第7話 破られた日常
深夜の特殊課資料室。薄暗い照明の下、蓮は古い事件簿をめくっていた。
――十四年前、紅い月の夜に発生した《狼族暴走事件》。
何度読んでも、そこには曖昧な記録と伏せられた黒塗りばかりが残されている。
「こんな重要資料まで黒塗りって……勘弁してくれよ」
ため息をついた瞬間、扉がきしむ音がした。
「おや、こんな時間に勉強熱心じゃないか、蓮」
メリッサ課長が湯気の立つ紙コップを片手に立っていた。普段のようなゆるい笑顔だが、蓮の資料を一瞥すると目がわずかに鋭くなる。
「……昔の事件を確認しておきたくて」
「ふむ。まぁ、好きにやればいいさ。だが…君は時々、背負い込みすぎる癖がある。ほどほどにね」
それだけ言って紙コップを置き、メリッサは背を向けた。
しかし去り際、ふと足が止まり――
「何かあったら、必ず言いなさい。皆んな仲間なんだから」
柔らかな声色を残して、課長は静かに去っていく。
蓮は胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じ、そっと資料を閉じた。
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翌日。
ルナはパーカーを羽織った学生服姿で、街の大通りの喧騒の中にいた。
隣には護衛役の カペラ と シリウス。
「ルナ、走るな。人が多い」
「いいじゃん別に〜! せっかく周りを気にせず過ごせるんだぜ?」
シリウスがクレープを頬張りながら言う。
「ほら見ろカペラ、ルナさんがあっちのゲーセン行きたいってよ」
「言ってません。勝手に代弁しないでください」
ツッコミの響く明るい空気。
ルナはひさしぶりの自由を楽しむように笑っていた。
「……こうしてると、なんだかガキの頃に戻ったみたいだ……」
ぽつりと漏れた言葉に、カペラは優しく目を細めた。
「普通に過ごせばいい。私たちが守るから」
ルナは照れくさそうに「ありがとな」と答えた。
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一方その頃――。
蓮とアランはパトロール中、偶然大通りに足を向けていた。
「蓮、今日は平和だしどっかでサボタージュしないか?」
「いや、やめとくよ、……」
(この前もアランの自由行動のせいでナツメにブチギレられたばっかりってのに……)
そこへ、見覚えのあるパーカー姿が跳ねるように走ってきた。
「お、アル……れ、蓮じゃねぇか! 昼間から街をぶらぶらしてるけど、サボりか?」
「サボってない!」
突然の“からかい”に蓮はむせる。アランが吹き出した。
「……プッ、蓮、この子誰だよ……?」
「僕の知り合いだ。って、アラン笑いすぎ」
アランが笑いを堪えているのに必死になっているスキにルナにも聞こえるように耳打ちをする。
(危ないんだから、護衛二人から離れないようにしておけ。あと、外でアルカナって呼ぶなッ!!)
蓮の必死の訴えに、ルナはまた笑っていた。
俺も、ルナが元気になってくれて良かったと思い、何か買ってやろうと思った、その瞬間だった。
――空気が揺れる。
突然、建物の屋上から“大きな影”が降ってきた。
ドスンッ!!
そこに現れたのは、以前倒した幹部のゴンザとその肩に乗っているのは血のように赤いコートを纏った男。
「見つけたぞ。狼の娘」
続いて、獣のような咆哮。
周りの民間人は、悲鳴を上げながら逃げている。
毛が逆立ち、腕には伸びきった爪。唸りながらルナへ向けて突進した。
「嘘だろ……!」
「蓮、来るぞ!構えろ!」
蓮は一歩前へ出る――だが、“蓮の姿”では本気を出せない。
紅月の介入により、護衛二人も別の刺客に足止めされているようだ。ルナは衝撃により気を失っている。
状況は最悪だ。
「アラン、構えろ!」
「了解ッ! 行くぞ『ビュート』!」
蓮は銃を構え、アランは自前のロボット『ビュート』に乗り込む。
紅月と警察の衝突が始まった。




