第11話 最強 対 最強
廃墟ビルの中層、かつてオフィスだったであろう広間に、乾いた銃声が反響する。
崩れたデスクの破片が弾け、柱の一部が削れ落ちた。
アルカナは身を低くし、柱から柱へと滑るように移動する。魔素を纏った銃弾が壁を貫き、背後のコンクリートを抉った。
撃ってきたのはメリッサだ。無駄のない射線、間合いを支配する正確無比な制圧射撃。退路を潰し、逃げ場を限定してくる。
アルカナも反撃に転じる。
一瞬だけ顔を出し、引き金を引く。銃声が重なり、火花が散る。だが、メリッサはすでに次の遮蔽物へと移動していた。
「……厄介だな」
互いに距離を取った瞬間、空気が変わった。
重圧。
目に見えない何かが、広間全体を押し潰すように満ちていく。
魔素だ。
アルカナの放つ魔素と、メリッサの魔素が正面から衝突する。床に亀裂が走り、天井から粉塵が落ちた。息をするだけで肺が軋むような圧力。
それでも、どちらも一歩も引かない。
魔素の圧がぶつかり合う中、メリッサが先に動いた。
床を蹴る音すら残さず、視界の端から一気に間合いへ踏み込む。
アルカナは反射的に身を捻る。
直後、頬を掠めるようにナイフが通過し、背後の柱に深く突き刺さった。コンクリートが砕け、ひび割れが走る。
「……っ」
躊躇がない。
殺し合いを前提にした動きだ。
アルカナは距離を詰め返し、銃を至近距離で構える。
だが引き金が引かれるより早く、メリッサは銃身を弾き上げた。銃声は天井を撃ち抜き、瓦礫が降り注ぐ。
その隙を突くように、ナイフが迫る。
アルカナは自らの刃で受け止め、弾かれた衝撃で後退する。足元の床が耐えきれず、崩れ落ちた。
互いに柱を挟み、銃撃戦が再開される。
一発一発が致命傷になり得る精度。遮蔽物は削れ、次第に使い物にならなくなっていく。
アルカナは魔素を銃弾に込め、壁越しに撃ち抜く。
メリッサはそれを予測していたかのように、射線から外れ、逆に跳弾を利用して反撃した。
「……やはり噂通りだ」
余裕を感じさせる声。
だがその声とは裏腹に、動きに一切の緩みはない。
魔素が再び膨れ上がる。
空気が震え、広間全体が軋み始めた。
次の瞬間、二人は同時に踏み込んだ。
距離が詰まり、銃は役目を失う。
刃が抜かれ、金属同士が激しくぶつかり合った。火花が散り、衝撃が腕に響く。柱を利用し、死角から死角へ。ナイフの軌道は速く、重い。
魔素の衝突で視界は白く染まり、広間は完全な土煙に包まれた。
その中で――
互いに全力の一撃が叩き込まれる。
轟音。
衝撃波と共に、粉塵が舞い上がった。
直後、ソリティアの無線が割り込む。
『テラーがヘリで逃げたました。追跡は困難です」
アルカナは一瞬だけ舌打ちし、後退する。ここに留まる意味はない。
メリッサも深追いはしなかった。
崩れかけた広間に、土煙だけが残される。
勝敗は、つかなかった。




