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ラーメン屋の店主、異世界で最高の出汁を探す  作者: 髙橋彼方
第一章『グランドセントピードのまぜそば』
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グランドセントピードのまぜそばEND

 話を聞き終えると、リプイの口が開いたまま止まった。

「そんな魔法、聞いたことない……。国全体を覆うバリアを突破できる力って……」

「強そうだな。一度手合わせしてみたい」

「何考えてんのよ、この単細胞!」

 龍拓はポケットからスマートフォンを出し、電源を押す。

 当然、圏外。

「……ネットは無理か」

「手鏡みたいなの、どうしたの?」

「スマートフォンってやつ。調べものとか通話ができる……本来はな」

 龍拓は写真アプリを開き、昨日スクショした画像を表示した。

 狐を抱く白い着物の女神の絵。

「これ、神社で見た女に似てる。多分、祭られてた命婦白狐(みょうぶびゃっこ)様」

「つまり、神様級が動いたってこと……?」

「で、龍拓。お前は神社で何を願った?」

 シュリルに言われ、龍拓はハッとする。

「新しいジャンルのラーメンスープ……そのためにここへ来た、のか」

 龍拓はムカデの胴体を見る。

 “旨味”の記憶が蘇る。

 胸の奥が熱い。

「龍拓はラーメンのために来たんだな! ますます食いたくなった!」

『ぐうぅぅぅぅ』

 シュリルの腹が盛大に鳴った。

「そのラーメンには何が必要なんだ?」

「スープと麺。あと鍋とか調理器具。水もいる」

 龍拓はリュックを下ろし、チャックを開けて調味料を並べる。

「調味料はある程度揃ってる。……問題は道具と麺だな」

「道具ならあるわ」

 リプイがローブの内ポケットから黄色いキューブを出し、地面に投げた。

『ポォォォン!』

 破裂音とともに、鍋・フライパン・包丁・まな板、そして紋章の描かれた白いマットが現れる。

「簡易的だけど、アイテムボックス(・・・・・・・・)に調理器具が入ってた」

「アイテムボックス……本当にゲームかよ。で、そのマットは?」

「携帯型タヌー。紋章から炎が出るの」

「コンロってわけだな」

 シュリルが胸を張る。

「麺の代わりにシシュールを使えばいい!」

「馬鹿! 形が似てるだけでしょ!」

「シシュールって何だ?」

「見せた方が早い! 行くぞ!」

 三人は森の脇道へ進む。

 岩がいくつも転がる場所で、シュリルが岩を持ち上げた。

「ほら、いっぱいいる!」

≪キュイィィィイ!≫

 三十センチほどのミミズみたいな生き物。口に鋭い牙が二本。

「うぅ……気持ち悪……」

「こいつらを岩に叩きつけて食う。簡単にタンパク質が取れる」

 シュリルは掴み上げ、岩に叩きつけた。

『パァン!』

 体液を出して動かなくなる。

「噛まれないように注意しろ」

 龍拓も真似るが、シシュールが暴れて手首を狙う。

「危ない! 早く叩きつけろ!」

『カブッ!』

「痛っ!」

 噛まれた勢いのまま叩きつける。

『パァン!』

 血が滲む。

 シュリルが顔色を変えた。

「大丈夫か!?」

「浅い傷……でも、牙、やべぇな」

「リプイ!」

「マガペ!」

 リプイの杖先から花が咲き、蜜が傷口に垂れる。

 傷がみるみる塞がった。

「すげぇ……」

「回復魔法は一流なの。それ以外はからっきし(・・・・・)だけどね」

「ちょっと!」

 リプイが睨む。シュリルは笑う。

「さあ龍拓、食ってみろ!」

 龍拓は牙を抜き、恐る恐る啜るように口へ運んだ。

(……アルデンテ?)

 噛むほどに、ほどよい塩気と弾力。

 ペンネのような食感。

(茹でれば、麺になる)

 龍拓は思わず笑みをこぼした。

「イケる。これ、麺として使える」

 リプイが引きつった顔をする。

「それ……麺……?」

「信じて。料理にすると化けるやつだ」

 シュリルは次々と岩をどけ、シシュールを集めていく。

「これだけあれば三人分だ!」

「三人分!? 私も食べるの?」

「意見は多い方がいい」

『ぐぅぅぅぅぅ』

 リプイの腹が鳴る。

 本人は顔を赤くして誤魔化した。

「決まりだな! 俺は水を汲んでくる!」

「分かった」

 リプイがアイテムボックスを呼び出して道具を仕舞い、シュリルは樽を持って川へ走っていった。

×  ×  ×

 龍拓はまな板の上でシシュールの頭を落とし、手早く下処理をする。

「茹で時間は二分……」

「おーい! 戻ったぞ!」

 シュリルが樽を抱えて帰ってきた。

 ――が。

 龍拓は目を見開く。

「……さっきより小さくなってないか?」

「ああ。俺はタンパク質を摂取すると肉体が強化される。

 でも摂れないと、この筋肉が自分を食い続けるんだ」

「……つまり」

「放っとくと萎んで死ぬ!」

「軽っ!」

 リプイが頭を抱える。

「この人、本当に大事なことは後で言うのよ……。初めて会った時なんて栄養失調みたいに倒れてたんだから」

「でも、そのお陰で俺たちパーティー組めた! 運命だろ!」

「好きで運命にしないで!」

 龍拓はシュリルの体を見て、焦る。

(悠長に出汁を煮てる時間はないな)

