騎士と竜と、自転車と
はじめまして。よろしくお願いします。
私の5つ年下の従妹は一風変わった乗り物恐怖症に悩まされている。彼女いわく三輪車や自転車といった、跨いで乗る乗り物に乗ろうとすると、"守れなかった”という得体の知れない後悔に襲われて激しい動悸がし、乗れないのだという。
小さな頃なら転ぶのが怖いと思うのは当然だろうし、大きく成長した後でも誰かを轢いてしまわないかと恐れを抱くのはわからないでもないけれど、三輪車の時代から"守れなかった"という後悔の気持ちを抱くなんて不思議な話だ。
もしや、これは前世の因縁か何かが理由では?等と、いくら私が夢で見るほどアニメや異世界転生小説大好きでも、年下の従妹にそんなボケツッコミはしない。だって従妹は自転車に乗れないことでクラスメイトに揶揄われ、日常を生きるのに多少の不便を強いられ困っているからだ。
そんなある日のことだった。私は母に頼まれ叔母の家に旅行土産を届ける途中で、翡翠色のボディが美しい自転車に乗っている少女に従妹の身内かと声をかけられ、今から公園に来るよう言伝を頼まれた。
自転車に乗れない従妹と乗れる少女。二人で自転車に乗る練習でもするのかな?と好奇心に駆られ、帰りに公園に立ち寄った。
公園であったはずの場所には、真っ黒に焼けただれた大地に立つ翡翠の竜と白銀の鎧をまとった騎士。
「誰よりも勇敢な竜騎士が、こんなところで立ち止まってちゃダメだ、相棒」
「あなたは相棒であると同時に大事な友だった。どうしてあのとき私を魔獣から庇った?死ぬべきは私だったのに」
「悪いな。竜は身勝手で誇り高い種族なんだ。相棒を守り抜く栄誉を君に譲りたくなかったのさ。罪滅ぼしって訳でもないが今日こそ乗れるようになろう、相棒」
「無理だよ。君が血で染まるのを体が忘れてくれないんだ」
「私を信じろ相棒。ここに魔獣はいない」
翡翠の竜の瞳には空を統べる王者らしい力強さがあった。白銀の騎士は竜の瞳に圧されるように、ゆっくりと目を閉じた後、竜の背にまたがった。
「また君と会えるなんて」
自分を乗せた翡翠の体を確かめ、相棒の大きな翼や跨いで乗る竜の体から伝わる力強い鼓動を懐かしむ白銀の騎士に竜は満足そうに微笑んだ。
「さぁ、行こう相棒!」
白銀の騎士を乗せた竜が風を切って大空を飛んでいく。私がそんな白昼夢を見た日、従妹は自転車に乗れるようになったと叔母が電話で教えてくれた。従妹は友達と自転車でどこまでも駆けていけるようになって喜んでいるという。
ここまで読んでくれてありがとうございました。




