第13話 情報屋
人気が少ない下町を進み、廃商店街の路地を進んでいくと小さなバーの明かりが見えてくる。
中に入り、お決まりの注文すると奥の部屋に案内される。
薄暗いバーの奥の個室、紫煙がゆっくりと天井へ溶けていく。
ソファに深く腰掛けたアルカナは、カップを傾けた。
ハーツは刀を綿でポンポンと手入れをしている。
すると、奥の扉が開いてスーツ姿で刀を刺し、煙草を咥えながら、黒猫を抱いて出てきた。
向かいに座った女は、指先で煙草を灰皿に押しつつも決して視線を逸らさない。
彼女の名は月宮華奈。23という歳で裏組織の情報屋の代表をしている。俺とは古い付き合いだ。
「今日はどんなご用件かな? Mr.アルカナ」
「紅月の拠点を知りたいんだよ」
単刀直入だった。
女は小さく息を吐く。
「……私は情報屋。紅月にも、あなたにも通じてる」
わずかに肩をすくめる。
「どちらかに肩入れするのは、割に合わない」
その瞬間、店の奥から続々と武器を持った大柄な男達が一歩前に出てくる。
「悪い、Mr.アルカナ。既に“そっち”を潰せって依頼を受けているのでね」
アルカナは反応しない。
ただ、静かにカップを口元へ運ぶ。
男が痺れを切らし、武器を振り上げた。
――次の瞬間。
鈍い音と共に、数人の男の体が床に崩れ落ちる。
横に座っていたハーツが、刀の峰をゆっくりと引き、いつの間にか月宮の後ろにいる。
店内が静まり返る。
アルカナはようやくカップをテーブルに置いた。
小さく、陶器が鳴る。
「では」
真っ直ぐな視線が、女を捉える。
「協力してくれるかな?」
女はしばらく黙ったまま、倒れた部下に視線を落とした。
それから小さく息を吐く。
「……昔より、随分やり方が強引になったな」
視線を上げる。
その瞳に、わずかな苦笑。
「いいわ。ただし今回だけ。借りにしておく」
__________________
重厚な扉が閉まる音が、室内に低く響いた。
警察庁上層部の執務室。
壁一面に掲げられた勲章と国章が、無言の圧を放っている。
「メリッサ・クロフォード」
低く、抑えた声。
「君は、自分の立場を理解しているな?」
彼女は直立したまま答える。
「……零位、ですねぇ……」
メリッサは少しため息を吐きながら答えた。
「そうだ」
机越しの男は書類を閉じる。
「零位――“ゼロス”は国家戦略級戦力だ。小国一つなら単独で制圧可能と見なされる存在」
声色がわずかに重くなる。
「ゆえに、国の許可なく戦闘を行うことは禁止されている」
男は一拍置いてから続けた。
「にもかかわらず、君はドリーム・メイトの盟主、アルカナと交戦した」
空気が冷える。
「アルカナは国指定の零位ではあるが、国の規則を守る男ではない。現時点では“犯罪者”だ」
「その相手に零位が無許可で動けば、大問題に発展する」
昼間なのに暗い部屋に沈黙が走る。
「現在、国内に確認されている零位は九名」
別の男の指が資料をなぞる。
一瞬、視線が上がる。
室内の空気が張り詰める。
「零位は抑止力だ。兵器ではない」
机に座っている男は最後に告げる。
「次は、許可を取れ」
「はぁ、分かりましたよ。善処しま〜す」
メリッサはフラフラ〜と退室し、扉が静かに閉まる。
室内に残されたのは、重い静寂だけだった。
男は椅子にもたれ、机上の資料に視線を落とす。
国内零位、九名。
アルカナ――組織活動多数 監視継続
中村⬛︎⬛︎--特に問題無し
メリッサ・クロフォード--厳重注意 規則違反多数報告
そして数名なぞっていた指先が、最後の報告書で止まる。
「……厄介な時期に登録されたな」
そこに記された名は、
突如現れた異端者。
だが、政府は九人目の零位認定を与えた。
零位――“アレク”と名乗る男。
(この男は、何者なんだ…)




