表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

最終話 置き去りハイスピード

 もうすぐ5月の放課後、僕は足取り軽く歩きながら、彼女のことを考えている。

 幼馴染で、ずっとそばにいた結衣に勇気を出して告白したのはつい先日のこと。

 ショートの髪を風に揺らしながら、日焼けした顔に柔らかい微笑みを浮かべながら「私も……悠真のこと、好きだよ」と頬を赤く染めた姿。

 思い出すたびに、顔が自分の意志を無視して笑みを浮かべてしまう。


 僕は学校の廊下を歩きながら考える。

 次の日曜は二人でどこかに出かけよう。

 本当は今日一緒に帰りながらその話をしたかったけど、結衣から用事があるから先に帰ってと言われてしまったのだ。


 とりあえず、自分で候補をいくつか考えておこう、そう思いながら靴を履いて校門に向かって歩いていると、視界の端に人影が写った。


「……?」


 なぜか気になったので、そちらへ視線を向けてみる。

 その先には結衣が歩いているのが見えた。


「用事があるって言ってたな……どんな用事……ッ!」


 結衣のそばには、浅黒い肌をした金髪の男が歩いていた。

 男の腕は結衣の肩にまわされている。

 ここから見る限り、結衣に嫌がっている様子はなかった。

 二人は何かしゃべりながら、笑いながら歩いている。


 心臓に鈍い衝撃がはしったような感覚。

 確かだった足元が揺らぐように傾いている。

 自分の中の暖かいものから温度が失われていく。

 呆然としているうちに、二人は建物の影に消えていった。


「……!」


 何がどうなっているのか。

 何もわからない。

 ただ、このままにしておいてはダメな気がする。

 僕は歯を食いしばって、二人のあとを追った。


 結衣と金髪の男は、体育倉庫の中に入っていった。

 どこか自分の中の大事なものが悲鳴をあげているような気がする。

 閉まりきらず、隙間の空いている扉から中を覗く。


 中で、二人は。

 抱き合って、キスをしていた。


「結衣!」


 知らないうちに彼女の名を叫び、勝手に動く腕は扉を開いた。


「えっ、嘘。悠真……?」


 頬を上気させて、うるんだ瞳の結衣が、戸惑ったように僕の名前を呼ぶ。


「おっ、誰かと思ったら彼氏クンじゃん。どうしたん?」


 金髪の男は結衣を抱き寄せたまま、嘲笑するようにこちらを見ている。


「結衣、こいつは誰なんだ」

「待って、佐々木君は違うの……!」


 結衣は男に密着したまま顔だけこちらに向けて何かを言っている。


「違わないだろ~? 昨日はホテルでいっぱいしたじゃん」


 金髪の男の手が、結衣のスカートの上から尻を掴んでいる。


「……ッ! 離して!」

「結衣!」


 思わず体育倉庫の中に踏み込んだ僕に、結衣がどこか必死の表情を向ける。


「悠真、違うの……!」

「違うって、何が違うんだよ!」


 ニヤニヤと笑う金髪の男に背後から抱きしめられながら、結衣は口を開いた。


「佐々木君は不合格なの!」

「えっ」

「えっ」


 僕と金髪の男は、鳩が豆鉄砲を受けたような表情で固まっていた。

 結衣はなんか一生懸命に何かを説明しようとしている。


「あのね、あたしハーレム作るのが夢なの!」

「えっ」

「えっ」


 僕と佐々木君は、なんとか理解しようと脳をフル回転させた。


「それでいろいろな男子に声をかけてるんだけど、佐々木君はちんちんがちっちゃすぎてダメなの」

「えっ」

「……」


 佐々木君が信じられないものを見るような目で結衣を見ている。

 僕もいろいろと信じられないような気持ちで結衣を見ている。


「あと佐々木君早すぎるの!」


 佐々木君が膝から崩れ落ちる。

 まったく意味がわからないけど、すごい気の毒に思えてきた。


「でもね、悠真は特別だから! 幼馴染特権でランク3位だから」

「そこは1位だろ……」


 僕もよくわからない脱力感に襲われて膝をつく。

 そんな地獄のような体育倉庫に、誰かの声が聞こえてきた。


「このような無法、看過できませんわ!」


 その声に振り向いてみると、黒くて真っ直ぐな髪を腰まで伸ばした女子が、体育倉庫の扉の前に立っている。

 誰だろうと顔を見ると、信じられないくらいの美少女だった。

 ……誰?


「失礼。わたくし、私立霊峰学園の生徒会長をしている白峰 麗華と申します」


 ……他校?

 えっ、誰?


「わたくしは、以前から佐藤 悠真様をお慕い申し上げておりましたの」

「は、はあ……」


 白峰さんという女子は、僕をなんだかねっとりとした視線で見つめている。


「それで四六時中監視しておりましたところ、そこの女とお付き合いをするというので身を引く覚悟でいましたのに……」


 えっ、監視?


「この女の正体が明らかになった今、悠真様にこれ以上近づかせるわけにはまいりません……!」


 どろりとした光のない目でそういうことを宣言する白峰さん。

 背筋になんか冷たいものが走る。


「何よ! 私の3番目に手を出さないで!」


 結衣がなんか叫んでいる。


「3番目ならわたくしによこしなさい!」


 なんか言ってる。


「ふん、キスもしたことないような奴に悠真を満足させられるかしら?」

「キス程度、なんのこともありませんわ!」

「それじゃあ見せてもらおうかしら、あなたのキスを!」

「望むところですわ!」


 よくわからないことを言いあった二人は、がっしりとお互いの頭部をわしづかみにしてキスを始めた。

 なんだこれ。


「はあ、はあ、やるじゃない……」

「ふう、ふう、あなたこそ……」

「場所を変えて決着をつけましょう」

「ええ、勝つのはわたくしですわ」


 二人はなんか好敵手的な雰囲気のまま体育倉庫から出ていった。

 取り残された僕は、死にそうな顔をしてちょっと泣いていた佐々木君を励ましながら一緒に帰った。


 次の日、登校してたら結衣と白峰さんが手をつないで歩いているのを見かけた。

 とりあえず怖いからこの二人には近づかないようにしよう。


 放課後、顔を真っ赤にした佐々木君に告白されたけど断った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