「……今回はスープは後回し。早く作れるやつにする」

 龍拓は鍋に水を入れる。

「リプイ、火を頼む」

「分かった。龍拓は魔力がないから紋章を起動できないと思う」

 リプイが携帯型タヌーに手をかざす。

「ハガナテエッシ!」

 紋章が光り、蒼い炎が出る。

「火力ってどう上げる?」

「呪文を唱えるだけ――でも魔力が……」

「いいから教えて」

「……ラロット、って言うの」

 龍拓は即座に手をかざす。

「ラロット!」

『ボワァァァ!』

 炎が激しく燃え上がる。

 リプイが固まった。

「……え?」

「ハハハハ! 魔法の才能も龍拓の方がありそうだな!」

「うるさーい!」

 龍拓は鍋へシシュールを入れ、二分茹でる。

 菜箸で硬さを確かめ、引き上げる。

「よし」

 龍拓は一匹、啜る。

『ズズ……』

(狙い通り。歯ごたえ、完璧)

 龍拓は皿に盛り、フライパンに油を引いた。

「シュリル、グランドセントピードの身をくり抜いてくれ」

「任せろ!」

 シュリルは断面に両手を突っ込み、黒紫の身を引きずり出す。

『グチュッ……』

「軽く水で洗って、フライパンへ」

『ジュワァァァ!』

 煙とともに、海老のような香りが立ち上る。

 シュリルは涎を垂らした。

「腹が……暴れてきた」

 リプイも、悔しそうに匂いをチラチラ見ている。

 龍拓は手早くほぐし炒め、料理酒、塩コショウ、オイスターソース、海苔、ホアジャオ油で味をまとめる。

(生臭さを消して、旨味を前に)

「よし、決まった」

 茹でたシシュールに合わせダレをかけ、切り身をチャーシュー風に焼いてのせ、海苔を散らす。

「完成。……グランドセントピードのまぜそば(・・・・)だ」

「まぜそば? ラーメンじゃないのか?」

「今回は時間がない。スープは次だ。まぜそばも旨い」

 シュリルは即座に混ぜ、豪快に一口。

 ――止まった。

 思考が、完全停止。

「……旨い」

 さっきまでの大声はどこへやら。

 魂が抜けたみたいな一言に、龍拓は小さく笑った。

 シュリルは無心でかき込み、あっという間に完食する。

『ボンッ!』

 筋肉が光り、体が一回り大きくなった。

「すげぇ! この量でここまでパンプできるのか!」

 リプイの腹が鳴る。

『ぐぅぅぅ……』

「食べないのか? 人生損してるぞ!」

 リプイは皿を見つめ、顔を引きつらせながら混ぜる。

 でも一口目が、どうしても怖い。

「……だ、だって、元はアレよ?」

「分かる。分かるけど、食ってみろ。ちゃんと料理だ」

 龍拓がそう言うと、リプイは目を閉じて、震える手で一口運んだ。

 ――噛んだ瞬間。

(……え)

 タレの深み。

 シシュールの心地いい弾力。

 ホアジャオ油の香りが鼻を抜ける。

(……悔しい。ムカつくくらい、旨い)

 リプイは悔しそうな顔のまま、二口目を食べてしまう。

 そして三口目。

「……っ」

 皿が減るたびに、リプイの眉間のシワが深くなる。

(気持ち悪いはずなのに。口が止まらない……!)

 ついにリプイは観念して、頬を膨らませながら食べ続けた。

「……おいしい」

「だろ」

「……悔しいけど」

 シュリルは既に食べ終えて、二人を羨ましそうに見ている。

 龍拓は視線に気づき、自分の皿を差し出した。

「食っていい」

「本当か!?」

「ああ。来る前に飯は食べた」

 シュリルは子どもみたいに笑い、またがっついた。

 龍拓は二人の食べっぷりを見て、胸の奥が熱くなる。

(ここなら――俺が求める“新しいベース”に辿り着ける)

「おい、見てくれ!」

 二人がシュリルを見ると、体中の血管が波打ち、胸板がドクンドクン動いている。

「俺の筋肉が、かつてない喜びをしてる」

「筋肉が喋るな!」

 リプイがツッコミながら、内ポケットから青い眼鏡みたいなデバイスを取り出してかけた。

「……え、ステータスが跳ね上がってる。しかも、2レベル上がってるし」

 レンズ越しに、シュリルの頭上に数値が浮かんで見える。

『レベル33 攻撃力65 守備力25 魔力13 スピード42』

 シュリルは満面の笑みで龍拓を向いた。

「なあ、龍拓! 俺らとパーティ組もうぜ!

 俺が食材調達する! だから、お前はこれからも美味い飯を作ってくれ!」

「……いいのか?」

「当たり前だ! 俺は強くなれる。お前は新しい出汁に近づける。最高じゃないか!」

 龍拓は少しだけ黙り、そして頷いた。

「分かった。よろしく頼む」

「決まりだな!」

 二人は固い握手を交わす。

「あと、今度こそラーメンってやつ食わせろよ」

「ああ。もちろんだ」

 龍拓は空を見上げた。

 ――ここから始まる。

 俺の、最高の出汁探しが。


第一章『グランドセントピードのまぜそば』END

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