リヴァイアサンの魚介豚骨ラーメン3
「私の家でアンタたち何してんのよ!!」
寝起きのリプイが台所へ突入し、蒸気と匂いに咳き込む。
「ゲホゲホ……もう勘弁して!」
視界が晴れると、シュリルの変化に目を見開いた。
リプイはデバイスを掛け、シュリルをスキャンする。
『レベル49 攻撃力120 守備力115 魔力18 スピード56』
「……攻撃力120」
リプイの声が震える。
「国代表勇者選手権の出場基準を大きく上回ってる」
「国代表……?」
龍拓が聞き返す。
リプイは一瞬迷ってから、短く言った。
「三十三年に一度、魔王が目覚める」
「魔王!?」
「魔王城へ続くゲートが現れる。でも通れるのは六人だけ」
龍拓は言葉を噛み締める。
「……六人で魔王へ」
「そう。だから各国は代表の勇者パーティを二組選ぶ。三人一組で、合計六人」
シュリルがスープを飲み干しながら言う。
「じゃあ俺らが勝ち抜けば、魔王に会えるのか!」
龍拓の目が、嫌なほど輝く。
「……魔王って、どんな出汁を出すんだろう」
「食べる気!? どんな神経してるのよ!」
リプイがツッコむ。
龍拓は肩をすくめた。
「勝てばいい。勝ち方は、俺が考える」
リプイは現実の方へ話を戻す。
「でも今の時点で、私たちは四番目」
「下から二番目か」
「一位はアミル、二位は炎使いのレハバ、三位が植物使いのレーシン。
五位は泥使いのボーツ。ポイント差は僅か」
シュリルが腕を組む。
「じゃあ狩るしかねぇな」
「狩るならS級以上」
リプイが言い切る。
「S級を三体倒せば、追いつける」
龍拓が頷く。
「なら、次は魚介だ」
シュリルが図鑑をめくり、指を止めた。
「なぁ。俺、久しぶりに魚が食いてぇ」
龍拓とリプイが同時に顔を上げる。
「リヴァイアサン……」
「正気!? さっき見たでしょ! S級の中でもトップクラス!」
シュリルは笑った。
「だからだ。魔王へ行くなら、あれくらい倒せなきゃ話にならねぇ」
そして龍拓を見る。
「龍拓。きっと旨いぞ」
龍拓の目が、静かに燃える。
「……魚介豚骨、やってみたい」
リプイは深くため息を吐いた。
「どうせ止めても無駄ね」
シュリルが腕を突き上げる。
「決まりだ。次の標的はリヴァイアサン!」
龍拓が小さく頷く。
「でも、さっきのままじゃ獲れない。ヤーハンの言う通り、“勝ち方”が要る」
その名を出した瞬間、リプイが魔術包丁に視線を落とした。
「……あの包丁、起動しちゃったのよね」
「した」
「なら尚更。ヤーハンに教えてもらうべきよ。今のままだと、あなたの身が持たない」
龍拓は静かに言った。
「行こう。――勝つために」
リプイの家を出て、三人は町の外れへ向かった。
目的地は、食材屋を兼ねた小さな店――ヤーハンの店だ。
「ヤーハンのところに行くのか? ……あの一撃、教えてくれるのか?」
歩きながらシュリルが言った。
「教えてもらうのは龍拓よ。あの包丁、放っておけない」
リプイが即答する。
「俺も関係あるだろ。リヴァイアサン、殴れなかったし……」
「だから、勝ち方を作るの。殴る前に死にたくないでしょ」
龍拓は腰のあたりを押さえた。
包丁に触れた右腕の重さが、まだ残っている気がする。
「俺、あの包丁……ちょっと危ない気がする」
「気がする、じゃない。危ないの」
リプイは真顔で言った。
「下手すると魔力を吸い切られて死ぬ」
「死ぬ!?」
龍拓が目を見開く。
シュリルは、逆に軽く頷いた。
「まぁ、そういうのって大体死ぬよな」
「軽い!」
「軽くないわよ!」
店の前に着くと、木札がぶら下がっていた。
『準備中』
シュリルが肩を落とす。
「休みか?」
「たぶん昼寝」
リプイが慣れた口調で言い、引き戸に手をかけた。
「お邪魔しまーす」
中は涼しく、奥の椅子にヤーハンが座っていた。
棒アイスを片手に、気持ちよさそうにしている。
「あ~……うまい……」
「起きてるじゃない!」
リプイがツッコむ。
ヤーハンは顔を上げるなり、目を細めた。
「おお、リプイちゃん! 会いに来てくれたのか!」
「用があるの」
「冷たいのう!」
次にシュリルを見ると、ヤーハンは露骨にため息を吐いた。
「なんじゃ……おまえさんも居るんか」
「なんだよその反応!」
「うるさい」
最後に龍拓へ視線が移った瞬間、ヤーハンの目つきが変わった。
棒アイスを置き、ゆっくり立ち上がる。
「……包丁を触ったな」
「え」
龍拓が固まる。
「当たりだ。こやつ、顔に出るタイプじゃ」
リプイが腕を組む。
「ヤーハン。龍拓が魔術包丁を間違えて触っちゃった。右腕がオレンジに光ったの」
「ほう……。選ばれたか」
「選ばれた?」
龍拓が聞き返す。
ヤーハンは棚から水を出して飲み、言葉を選ぶように続けた。
「包丁は道具じゃ。だが、魔力を扱う道具は“持ち主”を選ぶことがある」
「……怖い言い方するな」
「怖い話じゃ。甘く見ると死ぬ」
シュリルが割って入る。
「要するに、龍拓は才能があるってことだろ!」
「早とちりするな、原人」
「原人じゃねぇ!」
ヤーハンは龍拓に指を向けた。
「龍拓。今のままじゃ、その包丁に食われる」
「食われる……」
「魔力を吸う。制御できんと、最後は空っぽじゃ」
龍拓は喉を鳴らした。
嫌な想像が浮かぶ。
でも、同時に――あの切れ味が、頭から離れなかった。
「……使いこなせるようになれば?」
「調理が早くなる。戦いにも役立つ。だが代償は“命”だ」
ヤーハンは言い切り、少しだけ笑った。
「だから教える。ワシが責任を持つ」
リプイがほっと息を吐く。
「お願い。リヴァイアサンに挑むなら、絶対必要」
ヤーハンは頷いた。
「そもそも、今のシュリルじゃ倒せん」
シュリルが反射で反論しかけるが、港の記憶が先に刺した。
「……分かってる」
「なら話は早い」
ヤーハンは店の奥へ向かった。
「ここで教えると店が壊れる。移動するぞ」
「どこへ?」
「裏山だ。昔、勇者たちが使ってた訓練の場所がある」
シュリルが目を輝かせる。
「訓練! いいね!」
リプイは小さく呟いた。
「……やっと“勝ち方”に近づける」




