた。


刹那ーー突如、天に光の門が現界。そこから現れたのは、正義であった。


歳は20代前半ほど。美しい金糸のような髪を後ろで束ね後ろに垂らしている。

端正な顔立ちをした青年で、瞳は宝石のように美しいエメラルドグリーンだ。

純白のフロッグコートを纏っており、金の金具が付いたベルトには、剣を収めた白龍の鞘が提がっていた。

首元で銀の十字架が光り、胸元にハート型の紋章(エンブレム)があることから、彼が何者であるかが容易に想像できる。


「俺の名は、アーサー・アメリア・ローグナイツ。【聖院騎士團テンプルナイツ】の聖騎士だ。最高顧問、三大賢者(マナ)の命により、【(いの)りの導姫(みちびき)】とその守人を捜している。お前達がそうだな。俺と一緒に来い」


よく通った男の声がその場に響いた。


その瞬間、魔法障壁に大きな亀裂が走った。

クロカッサは、必死に魔法障壁の維持に神経を削っている。


「おい、そこのお前達。一体全体これは、如何いう状況だ!」


アーサーが傲慢な口調で、アルとソフィに問うた。


数分後ーーアルとソフィが一部始終を伝えるとアーサーが大きく頷いた。


「では、俺がこの無益な戦いに終止符を打とう!」


声高らかにそう宣言すると、細身であるにも拘らず、軽々とした身のこなしで、瞬く間に魔法障壁に距離を詰めると、美しい動作で腰の鞘から長剣を引き抜き、それを囁いた。


「エクスカリバー、我に聖なる力を貸し与え給え」


瞬間、剣身が光輝き始める。賺さずアーサーは、聖なる光を纏った剣を、魔法障壁と破壊魔法のが相殺し合う中心にめがけ、一身に振り下ろした。

剣線から迸る眩い光は、魔法障壁と破壊魔法を包み込み、滅すると、存分なまでに光を辺りに振り撒きながら消失した。


「さぁ、終わったぞ」


何事もなかったかの様にアーサーは、中庭に悠然と降り立った。


魔力を使い果たしアリアが体勢を崩すと、アルが優しく抱きかかえた。


「大丈夫かい?アリア」


アルが優しく問い掛ける。


「ぅん…わ、私は一体…」


アリアが蒼白とした(かんばせ)に瞑らな瞳を爛と潤ませる。


 ソフィも同様にクロカッサに駆け寄り、肩を支えながらアリア達に近づいてきた。


「お嬢ちゃん、私の負けだ」


クロカッサは、そう言うと『月姫(オリシアル)星書(メッサージア)』をアリアに差し出しこう続けた。


「お嬢ちゃんが止めてくれなければ今頃は、取り返しがつかないことに…。本当にありがとう」


「と、当然なのレす。で、お前はその魔女達に復讐するのレすか?」


アリアは、神妙な面持ちでそれを振り払うかのようにクロカッサに問うた。


「いや、もうそれはいいんだ。それより少し気になることがあってねぇ」


クロカッサはそう言うと、意味深げににソフィの方を見遣る。


「何ですか?」


アルが不思議そうに言う。


「えぇ、昨夜の出来ことについて少し気になることがありまして。魔女たちが屋敷に侵入したことに(わたくし)は、直ぐに気付きましたわ。私は、厨房で彼女たちに応戦しましたわ。初めは、多勢に無勢でしたけれど互角以上に戦えていました。けれど、彼女たちが二冊の書物を取り出した途端に魔法威力が桁違いに強まって…。私の勘違いでしょうか」


それを聞いたアリアは、アルの腕中で思慮深げに目を細める。


「その書物に何かしらの特徴は、何かったのレす?」


「ええ。片方は水の力を、もう一方は、雷の力を宿していたと思いますわ」


「もっと他に特徴は、無かったのレすか?」


アリアが言及する。

 すると、ソフィが思い出したように呟く。


「そういえば、両方とも紫色の背表紙に豪奢な金刺繍が施されていて、中心の辺りにそれぞれ碧と黄色の大きな宝玉が埋め込まれていましたわ」


それを聞いたアリアは、跳び上がる。


「そ、それは、『精霊王の八冠書エレメント・クラウン・テヴワール』なのレす!」


「『精霊王の八冠書』だと?!あの『天秤の五書』と同等の力を持つとされる」


アーサーが呻きを漏らす。


「ウィ、その通りなのレす」


「では、大惨事になりかねないな」


「否定はしないのレす」


次々と進むアーサーとアリアの話しついて行けず、アルは首を傾げる。


「どういう事なんだい?」


「『精霊王の八冠書』と言うのは、八属性ある精霊の王の力をそれぞれに封じた、全八巻から成る書物のことなのレす。それは、『天秤の五書』に並ぶとされる強力な《魔導書》なのレす」


「ということは、私が『月姫ノ星書』を誤って使用し得たことと同じ危険があるのじゃな」


クロカッサが相槌を打つ。


「ウィ。今直ぐにその《魔導書》を回収する必要があるのレす」


「俺もついて行こう。それから大聖堂(ペルセフォリス)に来てもらうぞ」


「わかったのレす」


アリアは、そう約束するとこの地に降り立った時と同様に、契約魔導節を紡ぐ。



「ご迷惑をお掛けしました」


アルが丁寧に一礼すると、光輝く銀色の魔法陣が頭上高くに現れ、次の目的の地へとアリア達を運ぶのだった。


それから数時間ーークロカッサは、レイアの亡骸を埋葬し、屋敷を魔導復元した後に天を見上げた。


「喩え、お嬢ちゃんが進む路が茨に覆われていても、決して屈するんじゃないよ。運命は、与えられるだけのものじゃない。自らの手で掴むものだ。貴女たちがそれを私に教えてくれたように。決して自分を見失うな。友を信じて前だけを向いてお往きなさい。その人生に多くの祝福があらんことを…」


クロカッサは、何かを確かめるかのように天に祈りの言葉を紡ぐと、「さて、ソフィ。これからは、大変になるよ。久々に魔女の血が騒いできた。ここから私たちも再出発としよう」


優しい声色。優しい瞳。そのとき、その空間は、優しさに包まれていた。


「はい、おば様!」


老婆の満面の笑みに哀しみの色はなく、流れり一筋の雫は、夕焼け色を美しく写していた。

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