第3話|速やかな誓い
襲撃の翌朝、両家の当主とごく限られた証人のみが、屋敷内の小礼拝堂に集められた。
外では警備が強化されている。
門は閉ざされ、招待客も祝福の喧騒もない。
静かな決断だった。
「本式は、情勢が落ち着いてから執り行う」
リュシアン侯爵の言葉に、ラヴェル公爵が頷く。
「だが、婚姻は本日成立させる」
異論はなかった。
ヴァルディアは迷いなく答える。
「承知しました」
ルミエールは一瞬だけ目を伏せたが、やがて顔を上げる。
「……はい」
その声に震えはない。
選んだのは、自分だ。
礼拝堂に朝の光が差し込む。
簡略化された儀式。
神官の話は短い。
だが誓いは、軽くない。
「汝、ルミエールを妻とし、生涯守り抜くことを誓うか」
ヴァルディアの視線が彼女を捉える。
昨日の傷が、脳裏を掠める。
白い衣装に滲んだ赤。
一瞬でも遅れていたらという想像。
指輪を持つ手が、わずかに止まる。
「……誓う」
低く、はっきりと。
その声は、礼拝堂の静寂をまっすぐに貫いた。
指輪が、彼女の指に滑り込む。
その瞬間だけ。
外の緊張も、警備の気配も――
すべてが遠のいた。
視線が絡む。
「ルミエール」
名を呼ぶ声は、昨日よりも近い。
「俺の名のもとに守る」
短い誓い。
だが揺るぎない。
彼女の胸が、静かに熱を帯びる。
「……はい、ヴァルディア様」
神官が婚姻成立を告げる。
拍手はない。
華やぎもない。
だがそれは確かに、両家の正式な結びつきだった。
ヴァルディアはそっと彼女の手を取り、軽く額へ触れる。
儀礼の所作。
だが、指先がほんのわずかに強くなる。
――二度と、傷ひとつ負わせない。
無言の誓いが、そこに重なる。
礼拝堂の扉が開かれる。
外気が流れ込む。
警備の緊張は続いたままだ。
嵐は去っていない。
それでもーー
彼女は、もう正式に彼の妻だ。
ならば、彼女に触れたことを後悔させる。
ヴァルディアの瞳が、静かに鋭さを帯びる。
婚姻は成立した。
だがこれは終わりではない。
――本当の戦いは、これから彼女を奪おうとするすべてに向けられる。




