05話 マジで爆する五秒前
『うわあああっ! ボクのせいで街がぁ! あああ、どうしよう!?』
――なーんて慌てたりしないって。ソルリーブラはちゃんと全話見たんだよ? 原作のとおりに白羊宮の星宮獣の爆発能力を封じればいいだけだって。
「大丈夫。アグリアードネの爆発をとめる方法はある」
「なんだって! よし、それを教えてくれ」
しかし暁斗がリーブラの星宮石の力を使ってアリアードネと戦うのが一話の内容だったはずなのに。まだ暁斗は力を使えないみたいなのはどういうことだ? いや、アニメの内容と不一致な所はあとで考えよう。
「レイラさん、君の処女宮の星宮獣ベーネダリアを使うんだ。アレの完全回復能力をアグリアードネにかければ、ダメージはキャンセルされて体は縮むし爆発も止まる」
「………石は持っている。でも使えないわ」
「ど、どうして?」
「処女宮のマスターになるには特殊な条件があるのは知っているでしょ。文字通り女でかつ乙女じゃないとなれないのよ」
「それがどうしたの? レイラさんなら……って、まさか!?」
「前にちょっとした気の迷いを起こしちゃってね。もう乙女じゃないわ」
ガーーン
「「そ、そんな………相手はだれ………」」
ボクと暁斗のセリフが仲良くハモった。
「もう生きていけない………このまま爆発で死んじゃおうか」
「ぐ………その考えに賛同しそうだ。まさかレイラさんがぁ!!」
相手が主人公でいつも一緒に居る暁斗じゃないとすると、マジで誰なんだ!
推しキャラヒロインが誰ともしれぬ相手としちゃってたなんて、マジつらすぎる!
「ちょっと、なに言ってるのよ! ゾディまで。あなた、そんなことで動揺するようなヤツだった? 前とずいぶん性格変わっていない?」
などとバカなことをやっている間にも事態は悪化してゆく。モヒカンは心底苦しそうに悶えて叫ぶ。
「くっそおおお、もう限界だ。マジで爆する五秒前! メフィストさん、俺は無事でもコイツらはとても生きていられねぇ。なんとかコイツらを守ってくれ!」
「「アニキぃ!」」
星宮獣の能力による攻撃は自分のマスターを害したり傷つけることはない、というルールがある。つまりこれから起こる大規模爆発に、爆心地にいてもモヒカンだけは無事ということだ。
それにしても、最悪セクハラ痴漢野郎のクセに仲間思いとは。ちょっといいヤツに思えるキャラづけするんじゃないよ。
「しかたないですね。で、レイラお嬢さんにゾディファナーザ。あなたたちも私と来なさい。このまま死にたくはないでしょう?」
くっ、たしかにブラックゾディアック幹部のメフィストの力ならば、これから起こる大爆発から逃げることは可能だろう。ここは捕まっても従うしかないか………
「断わるわ。サクラモリの一員として、ブラゾに助けられるワケにはいかない」
レイラさん!?
せまりくる死の予兆にも毅然と己を貫く彼女に、思わず見惚れる。
「それに、あの星宮獣の危険性を伝えできるかぎり住民を避難させなきゃならない。暁斗くん。悪いけど、あなたもサクラモリの一員なら付き合いなさい」
彼女は携帯を取り出し関係各所にアグリアードネの危険性と避難要請をテキパキ伝えてゆく。
死を前にしても冷静に。でも街の人々のために強くあるレイラさんは、どこまでもカッコよかった。
推せる! たとえ処女じゃなかったとしても、やっぱりレイラさんは最高のヒロインだ。ならばボクのやることは……!
