表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラーメン屋の店主、異世界で最高の出汁を探す  作者: 髙橋彼方
第三章『リヴァイアサンの魚介豚骨ラーメン』
11/20

リヴァイアサンの魚介豚骨ラーメン4

 ヤーハンは店の奥、本棚の前で立ち止まった。

 年季の入った青い本を引く。

『ガチャ』

 本棚が横にスライドし、隠し通路が口を開けた。

「え、なにそれ」

 龍拓が素で驚く。

「秘密基地だ!」

 シュリルがテンションを上げる。

「静かにせぇ」

 ヤーハンが先に入ると、壁のランプが順に点いた。

 通路の壁には白い奇妙な文字が描かれている。

 リプイが目を細めた。

「これ……古代魔族語アティック・シェド

「ほう。まだ読めるか」

 ヤーハンが感心する。

「魔族語?」

 龍拓が聞くと、リプイは頷いた。

「研究機関で、遺跡資料をちょっとだけ」

 シュリルは首を傾げる。

「俺は一文字も分からん」

「でしょうね」

 リプイが即答した。

 行き止まりに大きな魔導陣が刻まれていた。

 ヤーハンは肩越しに言う。

「三人とも、ワシの肩を掴め」

「え、怖くない?」

「今さら何を言う」

 三人が肩を掴むと、ヤーハンは魔導陣に手をかざした。

「ラトゥース」

 光が弾け、視界が白くなる。


 風の音。葉の揺れる音。

 澄んだ空気が鼻に入った。

 四人は森の中に立っていた。

 足元には、さっきと同じ魔導陣。

「ここが裏山?」

 リプイが信じられない顔をする。

「私が知ってる裏山は、採掘と伐採で禿山のはず……」

「外からは禿山に見えるよう、細工してある」

 ヤーハンが淡々と言う。

「見つかれば、また削られるからの」

 龍拓が眉を上げる。

「誰が隠してる?」

「魔族じゃ」

 シュリルが足を止める。

「……魔族って、まだ居るのか」

「居る」

 ヤーハンは短く答えた。

「魔王に嫌気が差して逃げたやつらもいる。ここは、そいつらの居場所でもある」

 リプイの顔が引き締まる。

「……じゃあ、ここは国に知られたらまずい」

「そういうことじゃ」

 ヤーハンは歩き出した。

「来い。余計なことは考えるな。今日は“勝ち方”だけ覚えろ」

 森を進む。

 やがて霧の向こうに黒い門が見えた。

 門の向こうに、古い邸宅の影。

「……あれ?」

 龍拓が息を呑む。

 空気が違う。港とは別の“重さ”がある。

 ヤーハンが門へ向かい、刻まれた七芒星に手をかざした。

 紫の光が灯る。

『ゴゴゴゴ……』

 門がゆっくり開く。

 その先に立っていたのは、黒髪で角を二本生やした褐色の男。

 紫のエナンを纏っている。

 リプイが目を見開いた。

「……モービル先生?」

 男は穏やかに笑った。

「久しぶりだね、リプイ。……そして、ヤーハンさん」

「生きとったか」

「なんとかね」

 シュリルが龍拓の耳元で小声になる。

「先生って言ったぞ」

「言ったな」

 モービルは龍拓へ視線を移した。

「君が龍拓だね。話は聞いている」

 龍拓が背筋を伸ばす。

「……俺が?」

「うん。包丁が反応したと」

 ヤーハンが横から言う。

「検査してやってくれ。危ない段階じゃ」

 モービルは頷き、邸宅の中へ手招きした。

「入ろう。ここから先は、外に漏らさないでね」

「もちろん」

 龍拓が即答する。

 リプイも頷いた。

「……秘密は守る」


 邸宅の中は大聖堂のように広かった。

 壁画には、魔界から逃れた者たちが人間と手を取り、魔王へ立ち向かう姿が描かれている。

「……ここ、すごい」

 リプイが小さく呟く。

 モービルは歩きながら言った。

「僕たちは、ずっと待っていた。太陽の力を扱える者を」

「太陽?」

 龍拓が首を傾げる。

「魔王が最も嫌う属性だよ」

 モービルは笑った。

「そして、君の中にその反応がある」

 少し進むと、床に魔導陣が浮かび上がり、柱状の台がせり上がった。

「ここに手をかざして」

 モービルが言う。

 龍拓は恐る恐る手を伸ばした。

『バチバチッ』

 電流のような音。

 黄色い稲妻が腕にまとわりつく。

「うわっ」

 反射で引こうとしたが、モービルが静かに制した。

「まだ動かさないで。害はない」

 稲妻は腕から肩へ、胸へ。

 やがて黄色い光が、体を包む膜になる。

 龍拓は目を見開いた。

「……あったかい」

 干したての布団みたいに、妙に落ち着く熱。

 ヤーハンが口元を上げる。

「やっぱりな」

 モービルも表情を緩めた。

「太陽属性――確定だ」

「俺が……?」

 龍拓は自分の手を見る。

「そんな、急に言われても」

 シュリルが羨ましそうに言った。

「カッケェな。稲妻」

「そこ?」

 リプイがツッコむ。

 モービルは龍拓の背に軽く手を当て、光を落ち着かせる。

「体に戻すよ。制御は訓練で覚える」

 光がすっと引いていく。

 龍拓は息を吐いた。

 手のひらが熱い。

「じゃあ……あの包丁を使うのに必要なのは」

「太陽の扱い方」

 ヤーハンが引き取る。

「そして“食われない握り方”だ」

 モービルは頷いた。

「訓練場へ行こう。君はまず、力を出すより“止める”ことを覚える」

「止める?」

「そう。暴走したら終わりだからね」

 シュリルが腕をぶんぶん回し始める。

「訓練場! 早く!」

 モービルは苦笑して、地下へ続く階段を示した。

「こっちだよ」

 四人は階段を降りていく。

 薄暗い廊下の先に、魔導陣が刻まれた大扉があった。

 モービルが手をかざす。

「リフトアフ」

『ゴゴゴゴ……』

 扉が開いた。

 巨大なドーム。

 天井には人工の太陽が灯り、屈強な魔族たちが稽古に汗を流している。

 シュリルが目を輝かせた。

「すげぇ……!」

 龍拓は唾を飲み込む。

(ここで、俺は“勝ち方”を覚える)

 そして思い出す。

 港で嗅いだ、あの匂い。

(待ってろよ、リヴァイアサン)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