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ラーメン屋の店主、異世界で最高の出汁を探す  作者: 髙橋彼方
第二章『ギウマニールの豚骨ラーメン』
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ギウマニールの豚骨ラーメン3

 ――ギルドへ戻る。

 巨大な黒板みたいなクエストボードの前に立った瞬間、上部に文字が“自動で刻まれた”。

『ガガガガガガ……』

『ギウマニール討伐クエスト 報酬 180000ケッセフ』

 周囲がざわつく。

「誰が受けるんだよ、あれ」

「死にに行くようなもんだ」

 シュリルは迷いなく言った。

「リプイ、龍拓。あれ受けよう」

「え?」

 リプイが青ざめる。

「ギウマニールはA級指定よ! グランドセントピードより数倍危険。下手したら死ぬ!」

「だからだ」

 シュリルは拳を鳴らす。

「腕試しに丁度いい」

 そして悪びれず続けた。

「それに、ギウマニールの肉は脂が乗って絶品らしい」

 龍拓の目が、出汁の色になる。

「……肉が旨いのか」

「ちょ、目が怖い!」

「A級の骨……豚骨……」

 リプイが二人を見て、両手で顔を覆った。

「もう……どっちも同類……」

 シュリルがリプイを覗き込む。

「お前がいる。回復がある。行けるだろ?」

「それは……」

「それとも、一流でも治せない怪我があるのか?」

 リプイの眉が跳ね上がった。

「そんなの、ないわよ!」

「じゃあ決まりだ!」

 シュリルは受注札を取って戻ってきた。

「はい。受けた」

「はやっ!」

 周囲が笑う。

「死ぬぜ、あいつら」

「原人も見納めだな」

 シュリルは笑みを浮かべ、龍拓の肩を叩く。

「旨いラーメン、頼むぜ」

「任せろ」

 ――町の西、ハザーダ平原。

 真昼の青空の下、土で作られたドーム状の建物がいくつも並ぶ。

「ここがテリトリー……」

 リプイはシュリルの背に隠れる。

 龍拓は逆に、ドームを見てワクワクしている。

「どんな肉なんだろうな」

「お前、緊張しろ」

『ギギギ……』

 ドームが割れた。

 頭が豚。体がボディビルダー。二足歩行。

 木をバットみたいに加工した武器を持つ怪物が、ぞろぞろと出てくる。

≪ブギィ……≫

 先頭が低く鳴いた瞬間、いきなり突進してきた。

「危ない! レッツォォ!」

 シュリルのラリアットが腹に刺さり、ギウマニールは吹っ飛ぶ。

『ボゴォン!』

 龍拓の口に、飛び散った汗が一滴入った。

(……え)

 塩気。脂。肉の甘み。

 長時間焼いたローストポークの肉汁みたいに優しい。

「……良い出汁、出てる」

 龍拓が恍惚と呟く。

「やめて、今それ言わないで」

 リプイが震え声でツッコむ。

 ギウマニールたちが怒り顔で一斉に構える。

 シュリルは二人に言った。

「離れろ。俺が捌く」

 シュリルの筋肉が波打ち、湯気が立つ。

筋肉(ヒゾック)強化(シュリング)!」

 体が二回り大きくなり、筋肉の鎧になる。

 シュリルは一体だけ、明らかにデカい個体を見つけた。

「……あれがボスだな」

 囲まれた瞬間、シュリルは回転しながら拳を叩き込む。

『ババババッ!』

 何体も吹っ飛ぶ――が、A級の耐久はしぶとい。すぐ立ち上がる。

 シュリルの湯気が増え、息が荒くなる。

(このままだと、時間切れになる)

