甘き日常
春の陽光が庭に降り注ぐ朝。
ラヴェル公爵邸は、嵐の後の静けさと花々の香りに包まれていた。
ヴァルディアは書斎から出て、ルミエールの手を取り、庭を散策する。
しかしその手は離れない。
ルミエールが少しでも歩幅を変えようものなら、すぐに指先を絡める。
「……ルミエール、どこへも行くな」
低く甘く、響く声。
「……ヴァルディア様、朝の散歩ですよ?」
ルミエールは微笑みながら抗議するが、その手の強さに自然と頷いてしまう。
庭の花壇の前で立ち止まるルミエール。
スノードロップが風に揺れていた。
「この花、覚えてますか……?」
「ああ、覚えている」
ヴァルディアの声は柔らかく、しかし目は彼女から一瞬も離れない。
そして、周囲を気にせず、ルミエールを抱き寄せる。
その様子をリュシアン侯爵家から、たまたま訪れた兄アントワーヌが目にする。
「……ヴァルディア殿、昼間から……こ、これは……!」
(ヴァルディア殿、完全に拗らせてる!)
思わず声を詰まらせる兄。
もはや、日常のルミエールの表情はいたって平然。
「お兄様、どうか見なかったことに」
ルミエールが微笑むと、ヴァルディアは低く囁く。
「ルミエール、目を離すな。例え、兄上であろうと、俺以外の者の目に触れさせるな」
堅物な騎士団長のヴァルディアのイメージが崩れ、アントワーヌは完全に引いた。
「……ヴァルディア殿、そこまで!?ルミエールの事を……」
しかしヴァルディアは真顔で、静かにルミエールを抱き寄せる。
「……お前は俺のものだ、ルミエール」
小さく首を傾げる彼女に、ヴァルディアの額が触れる。
「どこへも行くな。
俺の腕の中から、絶対に離れるな」
ルミエールは頬を赤らめながらも、確かな安心と幸福に胸がいっぱいになる。
庭の花々も、穏やかな日差しも、二人だけの甘い時間を祝福するかのようだった。
アントワーヌは思わず目を逸らす。
(……完全に手遅れだな、この二人……まぁ、兄としては妹を大事にしてくれて、何よりだが)
心の中で呟きつつ、兄は静かに庭を後にした。
ヴァルディアは再びルミエールの手を強く握り、優しい笑みを浮かべる。
「よし……これで、俺の世界は完全に守られている」
嵐の後の平穏――
だが今度は、甘く熱い愛で包まれた日常が、二人の間に訪れていた。




