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41話 ゾディファナーザ

 ――深い闇の底から浮き上がるように、目を覚ました。


 「…………また、ここか。戻ってきたんだな」


 見渡すとそこは、いつかのドライブインの飲食スペース。

 僕の体も、華奢な女の子のアメリアじゃない。元の男の体、高見沢数志のものになっていた。

 そして僕の側には銀髪の異国装束の少女がいる。起きているのにその両目は閉じられている、不思議な雰囲気の少女だ。


 「君は………ゾディファナーザ?」


 「そうだ」


 「そろそろ説明してくれるかな。君は僕になにをしたんだ?」


 「その前に礼を言わせてくれ。よく、やってくれた。君はたまたまここに迷いこみ、都合よく巻き込んだだけの存在だった。それが全シナリオを最後まで完全に終えてくれるとは」


 「シナリオ? ………って、アレか」


 「そうだ。九柱の元破壊天使たちの破壊遊戯。元破壊天使たちを定期的に望むまま暴れさせる。それが私の使命であり、そのために存在している」


 「…………そうだったね。そして多くの命を」


 「だが、その命もよみがえる。時を戻す宝瓶宮(アクエリアス)能力(ちから)によってな」


 「『どうせ生き返るんだから、どれだけ殺してもいい』ドクター・ベウムも似たようなことを言っていたよ。でも、それでも、死んだ人たちは苦しんだろうね。お父さんの行いを見続けたレイラさんも」


 「その苦しみも、ただの夢となる。向こうの世界で間もなくな」


 糞っ、本当に『時を戻す』は無敵だな。彼女とドクター・ベウムのやった事にむかついてはいるものの、断罪しきれない。


 「その『向こうの世界』って、いったい何だったんだ。アニメの【星宮戦記ソルリーブラ】のキャラがいたり、かと思えばアーティストのレオナルド・シルヴァリオも居たり」


 レオナルド・シルヴァリオはソルリーブラの登場キャラじゃない。れっきとした現実世界のアーティストだ。なのに向こうの世界で星宮獣のマスターにされていた。


 「知る必要があるのか? おまえの見たもの、体験したこと、すべては夢だった。それで良いではないか」


 「巻き込んでおいて、それか。最後は命まで懸けて、とんでもない奴の後始末をさせられたっていうのに」


 「それは私が強制したことではない。君が自分の意思で戻り、君自身で始末をつけることを望んだ。その結果だ。もっとも私としては助かったがな」


 どうやら粘っても教えてくれそうもないし。

 元の世界と体に戻れたんなら、僕は僕の人生を生きるしかないか。

 それでも、心残りだけは聞いておこう。


 「アメリアはどうなったの? やっぱり死んだ?」


 「君の体だった娘の体は契約の一つ。死んでは違反になるので、私が介入して助けた」


 「介入………そんなことが出来たのか」


 「なにを今さら。バッシュノードの制御は私がここで行っている。あれは制御が外れれば世界最大の脅威となる。ゆえに私自身がマスターとなって手綱を握っている」


 「じゃあ僕がマスターになってたのは?」


 っていうかゾディファナーザだけど。でもキャラデザが違うのはなぜだ?


 「狂ったシナリオの修正を試みる間、偶然通りがかった君に一時的に私になってもらった。もっとも君自身がかなり上手くシナリオを収めてくれたのは嬉しい誤算だ」


 「狂ったシナリオ? レイラさんが処女を失って処女宮(ヴァルゴ)のマスターを取り消されたことと、暁斗が天秤宮(リーブラ)のプラーナキアを破壊されたことか?」


 「そうだ。私のかわりを務める条件はただ一つ。【星宮戦記ソルリーブラ】を視聴しており、ある程度の前提知識を持っていること。君が熱のあるファンであったことは幸運だった」


 こっちは不幸だったわけだ。いやソルリーブラの世界に行けたことは不幸だったと思いたくはないけど。上手く使われたようで面白くない。


 「でも、どうしてドクター・ベウムがアメリアの無事を契約に?」


 「ドクター・ベウムとの契約ではない。カノンという青年とのものだ」


 「カノン? 誰? どうしてその人がアメリアのことを?」


 「双児宮(ジェミニ)のマスターになった者だ。彼女の婚約者だそうだからな」


 ああっ! そうか相良(さがら)夏音(かのん)

 いや、それより『彼女の婚約者』だって? じゃあアメリアの正体は……!


