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第14話 檻の中の会話

目が覚めると、見知らぬ天井があった。

冷たい金属の台に寝かされ、両手首と足首を拘束されている。薄暗い室内には機械の駆動音と、消毒液の匂いが漂っていた。


「……ここは」


起き上がろうとして、拘束の存在に気づく。


「目が覚めましたか」


声は穏やかだった。

『感情が乗っていない』、まるで天気を告げるような平坦さ。


ルナは声がした方へ視線を向けた。

白衣を羽織り、赤いペストマスクを付けた男が、端末を操作しながらこちらに背を向けて立っている。振り返ることもなく、ただ淡々と言葉を続けた。


「暴れても無駄ですよ。拘束には魔素抑制の処置を施してあります」


「……あんたは、紅月の人間?」


男はゆっくりと振り返り、眼鏡の奥の目を細めた。

「はい、テラーと名乗っております。お会いできて光栄です」


「何が光栄だ。アタシをどうする気だ」


テラーは端末を置き、ゆっくりとルナの傍へ歩み寄る。


その動きには一切の焦りがなく、まるで実験の手順を確認するかのような落ち着き払った様子だった。


「あなたに痛い思いはさせたくない。必要なのは血液だけです。少し頂ければ、それでいい」


その瞬間、この男は狼族の血を狙っていると分かったが縛られている以上、対抗はできない。


ルナは、せめてもの抵抗で鋭い睨みをきかせた。

テラーは少し間を置いてから、静かに笑った。


「ははっ、そうですか。……では、少し話をしましょう」


白衣のポケットに手を入れ、一枚の写真を取り出す。

ルナの目に映ったのは――見覚えのある二人の顔だった。


「っ……!」

「リベラ協会の代表夫妻。あなたのご両親ですね」


胸が締めつけられる。

拳を握り締めても、拘束は外れない。


「……お前が、殺したのか」

「いえ、『私』ではありません」


テラーはあっさりと否定し、写真をしまった。


「ただ……あの夜を有効活用しようと考えた者がいた、とだけ言っておきましょう。『紅き月』の日。狼族が暴走した夜。あぁ、あれほど純粋な力を、私は他に知らない」

「力……? あれは力じゃない。あれは――」

「恐怖ですか?」


静かな問いかけに、ルナは言葉を失った。


「あなたにとってはそうでしょう。でも私には、あの夜こそが可能性に見えた。制御できれば、これほど完璧な力はない」


テラーは再び端末を手に取り、数値を眺めながら続けた。


「あなたの血液には、暴走の引き金となる特殊な魔素が含まれています。ご両親の遺伝子を色濃く受け継いだ、唯一の狼族の生き残り。十四年間、ずっと探していました」


「……利用するために?」


「変革のために、と言った方が正確ですね」


感情の欠片もない声だった。

それが、怒鳴られるよりも怖かった。

ルナは奥歯を噛み締め、再びテラーを睨みつける。


「アルカナが来る。絶対に来て、アンタも紅月も潰してくれる」


テラーはその言葉を聞いて、初めて表情が曇った。


「ドリームメイトの盟主、ですか」


少し考えるように顎に手を当て、それから穏やかに微笑む。


「厄介な事に来るでしょうね。……でも、それも想定内です」


そう言って背を向けたテラーの横顔に、ルナは言いようのない悪寒を感じた。


「来られる前に、準備を始めましょう」


機械の駆動音が高まり、室内の照明が白く輝く。


「安心してください。痛みは最小限に抑えます」


その言葉が、何より冷たかった。

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