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ラーメン屋の店主、異世界で最高の出汁を探す  作者: 髙橋彼方
第三章『リヴァイアサンの魚介豚骨ラーメン』
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リヴァイアサンの魚介豚骨ラーメン2

 家へ戻る途中、リプイが疲れた顔で言った。

「……ね? だから言ったでしょ」

「……悪かった」

 シュリルが珍しく素直に言う。

 龍拓は口を開く。

「でも、見た」

「何を」

「目標だ。あれを獲るために、俺たちは強くなる」

 リプイは呆れたようにため息を吐いた。

「……怖いのに、目がキラキラしてる」

 家に戻ると、台所は相変わらずだった。

 薬草、道具、食べかけの菓子、布、紙――足場がない。

「はぁ……こういうことか」

 龍拓は苦笑する。

「リプイ、片付け苦手だろ」

「うるさい」

 リプイは眠そうに言い返し、そのままベッドへ倒れ込んだ。

「台所は好きに使っていい。私、寝る」

「ちょっと待て」

「無理。限界」

 龍拓は仕方なく、片付けを始めた。

 ――三時間後。

 ゴミと薬草と道具を分け、掃除し、タヌーまで磨き上げる。

 飲食店をやっている龍拓には、汚れがどうしても気になった。

「ふう……やっと終わった」

 アイテムボックスを起動して魔術鍋やリュックを取り出す。

 ブルーシートをテーブルに敷いた。

「まずは部位ごとに分けるか」

 リプイが「魔術包丁がある」と言っていたのを思い出し、引き出しを開ける。

 刃が青く光る切付け包丁。

「これか……?」

 柄を握った瞬間、刃が紅に変わった。

『ブォォォン……』

 低い羽音みたいな音。

 オレンジ色のオーラが刃から立ちのぼる。

(……やばい気配)

 でも、龍拓の目は好奇心で光った。

「凄そうだな……」

 特殊個体ギウマニールの肉をアイテムボックスから出し、並べる。

 腕まくりして息を吐く。

(前回は硬すぎて苦労した。これはもっと手強いはず――)

 刃を入れた瞬間。

『シュパンッ』

 岩みたいな肉が、抵抗なく真っ二つに割れた。

「……え」

 龍拓は目を丸くする。

「魔術包丁って、こんなに――」

 楽しさが込み上げる。

 切れる。切れる。切れる。

「斬れる……! どんどん斬れる!」

 気づけば、部位分けは終わっていた。

「楽しすぎて……あっという間だ」

 ――その瞬間、視界が揺れた。

(立ちくらみ?)

 右腕が重い。

 見ると、腕全体がオレンジのオーラで包まれている。

「うわっ!」

 龍拓は包丁を離し、寝室へ走った。

『カチャッ』

 ドアを開け、リプイの肩を叩く。

「リプイ! 起きてくれ!」

「も~う……もうちょっと寝かせて……」

 龍拓は焦って、肩を掴んで揺らす。

「起きろって!」

「ちょっと! 何よ!」

 リプイの平手が飛ぶ。

『バシィィン!』

 龍拓は座り込み、頬を押さえる。

「いった……」

 リプイは腕を組み、怒って頬を膨らませた。

「レディは優しく起こすって教わらなかったの!? で、何なの!」

 龍拓は頬をさすりながら言う。

「すまない……。台所の包丁を使ったら、右腕がオレンジに光って、立ちくらみがした」

 リプイの眠気が一気に飛んだ。

「オレンジ色!? ……まさか、刃が青く光ってた包丁を使ったの!?」

「あ、ああ」

「私が言ってたのはそれじゃない! 隣の、普通の包丁よ!」

「あ……そんなことも言ってたような……」

 リプイは龍拓をじっと見る。

 そして、ぽつりと呟いた。

「……包丁に選ばれるなんて」

「え?」

「何でもない。もうその作業は終わってる?」

「ああ、終わってる」

「ならいい」

 リプイは大きくあくびをして、そのまま布団に沈む。

「私が起きたら説明する。今は寝る。

 それまで、絶対に触らないでね」

「おい! 説明してから寝ろ!」

 龍拓が言っても、リプイはもう寝息を立て始めていた。

「……寝た」

 龍拓はため息を吐き、台所へ戻った。


 台所へ戻り、テーブルの前で息を整えていると、魔術包丁の刃がゆっくり青に戻っていく。

 包丁を包んでいたオレンジのオーラが緑へ変わり、龍拓へ飛んできた。

「うっ」

 身構えたが、緑の光は龍拓の体に溶けた。

 疲労感がすっと引く。

(回復……?)

 龍拓は包丁を見つめ、心に決めた。

(起きるまで、触らない)

 作業に戻る。

 肉を部位ごとにボウルへ分ける。

(立派な横隔膜(ハラミ)……ガツ……小腸……)

 背脂は山盛り。

「……前回は豚骨だった。今日はホルモンで攻めるか」

 流水で丁寧に洗い、塩揉み。

 魔術鍋に湯を沸かして下茹でし、生姜と酒。

 臭みを飛ばす。

「煮てる間に、タレ」

 濃口醤油、薄口醤油、みりん、酒、水、昆布だし、塩。

 味見して頷く。

「よし」

 香味油も仕込む。

 鶏ガラスープの表面の脂をすくい、ホルモンの脂と合わせ、弱火でゆっくり温めた。

 ――その匂いが、寝室まで届いたらしい。

『クンクンクン』

 ドタドタと足音。

 台所の入口に、シュリルが立っていた。

「……匂いで起きた」

「だろうな」

 龍拓が笑う。

 シュリルは台所を見回し、目を輝かせた。

「床が見える! 片付いてる! 龍拓、ありがとう!」

 無理やり握手され、龍拓は苦笑する。

「戻りたい。作業に戻りたい」

「あ、すまん」

「何を作ってる?」

「特殊個体ギウマニールのホルモンラーメン」

「内臓か! 最高だ!」

 シュリルの腹が鳴った。

『グルルルル……』

「あと二十分。待て」

「待つ!」

 シュリルは椅子に座り、子どもみたいに足をパタパタさせ始めた。

『ピピピピピィ!』

 魔術鍋が鳴る。

「できた」

 龍拓が蓋を開けると、豚油の芳醇な香りが立つ。

 麺を茹でる。

 どんぶりにタレとスープ。

 湯切り。

『チャッチャッ』

 ホルモンを山ほど。

 仕上げに、熱々の香味油。

『ジュワァ!』

「特殊個体ギウマニールのホルモンラーメン。一丁上がり」

 シュリルが一口すすった瞬間、目が見開かれる。

「……っ!!」

 次の瞬間、無言で“がっつく”。

 筋肉が脈打ち、蒸気が噴き出した。

『パァン!』

 白い蒸気の向こうで、シュリルの体が黒光りするほど引き締まっていく。

「うまぁぁぁぁぁぁい!」

 その叫びで、寝室が揺れた。

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