 「アメリアはレイラさんのお姉さんのマリーベル!? で、でも、あの体は中学生くらいの子供で、とてもレイラさんのお姉さんには……!」


 「宝瓶宮(アクエリアス)の力で、あの年に戻したに決まっておろう。ついでに、あの世界での活動のために体を借りた。私の体は、ここからどこへも行けないのでな」


 そうか。レイラさんはずっとお姉さんを探していたけど、まさか一番近くにいたというわけか。


 「じゃあアメリア、いやマリーベルさんは、あっちの世界で目を覚ましたんだね?」


 「そうだ。こちらに預けていた彼女の精神体は、すでに向こうに送った」


 精神体………彼女の保護者らしい金髪の女の人か。

 そういえば姿が見えないけど、そういうことか。


 「あとはドクター・ベウムが望み通りの時間に時を戻せば、すべての契約は終了する。使命も果たし、私はしばしの休息をとる」


 「で、しばしの後は、また星宮石をばらまいて同じことをするわけか」


 「そうだ」


 糞っ、悪びれもしない。

 だけど、僕はもう彼女の使命とやらに関わるべきではないのかもしれないな。

 アメリカやら中国やら永田町やらが壊滅した向こうの世界も、時が戻って復活するみたいだし。


 「太一と優太……僕のツレは?」


 「自販機コーナーで眠ってもらっている。起こしたら、元来た道を引き返し真っすぐ行くがいい。くれぐれも逆を行かんようにな。助けてはやれん」


 逆を行ったらどうなるの!? 恐いよ!

 だけど、もう、そろそろ良いか。どうやら僕の不思議体験は終わったみたいだし。

 二人を連れて日常にもどろうかな。


 「じゃあね。君とは二度と逢いたくないよ」


 「二度と逢うことはない。君が生きている間は眠りの最中だからな」


 スッキリしなくてもハッピーエンドだ。

 【星宮戦記ソルリーブラ】のもう一つの物語を、リアル体験アクションゲームで見れたと思えば悪くない。

 僕はそのまま自販機コーナーに歩いていく。


 「星宮の巫女ゾディファナーザ。星の巡るその時まで眠れ。君の残した悪夢はオレが払う」


 なんとなくソルリーブラ最終回で暁斗が最終決戦前に言ったセリフを言ってみた。どこかスッキリしない気持ちを吐き出したかったのかもしれない。


 「フッ、それは私が失敗した世界の言葉だな…………ウッ!?」


 ふいに、ゾディファナーザの苦し気なうめき声が背中から聞こえた。

 振り向き彼女を見ると、苦しそうに頭をおさえてうずくまっていた。


 「ど、どうしたの?」


 「クッ、ヤツめ……ここにきて!」


 「もしかして君のシナリオが狂ったのか? 最後の詰めで」


 「その通りだ。………すまない。もう一度だけ手を貸してくれるか? 勝手だが、頼れるのは君だけだ」


 迷った。もうこの件からは離れようと決めたばかりなのに。

 だけど――


 「………わかった、これが最後だ。さっきのセリフじゃないけど、残った悪夢を払ってくる」


 やっぱり捨て置けないんだ。

 向こうの世界にはレイラさんと暁斗がいる。

 なにかヤバい事が起こったなら、確実にヤバい目にあっている。

 

 「それに……『さよなら』がまだだしね」


 「感謝する。では私の目を見ろ」

 

 ゾディファナーザは、はじめて目を開いた。

 その瞳は輝く黄金。

 その光を見ると、僕の意識は遠くなってゆく。


 ――いま行くよ。待っててくれ。

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