 シュリルは腹を括る。

 残像が走り、ラリアットが何度も閃く。

 ――しかし、ボスが笑った。

 シュリルの筋肉が急に痩せる。

 蒸気が噴き、体が細くなる。

「……畜生。時間切れか」

 ボスがシュリルを叩きつけ、馬乗りで殴り始めた。

 龍拓はリュックを漁る。

「リプイ! リュック出して! 今すぐ!」

「わかった!」

 リプイがアイテムボックスからリュックを出す。

 龍拓はアルコール消毒液とライターを掴んだ。

「これだ」

 龍拓はアルコールを口に含み、走る。

『ギロ……』

 ボスの視線が、龍拓に向いた。

 背筋が凍る。

 シュリルがボスの腕を握った。

「何処を見てんだ」

 握力が食い込み、ボスの腕が青黒く変色する。

 ボスが呻いた、その隙。

 龍拓は火を点け、吐いた。

『ボワァッ!』

 炎がボスを包む。

≪ギアァァァ!≫

 焼ける匂い。脂の香ばしさ。

 ボスが崩れ落ちた。

 龍拓は息を吐く。

「……これが本当の焼豚(チャーシュー)だ」

 次の瞬間、シュリルの体から蒸気が噴き出し、ミイラみたいにガリガリになった。

「まずい……!」

 龍拓はすぐボスの肉を切ろうとするが、硬い。

 筋繊維を見て、刃を入れる方向を変える。

「……ここだ」

 刃が通る。

 龍拓は火の通った肉をちぎり、シュリルの口へ突っ込む。

 シュリルの頬に血色が戻る。

「……うめぇ。A級の肉は、格が違う」

 リプイが、悔しそうに唾を飲んだ。

 でもすぐ顔を背ける。

「私は、いらない」

「ほんとに?」

「いらない!」

 リプイは杖を握り、シュリルを回復する。

 緑の光が走り、萎縮した筋肉がほぐれていく。

「もう! 無茶しないでよ!」

「ははっ、すまん。試したくてな!」

 シュリルが立ち上がる。

「龍拓。さっきの約束、覚えてるか?」

「最高のラーメン、だろ」

「そうだ。俺を驚かせてくれ!」

 龍拓は頷き、準備に入った。

 ――まず、麺。

 水に塩と“アブッカッツォ”を溶かす。

 粉を混ぜ、打ち水を回し、まとめる。

 叩く。捏ねる。生地がつやを帯びる。

『パァン!』

 龍拓の顔が、職人のそれになる。

「……よし」

 ラップで包んで寝かせる。

「次。スープ」

 ギウマニールの骨を洗い、魔術鍋へ入れる。

 ゲンコツは硬いが、トンカチで割る。骨髄まで鍋に落とす。

(濃厚になる。絶対に)

 リプイが渋い顔をする。

「血……最悪……」

「大丈夫。仕上げで整える」

 魔術鍋をタヌーに乗せ、火を入れる。

「リプイ、火の呪文――」

「ラロット」

「火力は?」

「強くするならベッドケフ。弱くするならハルーシ」

 龍拓が勢いよく唱える。

「ベッドケフ!」

 炎が盛りすぎる。

「ハルーシ!!」

 リプイが慌てて戻し、二人同時にため息。

「……魔力のコントロール、教えるわね」

「頼む」

 その間、煮卵も作る。

 卵を茹で、氷水で締める。

「リプイ、氷、いける?」

「……小さいのを、四、五個だけよ。苦手なの」

「十分だ」

 リプイは照れた顔で呪文を唱え、小さな氷を出す。

 肩で息をして座り込む。

「ほら見て、役に立ったでしょ」

「うるさい……」

 殻を剥き、割ると黄身は夕焼け色。

 龍拓は静かに頷いた。

「上出来」

 シュリルとリプイに渡す。

 二人が一口食べて、目を見開く。

「……おいしい」

 リプイの声が小さく震える。

 シュリルは即座に言う。

「本番はまだか!」

 その時、魔術鍋が鳴った。

『ピピピピピィ!』

「アラームだ。煮詰まりの合図」

 龍拓はアクを取り、香味(生姜・にんにく・ねぎ)と調味を入れ、再加熱。

 寝かせた生地を伸ばし、折り、均一に切る。

「麺、完成」

 そして――白濁のスープが、ようやく整った。

「よし。出来たぞ」

 豚骨特有の匂いに、リプイが鼻をつまむ。

 でも、どんぶりに注がれた白いスープは美しい。

 麺を茹でる。

 湯切り。リズムが心地いい。

『チャッチャッ』

 焼豚と煮卵と海苔。

 龍拓は最後に、息をひとつ。

「ギウマニールの豚骨ラーメン。完成だ」

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