12
天を突く光の柱が、ゆっくりと収束していく。
耳鳴りが引き、世界を塗り潰していた白が薄れていく。
そこに残っていたのは、あまりにも単純な結果だった。
異形の化け物。
干渉によって“武器”へと堕とされた木々。
殺すために咲かされ、噛み砕くために形を与えられた花と草と蔓。
それらは等しく――
焼け焦げ、
断ち切られ、
引き裂かれ、
肉片と灰へと変わっていた。
元の質量を思えば、残骸はあまりに少ない。
ほとんどは影すら残さず、完全に消滅したのだろう。
光は、存在そのものを“処理”していた。
森は傷を負っている。
地面は抉れ、幹は裂け、空気には焦げた匂いが微かに残る。
それでも――今の森は、奇妙なほど静かだった。
まるで、長い悪夢から目覚めた直後のように。
あるべき姿を、ほんの一瞬だけ思い出したかのように。
その中心に。
ショウは、立っていた。
姿勢は最初から一切変わっていない。
呼吸も、鼓動も、何ひとつ乱れることなく、同じ速さで流れている。
足元の円は既に消え、光の痕跡すら残っていない。
だが――
彼がそこに立っているという事実そのものが、この場の“答え”だった。
対して。
ニコは地面に片手をついていた。
指が土を掴み、肩が大きく上下する。
荒い息が喉を鳴らし、肺が悲鳴を上げているのが、離れていても分かった。
ショウは、ゆっくりと歩み寄る。
「……気ぃ、済んだか?」
打ち負かした敵に向ける言葉としては、あまりにも温かい。
そこにあったのは勝者の声音ではない。
変わらず――ニコを“友達”として認識している声だった。
「……はぁ……はぁ……」
ニコは一度、息を吐き――
次の瞬間、堪えきれないように笑い出した。
「は、ハハッ……アハハッ! こりゃないよ!」
顔を上げる。
魔法の代償によって、その表情は疲弊と消耗で歪んでいる。
それでも、口調も態度も変わらない。
「こんなの……争いにすらなってない。いくらなんでも理不尽でしょ、これは」
息を整え、軽い調子で続ける。
「それで? どうする? 俺を殺す?できればそれは止めてほしいんだけど――なんて」
「殺さねぇ」
即答だった。
ただ――と、ショウは続ける。
「お前が正気に戻るまで、ある場所に閉じ込める。まぁ、心配すんな。俺も一緒にいてやる」
少し照れたように、けれど揺るがない意志を込めて。
「正気に戻るまで?」
ニコは呆れたように、首を振る。
「何度も言わせるなって。俺はこの世界の誰よりも正気だよ。ただ価値観が多数と違うだけ。社会の刷り込みが、上手く機能しなかっただけさ」
やれやれ、と肩を竦めて。
「ニコ……お前の魔法、干渉は――お前自身にも効果がある」
「何を今さら。そりゃそうでしょ。俺は俺自身も強化できる」
「そうじゃねぇ!」
ショウの声が、痛みに擦れる。
「お前を……お前自身が、歪めて変えちまってるって話だ!」
「俺自身が、俺を干渉でおかしくしてるって?」
「そうだッ!」
ニコは目を丸くし、ほんの一瞬だけ、本当に驚いた顔をした。
逡巡、僅かに考える
「でも結局、それも俺の望んだ結果だよ」
それでも結論は変わらない。彼もまた、揺るがない。
「なりたい自分になっただけ。それに俺は今の俺自身に何の違和感もない、不満もない」
そして、淡々と続ける。
「正気と狂気の定義は?ショウはさ、自分が洗脳されてるって言われて、自分の感情すべてに疑いを持てる?」
「泣くのも、笑うのも、怒るのも――それは本来の自分のものじゃなくて、何かに操作された結果だって?」
「自我を否定するのは、自殺と同じだよ。っていうか、そんなこと言い出したら、すべての人間が――」
「ごちゃごちゃうるせぇッ!!」
ショウが叫んだ。
堪えていたものが、溢れた。
瞳に浮かんだ涙が、夜の光を反射する。
「いいから……」
震える声で、言う。
「俺と、一緒に来い」
ニコへと、手を差し伸ばす。
その真っ直ぐな瞳に、ニコは不思議な既視感を覚える。
そこに在るはずのない――
それでも確かに“正義”と呼びたくなる何かを、見た気がした。
ニコは、差し伸ばされた手に、自らの手を伸ばし――そして。
「……いやだね」
その手を、振り払った。




