第6話 明るい夜
月の光がカーテンの隙間から差し込み、ルナの頬を照らしていた。
ベッドの上で何度も寝返りを打つ。目を閉じても、紅い月の残像がまぶたの裏にちらつく。
焼け落ちる家。倒れる影。伸ばした手の先に届かない声――。
「……っ!」
息を荒げて目を開けたルナは、額に汗が滲んでいることに気づいた。
「クソっ、寝れねぇ……」
呟きながらベッドから降り、靴を履く。
トイレに行くつもりだった。だが、廊下の奥、微かに灯る明かりが目に入る。
静かに扉の前に立つと、部屋の中から紙の擦れる音がした。
「……まだ起きてんのか」
小さく呟いて、ルナは軽くノックをした。
「入っていい?」
「いいよ。眠れないのか?」
淡々とした声。入室を促すような静けさがあった。
ルナは恐る恐る扉を開けた。
執務室の中は本と書類で埋め尽くされていたが、以外にも最新のゲーム機やテレビが置いてあった。
アルカナはの机の上の書類を閉じ、ゆっくりと顔を上げた。その横顔はどこか疲れていて、それでも優しい光を湛えている。
「……さっきの女医さん、リヴェルダって言ったか? あんた、色んな人から感謝されてるんだな」
アルカナはフッと笑う。
「感謝、か。あいつは世話焼きなだけだ。俺が手を焼かされてる方だよ」
「へぇ、意外だな。てっきりボスって感じでみんな従ってるのかと思ったぜ」
「従わせてるつもりはないぞ。信頼は、押しつけても意味がないからな」
ルナは椅子に腰を下ろしながら、ぼんやりとアルカナを見つめた。
「……なんでそんなに強いんだ?あの銃の女の人も相当強そうだけど。」
「答えは簡単。自分のために強くなろうとしたわけじゃない。誰かのために強くなろうとしたからだ。」
その言葉に、ルナはしばらく黙り込む。
やがて俯きながら小さく呟いた。
「……あたし、夢があるんだ。狼族も人間も仲良くなって、私も他の人を助ける側に周りたい。バカみてぇだけど、そうなったらいいなって思ってる」
「バカじゃない。お前のその夢は、俺たちが目指しているものとそう変わらない」
アルカナの声は穏やかで、ルナの胸に静かに染みていく。
しばらくの沈黙のあと、ルナは小さくあくびをした。
「……ちょっと眠くなってきた。ありがとな、アルカナ。おやすみ」
「あぁ、ゆっくり休むんだぞ」
扉を閉める直前、ルナはふと振り返った。
「なぁ、あんた……本当は怖い人じゃないんだ」
「……どうだかね」
ルナが去ったあと、部屋に再び静寂が戻る。
だがその静けさの中から、影がゆらりと揺れた。
「なぁボス、……あの娘、危なくねぇのか?」
暗がりから現れたのは『第五夢』のジャックだった。
アルカナは目を閉じたまま、短く答える。
「僕は決して見捨てないよ。それはお前たちが1番よくわかってるだろ?」
「なるほど、流石はボスだ。んで、今日はいい酒を持ってきたんだ。一緒に飲もうぜ。」
紅月関連のことを調べて疲れていることを察してくれたのだろう。
「明日も仕事なんだが……」
軽くため息を吐きつつもその言葉に乗ってしまった。
ランプの光で照らされた二人の影が踊っていた。




