第2話|微妙な距離
屋敷の廊下には、午後の光がゆるやかに差し込み、壁に影を落としていた。
ルミエールはそっと足を進め、ヴァルディアの姿を探す。
彼は庭を見渡すように立っていた。
冷たい氷青の瞳は変わらず鋭い。
だが、ルミエールの視線に気づいたかのように、わずかに眉を動かす。
(……反応した?)
胸の奥がぎゅっと熱くなる。
戦場で見せる“鬼”の顔とは違う、ほんのわずかな日常の優しさ。
その距離感に、心がざわめく。
「ルミエール」
低く呼ぶ声。
振り向けば、彼は普段通りの端正な横顔を見せている。
「何か用か?」
短く、冷徹な声音。
だが、先ほどの反応が頭から離れない。
ルミエールは、軽く頭を下げた。
「その……少し、庭を散策しておりました」
彼は黙って視線を外さず歩き出す。
自然とルミエールも後を追う。
午後の光が二人の影を長く伸ばす。
庭を散策するルミエールの周りで、春風に小さな花びらが舞う。
「足元に気をつけろ」
低く落ちる声。
振り向くと、ヴァルディアが半歩後ろで静かに見守っていた。
その距離感は自然で、圧迫感はない。
だがルミエールには、守られている実感が確かに届いた。
(……やっぱり、この人は信頼できる)
しかし、未来の記憶がちらつく。
皇太子の陰謀、彼が闇に堕ちる瞬間、守れなかった私——。
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
「危ないところだったな」
手の届きそうな距離で、低く告げる。
その声に、微かな笑みが混ざっているようにも感じられた。
ルミエールは視線をそらさず、静かに息を吸う。
(未来を変える——守る)
午後の光の中で、二人の微かな距離感は確かに縮まり、胸のざわめきは静かな決意へと変わっていった。




