黄の翳り
いつもの場所。
いつもの空間。
……の、はずだった。
「あれ? なにか……」
普段通りに花々を眺め、暁は首を傾げる。
柔らかな月見草の黄が、美しい月光に照らされていた。しかし、その黄色にも、月にさえ違和感を抱いてしまい。不安に思って、暁は駆け出す。
なにかが違う。なにかが違う気がする――
そこで、ふっと足を止めた。
周りを見回し、月を見上げる。そして、
「少しだけ……黄色に黒がかかってる?」
月見草に触れ、呟いた。
「――月も、光が弱い……」
微かな違いである。
一般には、そのような事、気づきもしないだろう。だが、暁は不審に思った。
毎日のように通い続けた、暁には。
“お~、暁~”
“どうかしたか?”
不意に聞こえた声に肩を揺らし、ばっと振り返る。そこには馴染みの月見草がおり、暁を見上げていた。
「ね、ねえ。なんか君たち、黒くない?」
必死に迫り、暁は問う。
“え~? そう?”
“変わりないと思うが……”
驚いたように月見草は答え、首を傾げるように身を震わせた。
「……それなら、いいんだけど」
歯切れの悪い言い方をする暁に
“あたしのどこが黒いって!? えぇ!!”
月見草は声を荒げる。
“大丈夫だ、暁。そんな心配そうな顔をするな”
「うん……。失礼な事言って、ごめんね」
――無理に笑おうとする暁は、この異変に気が付く事はなかった。
“月がおかしいね……”
“もう少しで、変わってしまうのかもしれないな”
気づく事は、できなかったのだ。