第9話 悪夢の始まり
夕方の大通りに、鋭い金属音が弾けた。
テラーの背後から生えた機械の腕が、ナイフを弾丸のように射出する。
一直線に迫る刃を、ハーツは半身で受け流した。
「――遅いな」
和風の口調で呟くと同時に、踏み込み。
一太刀でナイフごと機械腕を断ち切る。火花が散り、切断面が地面に転がった。
「なに……!?」
テラーは感情の揺れを見せ、残った腕を展開する。
「流石はドリームメイトの幹部だな。剣の太刀筋といい動きといい速すぎる」
残る二本の機械腕が絡み合い、同時に振り下ろされる。
ハーツは後退せず、剣を回転させるように振り抜いた。
金属が裂ける。
二本の腕が、根元から切り飛ばされた。
「まだやるか?何本でも叩き切って見せよう」
ハーツは挑発をしてみたが、テラーは冷静に言い放った。
「……いや、撤退だ」
即断だった。
テラーは気絶しているルナを抱え直し、煙幕を地面に叩きつける。
「さらばだ。ドリーム・メイト!」
視界が白く染まる中、テラーの姿は消えていた。
「……先に行ってくれ」
煙の向こうで、低く声がした。
ハーツは一瞬だけそちらを見やり、無言で頷く。
「御意」
剣を構え直し、ハーツはテラーの消えた方向へと走り出した。
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その頃、少し離れた路地裏では、ゴンザとアランの戦闘が続いていた。
「くそっ……しぶとすぎる!」
巨大なロボットの拳が、ゴンザを壁へと叩きつける。
だが、狼の毛に覆われた身体はすぐに起き上がった。
「ガハハッ! 効カン、効カンゾォ!!」
何度壁に叩きつけても、ゴンザは立ち上がる。
アランの額を汗が伝った。
――その瞬間だった。
ゴンザの身体が、ぐらりと傾ぐ。
見えない何かに打たれたかのように、明らかに動きが鈍った。
「……なんだ? 急に相手の態勢が崩れた……?」
疑問を口にするアランの前で、ゴンザは膝をつく。
「今だ!」
アランは迷わず拘束装置を起動した。
強力な網が展開され、ゴンザの四肢を絡め取る。
「ぐっ……!」
暴れようとも、拘束は解けない。
ゴンザは地面に押さえつけられ、完全に動きを止めた。
土煙の向こう、物陰に身を潜めていた蓮は、拘束されたことを確認して踵を返す。
「……よし」
短く息を吐き、走り出す。
アランの視界から完全に外れた位置で、無線を入れた。
『ソリティア、状況は?』
『アルカナ様、ハーツが追撃中です』
「了解。このまま追う」
通信を切ると同時に、蓮の姿が闇に溶けた。
次の瞬間、屋根の上に立っていたのは――アルカナだった。
「逃がさない」
静かな声。
その目は、すでにテラーの進路を捉えている。
夜風を切り裂き、アルカナは跳ぶ。
攫われた少女を取り戻すため、紅月の影を追って。
――物語は、さらに深い闇へと踏み込んでいく。




