第5話|朝の距離
朝の光が、天蓋越しに淡く差し込む。
広い寝台。
互いに背を向けたまま、夜を越えた。
触れてはいない。
だが、離れてもいない。
ルミエールはそっと目を開ける。
すぐ背後に、規則正しい呼吸。
昨夜、何度も寝返りを打ちかけては、止めた。
距離を保つことが礼儀だと思った。
だが指先が、布越しにわずかに触れている。
ほんの僅かな接触。
離そうと思えば、簡単に離せる距離。
それでも――離れていない。
その時、背後で小さく息が変わる。
「……起きているな」
低い声。
目は閉じたまま。
ルミエールは小さく息を整える。
「はい」
短い返事。
指先が、わずかに動く。
逃げるでもなく、絡めるでもなく。
ただ、確かめるように。
ヴァルディアの指が、ほんの一瞬だけ強く触れた。
それだけ。
強く握ることも、引き寄せることもない。
だが、昨夜よりも迷いは少ない。
「肩は?」
「痛みはありません」
沈黙が落ちる。
朝の静けさが、二人の間をやわらかく満たす。
「……離すな」
ぼそりと落ちた声。
命令の形をしているのに、どこか違う。
ルミエールは小さく笑う。
「はい」
今度は、少しだけ指を絡める。
ほんの少し。
それだけで十分だった。
外では警備の足音が行き交う。
嵐は終わっていない。
けれど、公爵家の主寝室の天蓋の下で夫婦としての距離は、確かに縮まっていた。




