第3話|証拠と告白
離れの書斎に、二人だけが残された。
ルミエールは、卓上に置かれた離縁届を前に、息を整える。
冷静に見える自分の心が、わずかに波打っていることに気づきながらも、迷いはなかった。
「……どうしますか、これ」
紙を指先で軽く触れながら、ルミエールは問いかける。
ヴァルディアは背後から静かに歩み寄る。
視線は離縁届を捉えたまま、だがその奥に微かな感情の揺れが見える。
「お前次第だ」
低く、だが揺るがない声。
ルミエールは息を呑む。
「燃やすか……それとも、ヤギに食べさせるか」
小さく微笑む。
それは緊張を和らげるためでもあり、敵への小さな意趣返しでもあった。
ヴァルディアの指が、わずかに紙に触れる。
「……俺はお前の判断を信じる」
その声には、冷徹な日常の影はなく、ほんの一瞬、心が解けたような響きがあった。
ルミエールは紙を折り、慎重に火にかざす。
炎が文字を舐め、紙が縮む音が静かな書斎に響く。
だが、完全に燃やさず、半分だけを灰の下に残す。
証拠は消えたが、二人だけの確認の痕跡は残る。
ヴァルディアは彼女の行動を黙って見つめ、胸の奥で独占欲が燃え上がるのを感じていた。
(……本当に、俺のために)
言葉には出さない。
だが、その視線は彼女を貫き、守りたい衝動を隠せなかった。
指先がわずかに震えるのを、ルミエールはかすかに感じ取る。
ルミエールは顔を上げ、微かに息をつく。
「これで……安心できます」
ヴァルディアはゆっくりと彼女に近づく。
指先が触れる距離。
互いの呼吸がかすかに重なる。
「……もう、俺に触れさせぬ者は、誰もいない」
低く、確信を帯びた声。
ルミエールの胸が小さく熱を帯びる。
守られるだけではない、互いに信頼し合う距離。
書斎の静けさの中、二人の間に確かな絆が芽吹いた瞬間だった。




