第4話|両家の決断
リュシアン侯爵邸の重厚な会議室。
厚い扉が閉ざされ、外の気配は完全に遮断されている。
リュシアン侯爵とラヴェル公爵は、長卓を挟んで向かい合っていた。
空気は静かだが、緊張は隠しきれない。
「皇太子が名指しした以上、これは意思表示と見てよいでしょう」
リュシアン侯爵の声は低い。
ラヴェル公爵はゆっくりと頷いた。
「放置すれば既成事実を積み上げられる。
フォルティエ公爵家も沈黙しているのが不自然だ」
短い沈黙が室内を包んだ。
「――婚姻を急ぐ」
結論は早かった。
「両家の同意のもと、正式に発表する。
皇太子とて、他家の内政に露骨には介入できまい」
理に適った決断だった。
だがその裏にあるのは、娘を守るという一点。
リュシアン侯爵は静かに言う。
「娘を……頼む」
ラヴェル公爵はヴァルディアへ視線を向けた。
「異論はあるか?」
室内の視線が一斉にヴァルディアへ向けられる。
「ありません」
迷いのない即答。
会談が終わった後、廊下で、アントワーヌがヴァルディアを呼び止める。
「ヴァルディア殿!」
穏やかな笑み。だが目は真剣だ。
「妹を頼みます」
その一言に、空気が少しだけ張る。
「妹は……強いようでいて、案外無理をします」
ヴァルディアは一瞬だけ視線を逸らし、すぐに戻した。
「言われるまでもありません」
低く、揺るがない声。
アントワーヌはわずかに目を細める。
「……そうでしょうね」
短い沈黙ののち。
「あなたが選んだなら、ルミエールは後悔しない。
私はそう信じています」
ヴァルディアは何も答えない。
ただ、その横顔は揺るぎない決意を湛えていた。
その夜ーー
両家は正式に合意する。
婚姻は速やかに進められることとなった。
静かな決断。
だがそれは、皇太子への明確な宣戦布告。
そして、引き返せない道の始まりでもあった。




