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38話 さよならサクラモリ

 バラバラバラバラ…………


 ボク達は今、長距離輸送ヘリに乗って、太平洋を横断している。

 目的地はもちろんニューヨーク州サリバン群ベセルのウッドストック・ロックフェスティバルだ。


 「まったく、東北からいきなりアメリカに渡るとか。俺ぜんぜん事態を教えてもらってないんだが、何があった?」


 暁斗は一人、まったく事情を知ることが出来なかったまま、ヘリに乗せられている。


 「今開催されているウッドストック・フェスに、新たな星宮獣があらわれる予兆があったんです。向こうのエージェントはすでに手を打っていますが、ボクたちは万一の事態のために向こうに行かなきゃならないんです」


 副操縦士(コ・パイ)席で通信を担当しているレイラさんが現地の状況を告げる。


 「たった今、ロックフェスの一時中断が告げられたわ。今ごろ向こうのエージェントが動いているはずよ。上手く事態を収めてくれれば良いわね」


 たしかに情報用スマホの映像には、ロックフェス中断で混乱しはじめている観客の姿がある。

 ボクの献策通りに事が進んだなら、向こうのエージェントがシルヴァリオから星宮石を取るべく動いているはずだ。どうか何事もなく終わってくれ。


 「しかしよりによって場所がウッドストック・ロックフェスか。行きたかったけど、とても許可は下りないと諦めたんだよな。何もなくてフェスが再開されたなら、少しくらい見て帰っても良いかな?」


 むっ? たしかにシルヴァリオから無事石をいただく事が出来たなら、フェスは再開される。そこからボクらが、フェスを見て回れる可能性は……


「長距離輸送ヘリですからね。燃料給油には数時間かかるはずですから、とんぼ返りとはいかないでしょう。待機の間、現地の状況視察とか提案してみても良いかもしれませんね」


 「それだ! 手が開くなら、その間フェスの状況観察だ。バンドのチェックしたいぜ!」


 「くっ! プログラム持ってくれば良かったです。情報室からフェス情報を何ひとつ持ってこなかったのは不覚でした」


 盛り上がるボクと暁斗に、レイラさんは冷ややかな視線を送る。


 「さすがに気を抜きすぎよ。まだ戦時待機の時間なのよ。今から終わったことなんて考えないで。それに星宮石を無事に提出された後でも、安定状態の確認の間は私たちに自由時間なんて許されないと思うわよ」


 やっぱ、そうだよね。距離は近くとも、生ロックフェスははるかに遠い。


 「待って。新しい連絡が入ったわ。…………なんですって! なにが起こっているの!?」


 「どうしたんだ、レイラさん」


 「ステージが中止勧告を無視して再会されたわ。それだけじゃない。プログラムを無視してステージに上がったのは……!」


 レオナルド・シルヴァリオか!


 情報用スマホを見てみると、中止勧告で混乱しているステージに、今まさにシルヴァリオがギターを携え登場したシーンだった。


 「くううっ、シビれるほどカッコイイ!!」


 観客(ギャラリー)の熱狂、声援も最高潮。

 政府の勧告を無視して登場、演奏だから、よけい燃える!


