リヴァイアサンの魚介豚骨ラーメン5
モービルに先導されて入った途端、ドーム内全体から一同はピリッとした刺すような視線を感じた。
「おい、アイツら人間じゃねぇか?」
「なんでこんな所に!」
シュリルたちを睨む魔族の戦士たちの表情は、威嚇と同時に何処か物悲しさを感じさせた。
「モービル、一体どういうことだァ!」
野太い怒鳴り声がドーム後方から聞こえると、戦士たちは大急ぎで道を開けた。
「なんだ?」
シュリルたちは目を凝らして、戦士たちが整列している先から歩いてくる巨大な筋肉の塊を眺めた。
「はぁ……」
モービルは面倒くさそうに、深いため息を吐いた。
「人間がこの聖域に入るなんて言語道断! 場所を知られた以上、生かして返す訳にはいかない!」
シュリルたちに向かってくる筋肉の塊は、顔が牛、上半身がゴリラに漆黒の大きな翼、下半身はケンタウロスのように馬の足が四本生えていた。
「ミザー、客人に失礼だぞ」
モービルの注意にミザーは不適な笑みを浮かべた。
「客人だぁ?人間がここに居るだけで空気が穢れる」
ミザーは右腕を大きく振りかぶった。
「おい、やめろ!」
「面白くなってきた!」
焦って止めようとするモービルをシュリルは背後に退かすと、両腕を大きく開いた。
ほほう。このデカブツ、止めるつもりなのか。
シュリルは全身に力を込めて、深く息を吸うと、体を鋼鉄化させた。
「鋼鉄化!」
「さぁ、来い!」
「ほざけぇ!」
ミザーは黒光りしたシュリルの胴体を目掛けて、思いっきり拳を振り下ろした。
『キイィィィィィィン!』
甲高い金属音に、ドームに居た全員が一斉にシュリルへ注目した。
ミザーの拳はシュリルの胴体全体を覆っていた。
「効かねぇな」
シュリルはミザーに向かって笑みを浮かべていた。
対してミザーは痛めた拳を庇うように抑えた。
なんて硬さだ! この猿、一体何者なんだ!?
「おい、どうした! もう終わりなのか?」
シュリルの煽りに、ミザーは背中から手斧を出した。
「そう来なくちゃな! 筋肉斧!」
シュリルは自身の両腕を変形させて、斧に変えた。
「ちょっと! 何煽ってんのよ!」
「二人とも止めるんだ!」
必死でリプイとモービルが二人を止めようとする中、龍拓はミザーの体を舐め回すように眺めている。
「あの牛ケンタウロス、どんな味するんだろう……」
ボソッと聞こえた龍拓の声に、リプイは目を見開いた。
「こんな時に一体、何考えてんのよ!」
睨みあっていたシュリルとミザーは、足を思いっきり踏ん張ると、お互いに物凄い速度で突進した。
「真っ二つにしてやる!」
「やってみろ!」
ミザーがシュリルに向かって、手斧を振り下ろすその時だった……。
「そこまで!」
ドーム内に年配の女性の声が響き渡ると、ミザーは体を硬直させて、動きをピタッと止めた。
「なんだ?」
龍拓が声の方を見ると、そこには白い着物の上に茶色いローブを羽織った黒髪の三つ編みで、狼のような耳が生えた二十歳ほどの女が立っていた。
ミザーは声を聞くや否や、動きをピタッと止めて、女の方を見た。
「預言者様!」
急いでミザーがその場で跪くと、続くようにモービルと兵士たちも一斉に預言者へ跪いた。
預言者は龍拓に向かって指さすと、笑みを浮かべた。
「貴方が龍拓だね。待っていたよ」
その場に居た皆が一斉に注目すると、龍拓は緊張で顔を引き攣らせる。
なんかスゲー見られてる……。
預言者は足に力を込めると、思いっきり飛び上がった。
『バシュッ!』
風を切る音と共に一瞬で龍拓たちの方へ移動すると、静かに着地した。
「私はナヴィ。ここでは預言者と呼ばれている」
ナヴィは笑顔で龍拓に右手を差し出した。
「あ、どうも……」
困惑しながら龍拓も手を出して、硬い握手を交わす。
「早速だが、お主とヤーハンは私と別室に来てくれ。リプイにはモービル、シュリルにはグーファが付いてくれ」
リプイとシュリルは自分たちの名前を呼ばれて、目を見開いた。
「なんで私たちの名前を?」
リプイの質問にナヴィは優しく微笑んだ。
「既に見たからよ」
ナヴィの言葉に、ヤーハンは笑みを浮かべた。
「じゃあ、預言通りに行くんだな!」
「それはこの子たち次第さ。確定した未来なんて存在しないからね」
ナヴィが兵たちの方を見ると、奥から西洋の甲冑を着た、虎の獣人グーファが出て来た。
「訓練は手筈通りで宜しいでしょうか?」
「ええ。思いっきりやってちょうだい」
「分かりました」
ナヴィはその場で両手を突き出すと、ボソボソと何かを唱えた。
『バギィンッ!』
金属が激しくぶつかった様な音と共に、白い鏡のような円形のワープゲートが現れた。
「これは白魔法!?」
既に失われた筈の強力な古代魔法を目にして、リプイは感激して見入っていた。
「では皆、あとは頼んだよ」
ナヴィが振り返って手招きすると、ワープゲートに龍拓とヤーハンとナヴィの三人で入っていった。
モービルとグーファとミザーは、ゲートが消えるまで深々とお辞儀をして見送った。




