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ラーメン屋の店主、異世界で最高の出汁を探す  作者: 髙橋彼方
第二章『ギウマニールの豚骨ラーメン』
5/20

ギウマニールの豚骨ラーメン2

 市場の音が戻ってくる。

「じゃあ、まず龍拓の必要な物から」

「助かる」

 龍拓は指を折って確認する。

「大きい鍋。ラーメン用のどんぶり。あと麺を作る材料」

「麺って……あのミミズみたいなのじゃダメ?」

「シシュールは非常食として優秀。でもラーメンは“麺の太さで味が変わる”。俺は選べるようにしたい」

 リプイがぱっと笑った。

「つまり――もうシシュール食べなくていいのね!」

「いや、状況によっては……」

「やったぁぁぁ!」

 両腕を上げて喜ぶ。

 シュリルが首を傾げる。

「美味かったのに」

「味の問題じゃないの! 倫理!」

 言い合いしながら、三人は煉瓦造りの店舗に着いた。

 看板には『レイニーズ・バッハ』とある。

 店に入ると、これといった特徴のない店主が、にやりと笑った。

「いらっしゃいませ」

 リプイが要件を言う前に、店主は滑るように鍋のコーナーへ案内する。

「麺料理、とお伺いしましたので――魔術鍋シークサミンでございます!」

 金、銀、古びた茶色。三つの鍋が並ぶ。

「蓋を閉めれば一瞬で沸騰。さらに――」

 店主の目が光る。

「最新型の金と銀は、三十分で“八時間煮込んだ状態”になります!」

 龍拓は即座に眉を寄せた。

「速すぎると、味が暴れませんか? 濃くなりすぎたり――」

「ご安心ください!」

 店主は金の鍋の蓋を持ち上げた。

 取っ手の近くに、小さなスピーカーと二つのダイヤル。

「右が時間、左が水位。設定した水位になればアラームが鳴ります!」

 龍拓の目が、職人みたいに細くなる。

「……アラームで“煮詰まり”を止められるわけか。賢いな」

 シュリルはキラキラした目で金の鍋を見る。

「つまり凄い鍋だな! これにしよう!」

 リプイが値札を見て固まった。

「……十二万ケッセフ」

「おお、いける!」

「いけないわよ!」

 リプイがシュリルの肩を掴む。

「私たちの手持ち、理解してる!? 他にも買うの!」

「でも龍拓に最高の――」

「最高の前に破産よ!」

 龍拓は古い茶色の鍋へ移動し、値札を読む。

「こっちは六万。違いは?」

 店主は歯切れ悪く答えた。

「旧型です。最大出力は“一時間で五時間相当”。保温機能もありません」

 龍拓は即答した。

「それで十分」

 シュリルと店主が同時にポカンとする。

 龍拓はリプイを見る。

「予算は?」

「……五万に抑えたい」

「じゃあ、交渉しよう」

 リプイが店主へ一歩詰める。

「五万で」

「いきなり一万値下げは――」

「売れ残ってるんでしょ。旧型だし」

 店主が黙る。

 数秒、負けたようにため息。

「……分かりました。今回のお題は五万で結構です」

「やった!」

 リプイが小さくガッツポーズをした。

「あとはどんぶりだな」

 龍拓が言うと、店主は食器コーナーへ案内する。

「こちら一流の職人から仕入れた――」

「安いので」

 リプイが即答した。

 店主のテンションが露骨に落ちる。

「……では、こちら」

 乱雑に積まれた棚。

「全部、三百ケッセフです」

「最高!」

 リプイが迷いなく掘り始める。

 結局、シュリルは赤、リプイは緑、龍拓は黒。

 三人がそれぞれ選んだ“色”が揃うと、妙にパーティーっぽくて、龍拓は少し笑った。

「合計、五万九百ケッセフになります」

 会計を済ませ、商品はアイテムボックスへ。

 三人は店を出た。

「ありがとうございました」

 扉が閉まる。

 店主は表情を変え、無線のようなデバイスを取り出した。

 指が迷いなく動く。

「シファ様。奴らは旧型の魔術鍋と麺料理用のどんぶりを買っていきました」

 声がねっとりと甘い。

「シュリルという勇者は、値切らないと買い物ができない程度に財布が軽いようで……国の代表になる器には思えません」

