第2話 夢の盟主
夕暮れの街を背に、蓮――いや、ドリーム・メイトの盟主『アルカナ』は静かに署を後にした。
通りの喧騒が遠ざかるころ、ふいに一台のタクシーが滑り寄る。
誰も呼んでいない。けれど、彼にはこの車の正体がわかっていた。
運転席の少年が片目を髪で隠しながら、柔らかく微笑み、帽子を被り直す。
「……お帰りなさい、盟主様」
助手席の女性は何も言わず、黙って蓮の鞄を受け取る。
彼女の所作は洗練され、まるで長年仕えてきた執事のようだ。
「いやぁ、待たせて申し訳ない」
アルカナは砕けた口調でそう言いながら、後部座席に腰を下ろす。
車内に流れる低いエンジン音が、どこか懐かしい。
タクシーは市街を抜け、人気のない区域へ。
錆びついたフェンスの前で停車する。
「今日も、平穏な一日でしたね」
運転手が小さく言う。
「……表向きはね」
アルカナはそう答え、扉を開けた。
立ち入り禁止の看板を越え、暗い階段を下っていく。
地下鉄のホームに降り立つと、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
灯りはほとんど無い。だが、足元のタイルが微かに光る。
ホームの奥、古びた鉄扉の前で見張りの団員が敬礼する。
「おかえりなさいませ」
「あぁ、ただいま〜」
扉を開けると、薄暗い通路が続いていた。
その先に見えるのは、異世界のような光景。
豪奢なホール――ドリームメイトの“地下拠点”。
ソファや観葉植物が並び、中央には巨大なテーブル。
まるで地上の豪邸をそのまま地下に沈めたような、異様な美しさ。
「アルカナ様がお戻りです!」
複数の団員が立ち上がる中、ひときわ派手な声が響く。
「遅かったね、ボス。会うのは2ヶ月ぶりぐらい?」
ぴょんぴょん跳ねながら走り寄ってきたのは、ドリームメイトの幹部でありハッカー――『第四夢』のネロだった。
軽口を叩きながらも、手には数枚のデータシートを握っている。
「落ち着け落ち着け。それより、紅月の動きは?」
「“例の計画”かもね。紅月は最近、何かの血液を探してるっぽい」
「……血液、か。」
アルカナの声が一瞬低くなる。
ホールの空気がわずかに張りつめた。
「特定は?」
「まだ〜。でも、奴らの動きには決まって法則性みたいなものがあるよ。」
「……そうか。」
アルカナは顎に手を当て、静かに考え込む。
その姿に団員たちは息を呑んだ。威圧ではなく、圧倒的な“存在感”――
まるでそこに立つだけで、場が締まるような感覚だった。
「よし、明日から動くか。紅月を泳がせて、確実に何か尻尾を掴む。……幹部の招集も忘れるな」
「「はい!!」」
命令が飛び交い、ホールが一気に活気づく。
アルカナはゆっくりと中央の階段を上りながらつぶやく。
(さて、今度は誰の夢を救うことになるのかねぇ)