「ゾディ、あなたはどうするの? この状況じゃブラゾに戻るしかないかしら」
「いいや、ボクは逃げない。全力でレイラさんを守ります!」
「はぁ? どうして私を? なんか性格変わってない?」
ボクは星宮石に全力集中。
「バッシュノード、いったん止まれ!」
ピタリ
止まった。やはり『巫女』と呼ばれるゾディファナーザの星宮獣コントロール能力は強い。ならば次だ。
「星宮獣能力制限解除。体長二十メートルまで解放!」
星宮獣の真の大きさはだいたい四十メートルほど。しかしその大きさまで開放しては、マスターの脳への負荷が大きすぎて昏睡してしまう。
その力を抑えて開放する制限解除でも、人の脳で安全に解放できるのは十メートル級ほど。それ以上は体長が大きくなるほど制御が難しくなり、その限界は個人の能力によるところが大きいのだ。
ズン
バッシュノードの体長が二十メートルになった瞬間、脳への負荷が一気に増した。バッシュノードの本来持っている破壊衝動が精神をむしばむ。
「ううっ、これはキツイ。気を抜いたら破壊衝動に心を支配されそうだ」
「さすが巫女。全星宮獣の中でもっとも制御の難しい獅子宮を二十メートルまで解放させ、なお大人しくさせられるとは。こうなっては、私もあなたに手出しが出来ない。ですが、これからどうするのです?」
「こうするんだ! バッシュ、アグリアードネをかち上げろ!!」
グオオオオオオオルルッ
ドガガガガガガガガガガガッ
破壊衝動のまま命令を下すと、バッシュはふたたび激しいラッシュ攻撃を再開した。ただし今度はアグリアードネの下に潜り、そこから上へ上へとかち上げる一方向に。
アグリアードネの巨大な体は押されて空中へ飛ぶ。
「それでどうするのです。アグリアードネが空中に浮き上がろうと、爆発の規模も範囲も変わらない。ま、この先は結果だけを見るしかありませんね。巫女、あなたが生き残ることを祈ってますよ」
メフィストはチンピラ二人とともに消えた。本当になんの前兆もなくスッと。
あいつのトリックスター能力か。あいつも石の所有者だったよな。たしか双児宮だったか。いや、今はアイツのことはどうでもいい。
ドサッ
モヒカンが完全に意識を失って倒れた。昏睡だ。
ならば爆発が来る。
アリアードネに目を向けると、ちょうど大きく丸い巨体がバッシュの真上に浮き上がったところ。そしてそのモコモコの白い毛が光輝き爆発の前兆を見せている。
ギリギリだけど間に合ったはず――間に合え!
「放て、バッシュ破壊光線!! みんな伏せて!」
グオオオオオオンッ
バッシュノードのたてがみが金色に輝き光の奔流が空中のアリアードネに突き刺さる。
バッシュ最大の技の破壊光線だ。その凶悪な破壊の光は、一発で一都市を消滅させるほどだと解説にはあったっけ。
その瞬間、アグリアードネも爆発した。
ぶつかり合うバッシュノードの破壊光線とアグリアードネの爆発。
勝ったのは破壊光線の方だった。
アグリアードネの爆発エネルギーは押し切られ、すべて上へ上へと空一方向へ向かい、巨大な炎の柱となってそびえ立つ。
「バイバイ、アグリアードネ。特大の花火になっちゃいなよ」
衝撃波のほとんどは上にいったものの、その余波は激しい突風となって巻き起こる。
地面に伏せるボクを、暁斗がその上に被さって衝撃波から守ってくれた。
ドゴオオオ………
轟音がやがて止んだころ、光の柱も消滅して消えてゆき、あとにはなぎ倒された崩れた建物のみが残った。
「やった……暁斗さん、ありがとうございます」
「ああ。しかし、君も星宮石持ちなんだな。あとで話を聞かせてもらうぞ」
どう言い訳したものか。
「っと、バッシュをもどさないと。戻れ」
さすがにこれ以上はバッシュノードのコントロールを続ける自信はない。ふたたび石の中に封印した。
「ああっ! レイラさん!?」
ふいに暁斗が大声を出した。反応してそちらを向くと、さっき消えたはずのメフィストがいた。しかも気絶したレイラさんを小脇に抱えて!
「もどってきたの? いつの間に……」
「漁夫の利をいただく絶好のチャンスですからね。さて、バッシュを収めた今なら、さすがの巫女も脅威ではない。あなたも来ていただきましょうか」
くっ、一難去ってまた一難。ここからどうする?