 デバイスの向こうで、女が笑った。

『フフフ……わかったわ。じゃあ一旦、後回しでもいいかしら。ご苦労様♡』

 店主は、嬉しさで口元を歪めた。

「シファ様の頼みとあれば、何でも――」

 その声は、店の奥へ溶けて消えた。


 市場へ戻る道すがら、リプイが先導する。

「次は食材。龍拓が麺を作る材料を揃えましょう」

「頼む。粉と卵と――“コシを出すやつ”が欲しい」

「コシ?」

「麺がラーメンになるための、最後のピースだ」

 シュリルが胸を張る。

「材料調達は俺に任せろ! 良い店を知ってる!」

 シュリルが案内したのは、古い古民家みたいな店だった。果物や魚、野菜が外に並んでいる。

「ここの食材は旨いぞ! それに値段をよく負けてくれる!」

 シュリルが店へ入って叫ぶ。

「ヤ―ハン! いるか!」

 不機嫌そうな顔で、筋肉質の白髪の老人が出てきた。

「相変わらず声がでかいのぉ……」

 ――が、次の瞬間。

「リプイちゃん!?」

 顔が花みたいにほころんだ。

 ヤ―ハンはリプイの手を握って上下にぶんぶん振る。

「ありがとうのぉ! 張り薬で腰が一発で軽くなったぞ!」

「良かった。効いたみたいで安心したわ」

 そこで、ヤ―ハンが龍拓を見て目を細める。

「ほほう。初めて見る顔じゃ。もしや……リプイちゃんの彼氏!」

「違うわよ!」

 リプイが即否定する。

「今日から一緒のパーティーになった龍拓。料理人なの」

「初めまして。龍拓です」

「リプイちゃんに手を出すなよ」

「出しませんよ!」

 龍拓が即答すると、リプイが耳まで赤くなって俯いた。

「……もう」

 ヤ―ハンは咳払いして、レジ横の粉の山を指さした。

「麺の材料はここじゃ。左から、ケッマハザーク。ケッマフーガ。アブッカッツォ」

「味見、できます?」

「この状態で!? 普通はやらん……が」

 ヤ―ハンがリプイを見る。

 リプイは手を合わせて、お願いの目。

「……しょうがない。今回だけ特別じゃ」

 スプーンを受け取り、龍拓は粉を少し舐める。

(強力粉)

次。

(薄力粉)

最後。

(……アルカリ)

 龍拓の拳が握られ、静かにガッツポーズ。

「いける。麺、作れる」

「何が分かったの?」

「これ、麺を“ラーメンの歯ごたえ”にするやつだ」

 シュリルがよく分からない顔をする。

 龍拓は短く言った。

「アルカリが、生地を締める。コシが出る」

「なるほど!」

 シュリルは、分かったふりをした。

 リプイが話を戻す。

「卵も買いましょう。ボーフの卵ね」

「ボーフ?」

「この世界では、鶏みたいなのをそう呼ぶの」

 店の奥から卵が運ばれてくる。

「いくつにする?」

「煮卵も作る。アイテムボックスの食材は一週間だっけ」

「だいたいね」

「じゃあ……三パック」

 シュリルが物欲しそうな顔をする。

「俺、煮卵好きなんだよな。タンパク質にもなるし」

「……五パックにしよう」

 リプイが財布を覗いて、小さくため息。

「ギリ、いける」

 会計は少し安くなった。ヤ―ハンのお礼らしい。

 店を出る前に、ヤ―ハンが龍拓に言う。

「その格好のままだと、役人に目をつけられる。着替えたほうがええぞ」

「さっきミルコにも言われた」

 リプイが龍拓の耳元で囁いた。

「異世界から来ました、なんて言えないでしょ」

 龍拓は自分の黒いシャツを見下ろし、ようやく現実を受け止めた。

「……確かに」

 近くの服屋で、町民が着るような革製の黒い服に着替える。

 鏡の前の龍拓は、ようやく“この世界の住人”っぽくなっていた。

「これで少しは目立たない」

「少しはね」

 リプイが財布を見て、またため息。

「あ~あ……もうこんなに減っちゃった。またすぐクエスト受けないと」

 シュリルが笑った。

「いいじゃねぇか。俺はレベルアップした。試すチャンスだ!」

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