 「…………了解。こちらは継続して現地を目指します。その障害人物は完全武装の兵士を当てなければ、排除は不可能です。どうかお気をつけて」


 レイラさんはしばらく通信でやり取りをしていたが、やがて向こうからの通信を切った。どうやら、何が起こっているのかを聞き出せたらしい。


 「中止を勧告に行ったエージェントたちは、長い尻尾を持つ女にやられたそうよ。そして勧告に反発するスタッフたちが、シルヴァリオのステージを強行するらしいわ」


 「ミランダですか。どうやらドクター・ベウムはボクたちに楽をさせる気はないようですね」


 「マジかよ……たしかにこれはロックだが、今度ばかりはマズイぜ」


 「バカなことをしたわ。あそこには暗殺チームも控えているのよ。シルヴァリオは殺されるわ」


 なんとも味の悪い顛末。最大級の星宮獣出現を阻止するためとはいえ。

 しかしその後、レイラさんに届いたその結果は、大きく思惑が外れたものだった。


 「……なんですって! 暗殺チームまで全滅? その方法は……矢による狙撃ですって!?」


 シルヴァリオ狙撃のために待機していた暗殺チームは、どこからか飛来した矢によって、全員が射貫かれたそうな。


 「人馬宮(サジタリアス)ですか。そいつもあの場に来ているということは、ドクター・ベウムも来ているかもしれませんね」


 「ドクター・ベウムも本気か。シルヴァリオのステージを止められないということは、磨羯宮(カプリコーン)の顕現も止められないということだ」


 「くっ、それじゃあ十五万人のロックファンの命は……」


 みんな黙り込んだ。

 止められない惨劇の行く末に、大きな罪悪感を感じて。

 されどその静寂の隙間を縫うように「メェェェ……」と動物の鳴き声が響いてきた。


 「聞こえる………これはヤギの鳴き声?」


 「私にも聞こえるわ。でも高度二千メートルなのよ、ここは」


 「出現間近です。星宮の巫女のボクにはわかります。異世界でも歴代かつてない最大級に巨大な星宮獣の出現を」


 高いカリスマを持つロックスター。

 全世界に届くメディアネットワーク。

 それが組み合わされれば、無限成長タイプの磨羯宮(カプリコーン)はどこまでも成長する。

 つのる嫌な予感に、あせりは加速する。

 

 「パイロットさん。あと、どれくらいでウッドストック・フェスに着きます?」


 「間もなくアメリカ本土ですが、まっすぐ現地に行くわけにはいきません。現地の管制誘導に従って着陸し、現場指揮に従う形で作戦行動をとってもらわないと」


 まぁ、そうだよね。

 西海岸からニューヨークまではアメリカ本土を横断しなきゃだし。

 他国内での戦闘行為には、いろいろ制約がつくのは当然だけど。

 でも、これから出現する磨羯宮(カプリコーン)の星宮獣には、世界を滅ぼす力がある。

 この先の星宮獣の気圧に、それを痛いほど感じるのだ。


 「………そう、か。だけど、それを待っているわけにはいかないな」


 暁斗がボツリ言う。

 ひとり言のような、かすかな、小さなつぶやき。

 だけどそれは、ボクら全員の心を映したものだった。


 「いいのね? アメリア。暁斗くん」


 目をつむって小さくうなずく。


 「まぁ、やらなかったら後悔する時間もなさそうですしね。それにドクター・ベウムにとっても最終局面。となれば、ボクらもこれ以上合わせる必要はないでしょう」


 「決まりだな。桜の(もり)もこれまでか」


 走馬燈のように、サクラモリにお世話になった日々を思い出す。


 思えば、学校みたいな組織だった。


 みんなで何かを学び、みんなで何かを創ってゆく。そんな場所。


 大好きだった。終わりが来るなんて思いもしなかった。


 それでも――


 「み、みなさん、なにを?」


 慌てた調子でパイロットさんが問う。

 少しだけ感じる罪悪感。

 それをふりきるように言葉を残す。


 「ごめんなさい。終わったら必ず出頭します。だから……ボクたちを行かせてください!」


 レイラさんも「ごめんなさい」と言って処女宮(ヴァルゴ)の星宮石を取り出す。


 「星宮より来たれ、愛と慈悲と祈りの聖女。荒れ果てる大地、屍打ち捨てられる戦場に、無垢なる聖歌は響け。穢れた大地に癒しをもたらせ。祈りよ、天に届け地に届け人に届け。あまねく世界を花で満たせ。ベーネダリア!」


 レイラさんは出現させたベーネダリアの能力でヘリのハッチを開ける。

 解放されたハッチの向こうから、冷たい風が突き刺すようにふきすさぶ。

 まるでサクラモリのあたたかい思い出が、冷めて消えゆくよう。


 「さよならサクラモリ。ただいま卒業します」


 それでも振り向かない。

 思い出は足を止めるために持つものじゃない。

 明日への一歩を、ただ力強く踏み出すために、胸に秘めるものだ!


 「星宮より来たれ、猛威の権能。百獣震わす暴虐の獣王。金のたてがみ靡かせ咆哮轟かし、呼べよ嵐。震わせ大地。天地鳴動、驚天動地。獅子のほむらを掲げよ。バッシュノード!」


 グオオオオオオンッ

 ヘリの真下に、金のたてがみの黒獅子バッシュノードが咆哮をあげて顕現する。


 「みんな乗ってください。ウッドストック・フェスへ一直線です!」


 三人を乗せた黒い獅子は雄々しく飛び立った。


 

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